2019年05月15日 10:11 弁護士ドットコム
たまに、使い方のわからない道具があります。たとえば、旅館などで見かける「茶こぼし」(建水)です。
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流派によって使い方がさまざまのようですが、茶こぼしは一般的に、飲み残した湯茶や茶がらを捨てたり、茶碗をゆすいだ湯水を捨てるための道具とされています。
レンコンの断面のような穴があいた蓋が付いているものもあり、旅館の客室に置かれていると、灰皿と勘違いして、タバコの吸い殻を捨てる人もいるようです。
インターネット上でも、「灰皿ではない!」とたびたび話題になっています。
灰皿として使われると、汚れるだけではなく、表面が傷んでしまうからです。はたして、茶こぼしを灰皿として使った場合、法的な問題はあるのでしょうか。富永洋一弁護士に聞きました。
「昭和風情漂う『茶こぼし』、令和の時代に自宅にあるという方はどれほどいらっしゃるでしょうか。
日本茶を愛用されている方はお持ちかもしれませんが、若い人などは、見たこともないという方も多いかもしれませんね」
――茶こぼしを灰皿として使った場合、犯罪となるのでしょうか。
「茶こぼしが『灰皿でない』と知りながら、故意に『灰皿』として使って、タバコの熱で容器を溶かしてしまったような場合は、器物損壊罪が成立する可能性があります(刑法261条)。
器物損壊罪は故意犯であり、『故意』(わざと)に物を壊した場合に犯罪となります。
茶こぼしであって『灰皿ではない』と知っていたのなら、タバコの熱で溶けたり、こげたりすることも認識できただろうということで、「故意に』物を壊したとして、罪となる可能性が高いでしょう」
――「灰皿」と信じて疑わず、悪意なく誤って灰皿として使ってしまった場合はどうでしょうか。
「その場合は、『過失』によるものであり、『故意に』とはいえませんので、故意犯である器物損壊罪は成立しないことになるでしょう。
ただ、実際には、誰がやったかの特定がむずかしく、『故意』か『過失』かも微妙な判断なので、捜査にまで発展する可能性は低いでしょう」
――民事上の損害賠償責任についてはどうなるでしょうか。
「民事上の損害賠償の場面では、『故意』のみならず『過失』の場合でも、損害賠償責任を負うことになります。
いかにも『茶こぼし』っぽい形状をしていた場合には、『茶こぼし』であり灰皿ではないと予見できたとして、『過失』による損害賠償責任を負う可能性があります。
一方で、『茶こぼし』といってもなかには、『灰皿』と区別がつかないような形状や色味のものもあるようでして、そのような場合には『過失がない』とされる可能性もありうるでしょう」
――こうしたトラブルを避けるためにはどうすればよいでしょうか。
「旅館側が、宿泊客にわかるよう注意書きを出しておいたり、タバコの熱でも解けない耐熱性のあるものを利用するなど工夫があるといいかもしれません。
楽しみにしていた旅行。泊まる側も迎える側も、トラブルなく終わるのが一番ですね」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
富永 洋一(とみなが・よういち)弁護士
東京大学法学部卒業。平成15年に弁護士登録。所属事務所は佐賀市にあり、弁護士1名で構成。交通事故、離婚問題、債務整理、相続、労働事件、消費者問題等を取り扱っている。
事務所名:ありあけ法律事務所
事務所URL:http://ariakelaw-saga.com/