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「もっとF1を知ってもらいたい」ハースF1小松エンジニアによる初の著作『エンジニアが明かすF1の世界』に込められた思い

2019年05月15日 12:41  AUTOSPORT web

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リッチ・エナジー・ハースF1チーム 小松礼雄チーフレースエンジニア
リッチ・エナジー・ハースF1チームのチーフレースエンジニアを務め、オートスポーツwebでも毎戦コラムを執筆している小松礼雄エンジニア。F1の世界に身をおいて17年目のシーズンを迎えた小松エンジニアが、「F1をもっと知ってもらいたい」という思いを込めて1冊の本を書いた。それが、『エンジニアが明かすF1の世界』だ。

 小松エンジニアは、2003年に現在のメルセデスの前身であるBARホンダに入り、2006年から2015年まではルノーで活躍。2016年以降は、この年からF1に参戦を開始したハースで、現場の技術監督であるチーフレースエンジニアを務めている。長年F1を見ているファンのなかには、ロマン・グロージャンとタッグを組んでいたことを覚えている人も多いだろう。

 そんな小松エンジニアが、この度著作を執筆した。『エンジニアが明かすF1の世界』というタイトルを見て、自動車レースの最高峰であるF1のエンジニアが書いた本と考えれば、一見すると難解な技術書のように思う人もいるかもしれないが、実は違う。実際、小松エンジニアにはこのような思いがあった。

「僕がF1を見て育った1980年代や1990年代の初頭は、それほどF1に興味がなくても情報が入ってきて、一般の新聞や雑誌でF1を知る機会がありました」

「自分にはそういいうとっかかりがありましたし、『F1って、おもしろいな』と思ってこの道に進みましたが、今では本当におもしろいスポーツだと実感しています」

「ところが今のF1放送は有料放送だけで、普通のニュースでは報道されないし、F1のニュースを見ようと思って探さないと見つからない。雑誌を見ても、F1の記事はほとんど専門誌にしか載っていません。僕は、『こういう現状でいいのかな?』と思いました」

「いろんな人に話を聞いてみると、F1が伝わっていないということもわかりました。すごく細かいところまでF1を理解しようと思っている人も絶対に必要だけど、そういう人たちの自己満足が一局にあって、その反対側にはF1について何も知らない人たちがいます」

「それではあまりF1の魅力が伝わらないと思います。だからドライバーが好きだけどクルマのことは詳しく知らないという人から、いわゆるオタクみたいな人まで、もちろんその中間の人も含めて『F1やモータースポーツというのは、こういうものですよ』というのをもう少しわかってもらえたら、それぞれがもっと楽しくF1を見れるようになるんじゃないかなと思っていました」

 自動車レースといえば、『クルマ』『タイヤ』『セッティング』といったように、どうしても機械的な部分に目を向けがちだ。しかしセッティングを行うエンジニアも、マシンを運転するドライバーも人間であり、極めて人間的な作業が行われているのだということも、小松エンジニアの言葉でわかりにくい部分を噛み砕いて綴られている。

 また小松エンジニアがどのようにしてF1エンジニアを目指し、その夢を実現したのかという部分は、F1のエンジニアを目指す人だけでなく、夢を実現したいと願うすべてのF1ファンにとっても必見だ。さらには、実際にF1ドライバーと仕事をしている小松エンジニアだからこそわかる『F1ドライバーのすごさ』というのも随所で触れられており、まさにこの本でしか読むことのできない重要な見どころだろう。

■「F1は、これからの世界の縮図でもあると思います」

 エンジニアを目指し、大学進学を機に渡英した小松エンジニアは、母国レースである日本GPに関してこんなエピソードを明かしてくれた。

「僕が日本GPの時に一番嬉しいなと感じるのは、木曜日に地元の子供たちが来てくれることです。チームに応援の旗を作ってきてくれたり、一生懸命英語を勉強してチームの人に声をかけようとしてくれたりというのは、世界中を見ても日本だけです。毎年、感動しています」

「以前、イベント後に引率の先生から手紙をもらったのですが、子供たちが学校に戻ってから『初めて外国人に英語で話しかけた』、『将来は英語を使う仕事をしたい』と、とにかくポジティブに先生に話してくれるみたいです」

「すごく嬉しいですし、こちらの刺激にもなりますよね。F1や国際的なスポーツなら、もっとそういうことができると思うので、そういうことの助けになればという思いもあります」

「だからこそ、もともとF1に興味を持っている人たちの自己満足だけで終わってはいけないと思います。F1のような国際的なスポーツもなかなか他にありません。F1には、これからの世の中がそうなるべきだというのが凝縮されている部分もあると思うので、こういうスポーツがもう少し一般社会のためにできることもたくさんあるのかなと考えていました」

 上述の通り、この本は決して難しい技術解説書ではない。「技術的なことにしか興味のない人だけが読めるような専門書は書きたくなかったんです」と語る小松エンジニアが、幅広い層の人たちに向けて「もっとF1を知ってもらいたい」という思いを込めて製作したものだ。

 構成・編集を担当したF1ジャーナリストの尾張正博氏も、「この本には私たちジャーナリストには書けず、F1のレースエンジニア経験者だけが書くことのできる内容がぎっしり詰まっていますので、貴重な一冊となるはずです」と太鼓判を押している。

 『エンジニアが明かすF1の世界』は、東邦出版よりすでに全国の書店や通販などで発売中だ。シーズンの忙しい合間を縫って2017年から執筆が始まり、2シーズンを費やして完成したこの著作には、小松エンジニアの熱意が込められている。長年F1を追いかけている玄人ファンにも、F1を見始めたばかりの方にも、もちろんこれからF1を見てみようと考えている方にも、ぜひ手に取っていただきたい。