2019年05月12日 10:21 弁護士ドットコム
飲食店で時々見かける激辛メニュー。人によっては、たまらない大好物だが、普段食べない人が挑戦するのはなかなかリスキーだ。
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ちゃんと敷居をあげて、本格派だけの参戦を求めるためか、誓約書の提出を求める飲食店もある。
例えば、数々の激辛料理を堪能できる「赤い壺」(東京都港区)が提供している「ハバネロチヂミ」。店を最近訪問した大学生のショウタさんによると、以下の文言の誓約書にサインしたそうだ。
「赤い壺の激辛料理でたとえご自身の体調を崩したとしても、自分で決めた自己責任であることをここに認めます そしてこれからも唐辛子を憎まず、かわらずに辛い物が好きであることをお誓いいたします」
他にも、このような誓約書はたまに見かける。例えば、ロッテリアでは2018年に期間限定で「デス辛タンドリーチキンサンド」を販売した。挑戦者は「(店は)一切責任を負いません」と書かれた免責同意書へのサインが必要だったという。
同じ年、「石焼らーめん火山」も期間限定で激辛ラーメン「石焼灼熱 炎の旨辛ホルモンらーめん」を提供。挑戦者は同意書への署名が必須とされた。
一般論として、もし、このような誓約書にサインをしたうえで激辛料理を食べ、体調を崩して病院送りになった場合はどうなるのだろうか。誓約書があるかぎりは「自己責任」と割り切らなければならないのか。一藤剛志弁護士に聞いた。
「まず、病院送りになるほどの激辛料理を売ることは、いかに辛さを売りにしていて、客も辛いことを了解していたとしても、客の生命・身体に対する損害を与えかねないものです。したがって、『債務不履行』といえるため、客は店に対して損害賠償を請求できると考えられます」
一藤弁護士はこのように説明する。つまり、店が必要な義務を果たしていないことから、「債務不履行」にあたるということだ。
ならば、今回のように「自己責任」と書かれている場合や「店は責任を負わない」などと書かれている場合、誓約書は効力がないということだろうか。
「法律では、『事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項』は無効とすると定められています(消費者契約法8条1項)。
このため、店が責任を完全に免れるような誓約書は無効になります。したがって、誓約書にサインしたか否かにかかわらず、客は店側に対して損害賠償を請求できると思われます」
誓約書の記載が無効ならば、サインしても意味はない。そして、激辛料理を食べて病院送りになった客は、店側に対して損害賠償を請求できるということだ。では、損害賠償はどこまで認められるのだろうか。
「たとえば、病院の治療費や通院交通費などが考えられます。さらに、仕事を休むことになれば、その損害も認められるでしょう。
万が一、後遺症が残ることになれば、慰謝料に加え、後遺症が残ることで将来得ることができなくなった利益の賠償なども認められる可能性があるでしょう」
しかし、誓約書にサインしてまで、激辛料理に挑戦する客にも落ち度があるといえるのではないだろうか。
「まったく落ち度がないとはいえないでしょうね。被害者に過失(落ち度)があった場合は、これを考慮して損害賠償の額が定められることになっています(民法418条)。
客の過失の程度に応じて、損害賠償請求できる金額は制限を受けることになると思われます」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
一藤 剛志(いちふじ・つよし)弁護士
東京多摩地域を中心に一般民事、中小企業法務、家事、刑事など幅広く扱う。弁護士会多摩支部中小企業プロジェクトチーム座長、ITに関するワーキンググループ座長、公益社団法人立川法人会 監事
事務所名:弁護士法人TNLAW支所立川ニアレスト法律事務所
事務所URL:http://www.tn-law.jp/tachikawa/index.html