■日本では過去最大規模のクリムト展が開催中
東京・上野の東京都美術館で『クリムト展 ウィーンと日本 1900』が開催されている。クリムト作品の世界的殿堂ともいえるウィーンのベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館の所蔵作品を中心に、日本では過去最多となる油彩画25点以上が集う大規模な展覧会だ。
代表作『ユディトI』や初来日となる『女の三世代』など、クリムトの作品が一堂に会する貴重な機会とあって開幕前から話題を呼んでいる本展だが、稲垣吾郎がゲストナレーターを務めている音声ガイドも好評を博している。
稲垣は昨年に自身がベートーヴェンを演じた主演舞台『No.9-不滅の旋律-』再演の前にウィーンを訪れ、ベートーヴェンが暮らしていた家や墓地を巡った。その際にクリムトの作品を鑑賞する機会も得たという。『クリムト展 ウィーンと日本 1900』では展覧会のスペシャルサポーターと音声ガイドのゲストナレーターを務めている。
このたび、東京都美術館の展示室で稲垣による生音声ガイドの披露とトークセッションが行なわれた。
■舞台でベートーヴェン役を演じた稲垣吾郎。「すごく縁を感じています」
トークセッションが行なわれたのは、本展のメイン作品のひとつである『ユディトI』のある展示室。稲垣はクリムトの作品を意識してか、ゴールドのラインが印象的な黒いスーツで登場した。
まず昨年のウィーン訪問を振り返り「実際に(ウィーンで)クリムトの作品を何点か見せていただいて華やかさや繊細さ、圧倒的な存在感に心奪われました。今回は『ベートーヴェン・フリーズ』も展示しているということで、すごく縁を感じています」と話した。
展覧会のスペシャルサポーター、音声ガイドともに初挑戦となるが「スペシャルサポーターという大役を任せられてすごく光栄なことだと思っています。今回は音声ガイドにも挑戦していますので、みなさんによりわかりやすく楽しんでいただけるのではないかなと思っています」
■クリムト展を初訪問。「独り占めしたいくらい」「圧倒されます」
稲垣が『クリムト展 ウィーンと日本 1900』を訪れるのはこの日が初めて。感想を尋ねられると立ち上がって『ユディトI』やその隣の壁面に展示されている『ヌーダ・ヴェリタス(裸の真実)』に顔を近づけ、「初めて見るんですよ!嬉しいですよね」と興奮気味に話した。
自身がウィーンを訪れた際は『ユディトI』や『ベートーヴェン・フリーズ』を現地で見ることは叶わなかったといい、「こんな大勢のみなさんとじゃなくて、本当は独り占めしたいくらい」「豪華絢爛だけでなく、繊細さもあって、圧倒されますね。心奪われる感覚があります」と力を込めた。
■音声ガイドは「借りる派」の稲垣。心掛けたのは「あまり出しゃばらないように」
音声ガイドについては「僕も必ず借りるんです」と明かした稲垣。
「見て感じるのも大切ですが知識として教えていただくと、また感じ方が違う」と音声ガイドそのものの魅力を語りつつ、「僕は必ず借りるタイプなのでまさか自分がクリムトの展覧会でやらせていただくなんて。本当に光栄です」「収録は楽しかった。どうでしょうか?みなさんの感想を聞いてみたいです」と呼びかけた。
『クリムト展 ウィーンと日本 1900』の音声ガイドの収録内容は約35分。全てのトラックに稲垣のナレーションが入っているが、どれも柔らかなトーンで聴きやすい良い印象だ。
それぞれのトラックに対応する作品のイメージを見ながら収録に臨んだという稲垣は「今回は美術館の音声ガイドなので聴く人のことや、この場所をイメージしながら収録しました」と振り返る。
さらに「あまり出しゃばった真似はしたくないというか。僕が喋ってるとどうしても僕のイメージが頭に浮かんできますよね。美術鑑賞の邪魔をしてはいけないと思うので、その辺はさりげなく、みなさんに届きやすいように、聴き心地が良いように意識しました」と明かした。
■音声ガイドを生披露。『ユディトI』を解説
この日は稲垣がその場で音声ガイドの生披露に挑戦。スペシャルトラックとして収録されている「ウィーンの思い出」に続き、『ユディトI』の解説を朗読した。
展覧会の第5章「ウィーン分離派」のなかで紹介される『ユディトI』は、クリムトが初めて本物の金箔を使用した絵画であり、「黄金様式」時代の幕開けを飾る作品だ。様式化された構図、モデルが纏った華やな装飾品、生身の裸身をのぞかせる女性像の官能性など、クリムトを有名にした作品の特徴全てを備えている。主題として用いられているのは旧約聖書外典の一場面。祖国を救うために敵将ホロフェルネスを誘惑して酔いつぶし、彼の首を切り落とした若き未亡人ユディトの姿が描かれている。
稲垣は音声ガイド生披露の前には「恥ずかしい」「なんでしょうこの緊張感は……」とこぼしていたが、台本を手にすると落ち着いたトーンで自身のウィーンの思い出や、クリムトが生きた時代のウィーンの様子、そして官能的なユディト像について解説した。
音声ガイドの生披露後は「ちょっと緊張しました」と笑顔を見せつつも「朗読やナレーションはすごく好きです。その世界に入っていけますよね。演じるのと一緒で」と話していた。
■全長34メートルの『ベートーヴェン・フリーズ』に感動
『ユディトI』と並ぶ展覧会の目玉展示のひとつである『ベートーヴェン・フリーズ』は、稲垣も特別な思いを持つベートーヴェンの「交響曲第9番」に着想を得た全長34メートルにおよぶ壁画だ。『第14回ウィーン分離派展』の壁画として制作され、現在は分離派会館の地下に展示されている。
黄金の甲冑をまとった騎士が幸福を求めて敵に立ち向かい、楽園に辿り着くまでの旅の物語が、絵巻物のように3つの壁面を使って展開する本作。『クリムト展 ウィーンと日本 1900』では展示室一室を使ってこの作品の原寸大複製展示を行なっている。
稲垣は展示室をぐるりと一周し、「歓喜の歌」が描かれた右側の壁面を注意深く鑑賞した。
「すごいです、圧倒されて心を鷲掴みにされてしまいました。最後に辿り着く『歓喜の歌』に讃えられて、幸福がもたらされているというシーンが感動的だなと思いますし、自分がベートーヴェンを演じた時を思い出してしまいますね。(ベートーヴェンは)今後も演じたい役。今度はまた違った気持ちで演じられるかもしれないですし、見られて良かったです。感動しました」と話した。
■音声ガイド、借りる派? 借りない派? 『クリムト展』は7月から愛知に巡回
稲垣吾郎がゲストナレーターを務める『クリムト展 ウィーンと日本 1900』の音声ガイドは1台550円で借りることができる。作品解説に加えて「稲垣吾郎が語る『第九』」「稲垣吾郎が語る『ウィーンの思い出』」といったスペシャルトラックも収められている。
稲垣が「借りる派」であると話したように、音声ガイドは借りる習慣のある人とない人で分かれるかもしれない。音声ガイドのナレーションに声優や俳優などの著名人を起用する展覧会は多いが、そのような企画はアートに馴染みのない人が美術館を訪れるきっかけにもなるだろうし、アーティストに詳しくなくても作品解説を聞きながら鑑賞することで、より能動的に作品と向き合うことにもつながるかもしれない。稲垣の「美術鑑賞を邪魔しないように意識した」という発言も印象的だった。
『クリムト展 ウィーンと日本 1900』は7月10日まで上野の東京都美術館で開催中。その後、7月23日から10月14日まで愛知・豊田市美術館に巡回する。