スーパーGT第1戦岡山では、「悪あがきのようなもの」(伊与木仁エンジニア)というセットアップながらトップを走ったRAYBRIG NSX-GT。検証を重ね、方向性を変えたセッティングで臨んだ第2戦富士ではしかし、走り出しからショッキングな展開が待っていた。
「アンダーだオーバーだというのを感じる以前に跳ねが強くてどうしようもなかった。強くブレーキ踏めば跳ねちゃうし、弱く踏んでもそれはそれで治らないので、どうしようもなくて……。これまで身に覚えのない跳ね方だった」(山本尚貴)
12番手に終わった予選後、チームには深刻な雰囲気が漂う。開幕戦はノーポイントに終わっているだけに、もう取りこぼしは許されなかった。「もちろんドライバーには申し訳なかったし、自分自身も落ち込みかけたけど、ここが原因じゃないかというのは、なんとなくあった」(伊与木氏)。
NSX勢は開幕直前の富士テストでようやく今季型の空力仕様が固まったが、その“最終版2019年仕様”に対するベースセットが定まっていない部分があった。それが「悪あがきの」開幕戦と、そこから方向性を変えた富士の予選日を経験したことで、徐々に点と点がつながりつつあった。
セット変更の決断には時間がかからなかった。ジオメトリー関連などの足まわり、そして空力面にも変更を施して跳ねを抑えることを目指した。だが決勝前にそれを確認できるのは、20分間のウォームアップ走行のみ。
伊与木氏は「ダメだったら『ごめんなさい』って言うしかなかった」。ウォームアップではドライバーふたりから「昨日よりはいい」と評されたが、その時点ではまさか表彰台フィニッシュができるほどのポテンシャルを秘めているとは思いもしなかったという。
一度は最後尾まで落ちながらも、赤旗再開後の乾いていく路面のなかで、そして最終スティントでも順位を上げ、興奮の笑顔で表彰台から引き上げてきた山本は、「今日の結果は伊与木さんの功績。得意の鈴鹿を前に、そしてこの短いレースウイークの間に、どうしたら跳ねが改善するのか分かったのはすごく大きい」。伊与木氏も、「ようやく今日、ベース(セット)が見えた感じ。まだ70%くらいですけど」と評する。
これでもう「大外し」は、ない。一夜にして絶望の淵から生還した昨年王者がようやくスタートラインに立ち、追い上げを開始する。