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【ネタバレあり】『アベンジャーズ/エンドゲーム』MCU牽引してきた二大巨頭の“ヒーロー”としての歩み

2019年05月11日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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※本記事は『アベンジャーズ/エンドゲーム』及び過去MCU作品のネタバレを含みます。


■性格も強さもバラバラなヒーローたち


 マーベル・シネマティック・ユニバース。通称“MCU”と呼ばれる、映画史上まれに見る記録的ヒットを残したシリーズがこれ以上ない大成功を収めて一区切りを迎えようとしている。


 このシリーズの魅力は何か? それは伝統あるマーベル社が有する様々なコミック・ヒーローたちが同じ世界に存在していて、時には協力して戦い、時には反目し、時には誰かがいなくなって悲しむような物語を作ってきたことだろう。漫画でしかありえないようなキャラを画面上に説得力を持って再現できるだけの映像技術の発展も素晴らしい役割を果たしているが、それ以上に人間ドラマや関係性をしっかりと描く手腕を持った監督たちが、それぞれの作品を手がけ、それに実力あるキャストたちが応えてきたことが大きい。


 実は『アベンジャーズ/エンドゲーム』には終盤までド派手なアクションやスペクタクルシーンはないのだが、それでもキャラのやり取りやその他のとあるSF的なシーンを見ているだけで観客が楽しめるように作ってある。それは一朝一夕の演出ではなく、これまでのMCU21作品が積み上げてきた功績のおかげだ。


 単に強いヒーローが集まるアベンジャーズを描くための前振りとして、とりあえず各ヒーローたちの単体作を作っておく、というようなスタンスでシリーズを作っていたらここまで広がりを持った世界を描くことはできなかっただろう。それぞれにしっかりとドラマを持たせ、様々な成長を描いてきたからこそ22作目でのカタルシスが爆発しているのだ。


 今思えば各登場人物たちは人となりもヒーローになった理由もバラバラだった。


 父から引き継いだ軍需企業で自分が作ってきた兵器の悪影響を知り、自らスーツを開発してアイアンマンになった不遜な天才トニー・スターク。


 実験の失敗により感情の変化で凶暴な緑の巨人ハルクに変身してしまうようになった悲運の天才科学者ブルース・バナー。


 北欧神話の登場人物にして宇宙の遥か彼方の天界・アスガルドの王子で雷を操る神・ソー。


 第二次大戦時に米政府の実験に志願して超人兵士となり、ナチスの流れを汲む組織ヒドラ党と戦ったのち南極で氷漬けになっていた英雄キャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャース。


 MCU・フェーズ1は彼らの単体作が描かれた後、国際平和維持組織のS.H.I.E.L.D.のエージェントで元ソ連の凄腕スパイのブラック・ウィドウことナターシャ・ロマノフ、同じくエージェントで驚異的な弓の名手ホークアイことクリント・バートンも加えた6人のスーパーヒーローがクロスオーバーする一大企画『アベンジャーズ』で締めくくられる。


 それぞれに性格も強さもバラバラなヒーローたちは地球の危機にニック・フューリーに召集されるもいがみ合い、なかなかまとまらない。しかし、だからこそいよいよ敵がニューヨークに攻め込んでくる終盤で結集し、それぞれの力を発揮して無敵の強さを見せるカタルシスは尋常ではなかった。


 結局のところ現状までのMCUはこの6人中心で回っている。その他のヒーローたちのクロスオーバーの物語は今後のMCUでより深く語られていくと思うので期待したい。


■2大巨塔、アイアンマンとキャプテン・アメリカが大切にしてきたもの


 MCUを引っ張ってきた2大巨塔はアイアンマンとキャプテン・アメリカ。この、タイプが正反対のヒーロー2人の友情やいざこざがフェーズ2以降の話を作ってきたのは間違いない。


 かつては軍需企業の社長として超個人主義者の遊び人で鳴らしていたトニーは、そんなかつての自分を悔いるようにアイアンマンスーツの開発を続け、外敵の脅威を不安視するあまり『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』では自分で作った安全保障用の人工知能ウルトロンを暴走させて逆に人類を危機に陥れてしまう。


 無垢な愛国者としてキャプテン・アメリカになったスティーブ・ロジャースは『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』で自身の所属する組織S.H.I.E.L.D.が70年前に戦ったナチスのヒドラ党の勢力に乗っ取られていたという恐ろしい体験をして、国家や組織というものに懐疑的になっていく。彼は国家を盲信する人間ではない。スティーブが大事にしているのは“自由の国”アメリカの精神であって、国そのものではないのだ。


 そして突入したMCUフェーズ3の第一作『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で、自由なヒーロー活動による二次災害を防ぐためにアベンジャーズを国連の管理下に置くというソコヴィア協定の是非を巡り、ついにアイアンマンとキャプテン・アメリカは決定的に対立。


 ここでアベンジャーズが管理されることに賛成するのがかつて自由に生きていたトニー・スタークの方で、愛国者としてアメリカのために戦ってきたキャプテン・アメリカはヒーローとしての自己判断を重んじるために反対する側に回るという逆転現象が起きるのも面白いところだ。


■“正義の物語”からの解放


 アベンジャーズのヒーローたちも多くが消滅してしまったが、その中でも初期アベンジャーズの6人は誰一人欠けることなく残った。結局のところ彼らが何とかするしかないのだ。『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』でヒーローを引退していたホークアイも家族を失い否応なく戦いに戻ってくる。


 我々は『アベンジャーズ』一作目で彼らが力を合わせた時の圧倒的なカタルシスを知っているので、今回のような絶望的な状況であっても遂に再びこの6人が揃う喜びを味わえる。その期待感は裏切られず、彼らはそれぞれに最大級の働きを見せてくれる。


 公言されている通り初期アベンジャーズのメンバーの物語は今回で終わる。『エンドゲーム』では悲しい別れも待っていた。だがしかし、誰一人ヒーローとして消化不良な終わりを迎える人物はいない。


 そして正義のために長年苦悩してきたアイアンマンとキャプテン・アメリカもそれぞれ正反対の形でその物語から解放される。ヒーローになっても独善的な性格を捨てられずにいたトニーは最後の最後に真の成長を遂げ、最初から高潔なヒーローの心を持っていたスティーブは大義のために押し殺していた自分の人生を取り戻す。


 初期アベンジャーズ、特に主軸2人の物語はこれ以上ないくらい綺麗な終わりを迎えた。しかしこれからもMCUは続いていく。アベンジャーズの魂は誰が引き継いでいくのだろうか。


 実はMCUフェーズ3の最終作は『アベンジャーズ/エンドゲーム』ではなく次作の『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』。既に「『アベンジャーズ/エンドゲーム』未見の方は絶対に見ちゃダメ」な予告も公開されているが、これからのアベンジャーズの中心を担っていくのは『キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー』からMCUに合流し、アイアンマンの弟子的な存在として頑張っていたスパイダーマンなのかもしれない(ちなみにキャプテン・アメリカの後継者が誰になりそうかも『エンドゲーム』のラストで描かれる)。


 『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』は単にスパイダーマンの映画ではなく、今後のMCUの方向性を示す重要な一作になりそうだ。普通だったら『エンドゲーム』のお見事な完結ぶりからしても1年くらいはシリーズを休みそうなものだが、そこで歩みを止めないのがMCU。ヒーローはいつだって必要だし、彼らの物語はこれからも続いていくのだ。(文=シライシ)