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北朝鮮の「飛翔体」が「弾道ミサイル」になることの大きな意味 今後の展開は?

2019年05月12日 10:21  弁護士ドットコム

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北朝鮮が5月9日、2発目の「飛翔体」を発射しました。5月4日に続くものであり、前回と同じ種類の飛翔体とみられています。北朝鮮が飛翔体を発射した意図については、様々なものが考えられます。しかし、なぜ、ミサイルではなく、「飛翔体」という名称が出てくるのでしょうか。


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5月4日の飛翔体発射について、北朝鮮の国営メディア、朝鮮中央通信と労働新聞が伝えるところによると、金正恩委員長が東部前線部隊の火力打撃訓練を指導したというものです。ちなみに9日の訓練は、西部方面ということなので、東西両方面で1回ずつ行ったことになります。この時、多連装ロケット砲、自走榴弾砲、短距離弾道ミサイルの訓練が行われたとみられています。



この中で問題になっているのが、短距離弾道ミサイルです。短距離弾道ミサイルを発射したということになると、国連安保理決議1695号に違反しているためです。だからこそ、「弾道ミサイル」なのか、それとも弾道ミサイルではない「飛翔体」なのかが大きな意味を持ちます。



報道によると、日米両政府は5月10日、「弾道ミサイル」と断定しましたが、中国や韓国は断定を避けています。今後の見通しについて、考えてみましょう。(ライター・オダサダオ)



●どうして発射? 米国挑発説、国内引き締め説、新型兵器を試したかった説

飛翔体発射以降、北朝鮮の意図については、様々な説が発表されました。どの説が正しかったのかが明らかになることは、いつになるか分かりません。北朝鮮の金正恩委員長が「これです」ということはないので、現時点で我々は推測することしか出来ません。



ともかく、今流れている説を見ていくことにします。1つ目は、2月にハノイで開かれた米朝協議以降停滞している米朝関係を動かそうとアメリカ(恐らく、日本や韓国などの他の国も含まれるでしょう)を脅す、もしくは挑発しようとしたということです。2つ目の説は、米朝協議が不調に終わって不満を持っている軍部をなだめるとともに、国内の引き締めのために訓練を行ったということです。3つ目は、米朝関係が停滞している今だからこそ、新型兵器の訓練を行ったというものです。



説といえるかは疑問ですが、特に意味はないという可能性もあります。私達は、北朝鮮の行動に必ず何かの意味があると考えますが、意図はなく、ただ単に計画通りに行ったというだけの可能性もあります。いずれの説であれ、北朝鮮が発射したのが弾道ミサイルであれば、やはり安保理決議に違反することになります。



いずれの説も、それなりの説得力があり、どの説が正しいのかは分かりません。個人的な感想を言うと、2番目と3番目の説は、説得力が強い印象を受けます。つまり、米朝関係が進展してしまうと、新型兵器の実験自体は出来ない。実際、米朝協議の際、北朝鮮は実験を控えてきました。このタイミングでしか出来ないと考えても不思議ではありません。



また、新型兵器の実験を行うことは、軍部を満足させます。逆に言えば、新型兵器の実験をしないことで、軍部の不満が高まるのを防ごうとしたとも言えます。米朝協議が停滞しているのに、わざわざ訓練を止めて、アメリカに義理立てする必要はない。また、上手く行っている韓国はこの程度では関係改善を止めないだろうとの目算があったのかもしれません。



●新たな制裁を加えることができるかは不透明

それでは、今後どうなるのでしょうか。そのカギを握っているのが、国連安保理決議1695号です。これは、2006年7月5日に北朝鮮が行ったミサイル実験を受け、同月15日に北朝鮮の実験を非難し、弾道ミサイル計画の停止を求めるものです。この決議は、当時非常任理事国だった日本が主導したものと言われています。



今回の飛翔体が弾道ミサイルだった場合、北朝鮮の行動はこの決議に違反することになります。日米は、弾道ミサイルということで北朝鮮を非難し、中国、韓国は弾道ミサイルであるかどうかは明確にしていません。弾道ミサイルということになると、明らかな決議違反であり、北朝鮮に対する制裁が強化されるかもしれません。特に韓国はこれまで北朝鮮に宥和政策を展開しており、その政策の是非が問われます。



今後、新たな国連決議が出るかどうかは、まだ分かりません。今のところ、アメリカは弾道ミサイル発射を非難しているものの、国連安保理ではそのことを追及していません。トランプ大統領も5月10日の米政治専門メディア「ポリティコ(Politico)」のインタビューで、信頼を裏切る行為ではないとして、不快感を示しているものの、大きく問題視しているわけでもありません。また、これまでに北朝鮮に対しては、かなりの制裁が加えられており、新たな制裁を加えることが出来るのかは不透明です。



●北朝鮮との交渉は、テーブルにつかなくても続いている

しかし、新しい決議を加えなくても、制裁を強化する方法はあります。このことを示したのが、北朝鮮が訓練をした同じ9日に流れた一つのニュースです。国連決議が禁じる石炭輸出に関わったとして、北朝鮮の貨物船ワイズ・オネスト号を差し押さえたというものです。既に北朝鮮に対しては、制裁が加えられており、新しい制裁を掛けなくても、監視を強化したり、差し押さえなどの手続きを粛々とすることで、北朝鮮に対して、圧力を強めるということが可能です。



また、9日にはアメリカがカリフォルニア州のバンデンバーグ空軍基地から、南太平洋のマーシャル諸島クェゼリン環礁に向けてICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験を行いました。その数時間後には、アメリカ海軍のオハイオ級原子力潜水艦ロードアイランドが、フロリダ州の沖合ミサイルの発射実験を行っています。このミサイルには核弾頭が搭載可能です。アメリカ側はこの実験は前から計画していたものとして、北朝鮮の実験との関連を否定しています。しかし、北朝鮮側が圧力と感じる可能性はあります。



かつて、キューバ危機を描いた「13デイズ」でディラン・ベイカー演じるマクナマラ国防長官がソ連船に威嚇射撃を命じた提督に臨検を指して、「(ケネディ)大統領はフルシチョフとこれで対話しているんだ」というシーンがあります。米朝協議は不調に終わりましたが、北朝鮮との交渉は、実際の交渉のテーブルにつかなくても、続いているのです。



<参考記事> 黒井文太郎「北朝鮮の狙いは米国への挑発ではなく新兵器訓練だ―米韓日の無策をよそに、実戦的な実働訓練と新型兵器の試験を実施」『JBPRESS』2019年5月11日(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56357)