2019年05月10日 10:11 弁護士ドットコム
「会社の倉庫の柱に、同僚とその家族、そして私の名前がマジックで書かれているのをみつけました。その上には『死』『呪』と書かれていて、釘が打ってありました。怖くてたまりません」。弁護士ドットコムに、身の毛もよだつ恐怖体験が寄せられている。
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相談者によると、まわりの柱にもおびただしい数の「呪い」や「殺す」などの文字が書かれており、ノコギリのようなもので引っ掻いた跡もあったようだ。
「倉庫に出入りする人は限られているので、書いた人は特定できます」という相談者。しかし、上司が書いたと思われる人に話をすると、「知らない」の一点張りだったという。
会社側は「書いたと思われる人は心療内科に通っているので、カッとなってやってしまったのかもしれない。書いたことも覚えていないのではないか。証拠がない限り何もできない」と言ったそうだ。相談者は「このまま我慢するしかないのでしょうか」と不安な様子だ。
このように呪いの言葉を書いた場合、罪に問われることはあるのだろうか。
もし、呪いの言葉を書いたであろう人が、相談者や同僚などを殺そうと思って「呪いの儀式」をおこなっていた場合、相談者や同僚などに対する殺人未遂罪(刑法203条、同法199条)は成立するのだろうか。
殺人罪が成立するためには「殺人の実行行為」が必要だ。「殺人の実行行為」とは「人を死亡させる現実的危険性のある行為」のことをいう。
その行為が「人を死亡させる現実的危険性のある行為」といえるかは、一般人を基準に判断すべきであると考えられている。この点に関し、一般的に「呪いによって、人が死亡する現実的危険性がある」と考えている人はほとんどいないだろう。
そうすると、人を呪う行為は「殺人の実行行為」にはあたらないといえる。このような場合は、人を死亡させる現実的な危険を発生させることが不可能であるとして「不能犯」となり、相談者や同僚などに対する殺人未遂罪は成立しないこととなる。
殺人未遂罪に問われなくとも、過去には脅迫の疑いで逮捕された人もいる。
2017年9月には「小学校のクソがきどもここからとびおりてみんな死ね」などと書いた紙をつけたわら人形を小学校の通学路につるした男性が逮捕されている(朝日新聞・2017年9月28日付け)。
脅迫罪は「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した」場合、つまり、危害を加える意思を相手に知らせた場合に成立する(刑法222条1項)。ここに、脅迫とは「一般人を畏怖させるに足りる害悪の告知」のことをいう。
逆に、相手に知らせることなく、誰にもバレずに黙々と呪いの儀式を遂行していれば、脅迫罪は成立しない。
今回は「殺す」という文字が書かれており、相談者も恐怖を抱いていることから、相談者や同僚などに対する脅迫罪が成立する可能性がある。また、会社の倉庫に対し,釘を打ち込んだり、ノコギリを引いたりして柱を傷つけていることから、場合によっては会社に対する器物損壊罪(刑法261条)に問われる可能性もある。
ちなみに、「心神喪失」(刑法39条1項)と判断されれば、犯罪は成立しないこととなる。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
濵門 俊也(はまかど・としや)弁護士
当職は、当たり前のことを当たり前のように処理できる基本に忠実な力、すなわち「基本力(きほんちから)」こそ、法曹に求められる最も重要な力だと考えている。依頼者の「義」にお応えしたい。
事務所名:東京新生法律事務所