2019年05月10日 11:21 弁護士ドットコム
滋賀県大津市で5月8日、保育園児2人が死亡する交通事故が起きた。報道によると、事故が起きたのはT字路。右折しようとした車が、直進してきた軽自動車と接触。反動で軽が信号待ちしていた保育園児らの列に突っ込んだ。
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園を運営する社会福祉法人檸檬会のフェイスブックページによると、園児2人が死亡し、14人が重軽傷を負ったという(8日23時、第5報)。
報道によると、大津署は、自動車運転処罰法違反(過失運転致傷のちに過失運転致死傷)の疑いで、自動車のドライバー2人を逮捕。その後、直接ぶつかった軽自動車のドライバーを釈放している。現在、事故車両のドライブレコーダーを解析しているという。
ぶつかったはずみで事故になった場合、責任や過失はどのように考えられるか。今後の捜査のポイントについて、交通事故にくわしい西村裕一弁護士に聞いた。
ーー右折車と直進車がぶつかったとき、過失の割合はどうなりますか?
「信号機のある交差点で、双方の信号が青信号ということであれば、右折車:直進車=80:20というのが基準になります。
報道によれば、釈放された直進車のドライバーは『車が突然右折してきた』と話しているようです。
仮に、右折車が直進車のすぐ目の前で右折をしたという場合には、危険な右折方法(直近右折)として、右折車:直進車=90:10になる可能性もあります。いずれにしても、右折車の方が過失は大きくなるのが通常です」
ーーぶつけられたことで進路が変わり、歩行者にケガを負わせてしまった場合、刑事・民事上の責任はどうなるのでしょうか?
「今回の事案では、ぶつけられた直進車が歩行者にケガを負わせています。しかしながら、そもそも右折車と直進車が交差点で事故を起こさなければ、歩行者はケガをすることはありませんでした。
したがって、歩行者からすれば、右折車、直進車の『連帯責任』でケガを負ったということになります。そのため、歩行者との関係では、実際には歩行者にぶつかっていない右折車も直進車とともに刑事・民事上の責任を負うことになります。
このような法律関係を民事上は『不真正連帯債務』といいます。被害者である歩行者は、右折車にも直進車にも損害賠償請求の全額を請求することができ、直進車は過失がわずかでも認められる以上、右折車の方が悪いといって請求を拒むことはできません。
今回、被害にあわれたのは幼い子どもであり、尊い命も失われてしまったということからすると、被害者が将来生きていれば得ていたはずの収入に対する補償(逸失利益)や慰謝料(被害者本人の慰謝料とご遺族の慰謝料)、葬儀費等の賠償義務が右折車、直進車のドライバーには生じます」
ーー右折車のドライバーは逮捕され、取り調べを受けています。交通事故で刑事責任が生じるのは、どういう場合ですか?
「交通事故により人をケガさせている以上、過失運転致傷ないし過失運転致死罪に形式的には当てはまっています。その意味では、右折車、直進車のドライバーともに刑事責任が生じ得る状況です。
もっとも、交通事故で人をケガさせた全てのドライバーが起訴されて刑事裁判を受けているわけではありません。被害者に負わせたケガの内容や被害者の人数、被害者の処罰感情、ドライバーの運転態様などを考慮して、処罰の必要性が高くないと検察官が判断すれば、不起訴(起訴猶予)ということもあり得ます。
今回の事案についていえば、幼い子ども2人の命が失われているだけでなく、14人もケガを負っている以上、事故の責任が大きい右折車のドライバーは起訴される可能性が極めて高いでしょう。
直進車のドライバーは、歩行者との衝突は避けられなかったと判断できるようであれば、すでに釈放され、任意捜査に切り替わっていることも踏まえると、刑事責任については、不起訴になる可能性もあります」
ーー報道によると、右折車のドライバーは取り調べに対し、前方不注意だったと話しているようです。今後、捜査ではどんなポイントが確認されていくのでしょうか?
「今回の事故では、直進車がドライブレコーダーを搭載していたということなので、この解析をもとに右折車、直進車のドライバーの取調べや園児を引率していた保育士の事情聴取が進んでいくことになるでしょう。
ドライブレコーダーの解析と直進車のブレーキ痕と停止場所などから直進車の速度も割り出し、直進車のドライバーを起訴するかどうかを決定することになります(すでに釈放されている時点でスピード違反がなかったと確認できている可能性もあります)。
右折車のドライバーについては、事故に至るまでの走行経路やどこに向かっていたのか(急いでいたのか)、前方不注意の理由(携帯電話を使用したのか)、直進車の存在に気づいたのはどの地点かといったことを取調べの中で明らかにしていくことになります。
また、保育士からは信号待ちで被害者である園児の位置関係を聴取することになるでしょう。
今回、被害にあわれたお子様方とそのご家族の皆様、保育園に携わっている皆様には心よりお見舞い申し上げます」
ーー車を運転していれば、誰もが「加害者」になる可能性があります。実際には回避が難しくても、法律上は直進車の過失が確実にゼロになるとはいいがたいのです。小さな不注意が重大な結果を招くことだってあります。そのことも理解した上で、安全な交通社会を考えていく必要がありそうです。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
西村 裕一(にしむら・ゆういち)弁護士
福岡県内2カ所(博多、北九州)にオフィスをもつ弁護士法人デイライト法律事務所の北九州オフィス所長弁護士。自転車事故も含め、年間100件以上の交通事故に関する依頼を受けており、交通事故問題を専門的に取り扱っている。
事務所名:弁護士法人デイライト法律事務所北九州オフィス
事務所URL:http://www.koutsujiko-law.com/