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シンガーソングライター大原ゆい子、アニメ作品に寄り添った変幻自在な楽曲制作力

2019年05月10日 18:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 NHK Eテレで放送中のアニメ『はなかっぱ』の新オープニングテーマとして話題を集めている「えがおのまほう」を歌う、シンガーソングライターの大原ゆい子。昨年は軽快なアコースティックサウンドによる「言わないけどね。」やロック調の「ハイステッパー」を発表。そして最新曲「えがおのまほう」では、誰もが口ずさみやすいキッズソングで、新たな表情を見せている。楽曲ごとにアニメ作品に寄り添う振り幅の広さや懐の深さは、どこからきているのか?


(関連:アニソン界のシンガーソングライター大原ゆい子が語る、異色の経歴と“作品に寄り添う音楽”の作り方


■多彩な楽器経験が生む様々なサウンド


 大原ゆい子は、高校時代から作詞作曲を始め、2012年からライブハウスに出演するなど、シンガーソングライターとして活動を開始した。『ミスiD』などアイドルものも含め、様々なオーディションを受けた中で、映画『リトルウィッチアカデミア 魔法仕掛けのパレード』主題歌のオーディションで合格を勝ち取り、主題歌「Magic Parade」で2015年にメジャーデビュー。これを機に数多くのアニメでテーマソングを歌うようになり、アニソンシンガーソングライターとして活動している。


 フェイバリットアーティストとして、スピッツ、松任谷由実、平川地一丁目、YUIなどの名前を挙げ、ちょっと胸が切なくなるギターソングが好みだという大原(参照:アニソン界のシンガーソングライター大原ゆい子が語る、異色の経歴と“作品に寄り添う音楽”の作り方)。実際に大原と言えば、ギターを奏でながら歌うイメージがあり、例えばアニメ『からかい上手の高木さん』のオープニングテーマ「言わないけどね。」では、普段からMorrisのTF-801を愛用する、彼女らしさ溢れるアコースティックサウンドを聴かせた。一方、TVアニメ『はねバド!』のエンディングテーマ「ハイステッパー」では、MVではギブソンのエレキギター=レスポールをかき鳴らしながら歌い、濃い目のメイクのロッカースタイルでクールな格好良さを披露。YUIが好きと言うのもうなずける。また、TVアニメ『宝石の国』のエンディングテーマ「煌めく浜辺」は、鈴木慶一の作詞・作曲・編曲ではあったものの、ギターではなくエレクトリックなサウンドをメインにした神秘的なサウンドが印象的だった。


 大原はギターだけでなく、幼少期よりエレクトーンやバイオリンなども習っていたとそうで、それが楽曲ごとの多彩な音楽的アプローチを可能にしているとも言える。実際の楽曲アレンジの作業は、吉田穣、manzoなどのアレンジャーに依頼するものの、自身の中にあるイメージを伝えながらリファレンス楽曲をいくつも提示して編曲をお願いするそうだ。TVアニメ『はなかっぱ』のオープニングテーマとして話題の「えがおのまほう」は、スウィングジャズをベースにした編曲が新鮮だ。シャッフルの跳ねたビートからは、子どもがピョンピョン跳び回る様子が目に浮かび、トランペットやギターのソロも高揚感たっぷりだ。〈ラランララン〉〈ルルンルルン〉という繰り返しの歌詞とメロディは、子どもでも口ずさみやすいのが特徴。実際、コーラスには子どもたちが参加していて、実にぎやかだ。『はなかっぱ』は、大原自身も子どもの頃から慣れ親しんだ作品とのことで、アニメを見る子どもに対する想いが、各所から感じて取れる。


■“既視感の作り方”が共感を呼ぶ歌詞


 大原は作詞をする際に原作を読み、自分の経験だけでなく、ファンの目線も意識するそうだ。また普段から、ドラマを見たり小説を読んだりして、その作品に沿った楽曲を作る試みを行っているとのこと。アニメのシチュエーションや登場人物の関係性をしっかり踏襲しながら、聴いた人自身の状況や思い出に重ねて楽しむことのできる歌詞のスタイルは、彼女の音楽の魅力の1つになっている。


 「言わないけどね。」は、好きな相手についちょっかいを出してしまう、主人公の高木さんの淡い恋心をベースにしながら、アニメがこういう展開になったらいいなという自身の願望も込められ、さらに誰もが経験した学生時代の甘酸っぱい経験を思い出させてくれる。「ハイステッパー」は、バドミントンに青春をかける高校生たちの汗や涙、スピーディーな試合展開を彷彿とさせる、アッパーのロックサウンドと切なさ溢れるマイナー調のメロディは青春の光と影といったイメージで、部活に熱中した経験のある人なら、自分のことのように手に汗を握ってしまうだろう。思わず自分と重ねてしまう、既視感の作り方がとても上手い。


 アニメ作品にしっかり寄り添いながら、単なるタイアップには終わらない。しっかりそこに自身の思いを宿らせながら、聴く側の気持ちも重ねて生み出される大原ゆい子の楽曲。これは当たり前のことのようだが、決して簡単なことではない。そこには彼女のアーティストとしての資質や、細部にわたる気づかいや愛情が感じられる。7月からはTVアニメ『からかい上手の高木さん2』の放送も決まっており、1期に続いて大原がオープニングテーマ「ゼロセンチメートル」を担当する。今度はどんなドキドキを体験させてくれるのか、アニメの放送を心待ちにしたい。(榑林史章)