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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第4回】タイヤがすべてを左右したバクーで苦闘「ここまでタイヤに振り回されるとは……」

2019年05月09日 18:11  AUTOSPORT web

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ハースF1 小松礼雄チーフエンジニア
今シーズンで4年目を迎えるハースF1チームと、小松礼雄チーフエンジニア。前半戦のフライアウェイ最終戦となるアゼルバイジャンGPでは、タイヤに左右され予想を上回る苦戦を強いられることに。そんな現場の事情を、小松エンジニアがお届けします。

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 第4戦アゼルバイジャンGPは、難しい週末になるのではないかと予想していましたが、その予想通りの大変な週末になってしまいました。まずは金曜日、バクーは公道サーキットということもあり通常FP1(フリー走行1回目)では路面がすごく汚れていて全然グリップしないのですが、今年はインスタレーションラップを行った際に例年よりも悪い印象を受けましたね。

 そしてセッション序盤にはマンホールの蓋が外れたことにより、ウイリアムズのクルマが大きなダメージを負いました。このためセッションを再開するメドが立たず、結局そのままFP1は中止されました。このようなことは危ないですし、あってはならないのですが、実は以前にもあったんです。

 2017年マレーシアGPのFP2(フリー走行2回目)では排水溝のカバーが外れてロマン(グロージャン)のシャシーが壊れたことがありました。特に今回のようにセッションを中止する事態になってしまっては、全世界に放映しているスポーツとして情けないので、再発を防がなければいけません。

 FP1で走れず、通常このセッションでやるはずのことができないという意味では、全チームが同じ状況になります。ただこういう事態になると、規模の小さいチームの方が苦労します。

 というのも大規模なトップチームはこれまで走行したデータ量の集積も多く理解力も高いはずなので、走る前の準備がより整っています。そして一旦走り出せば、専属の解析スタッフが多くいるのでいろんなことにより迅速に対応できます。小規模チームはやはりトップチームに比べると対応に時間がかかるので、セッションがひとつ減るとより痛手を被ることになります。以前にも書きましたが、これが僕らのチームをこれからより良くしていくための課題です。

 FP2は走り出してすぐに、やはりタイヤを上手く使うのが難しそうだというのがわかりました。それでもケビン(マグヌッセン)のクルマの感触はそれほど悪くなかったのですが、ロマンの方はとても良くなかったです。こういう状況は事前に予測されたので、改良した空力系のパーツも投入していましたが、それでもやはりバーレーンGPから続く問題の解決には至りませんでした。グリップも低く、低速コーナーだらけのバクーでは、バーレーンや中国よりもタイヤを上手く使うのがホントに大変でした。

 金曜日の夜になんとかもう少しタイヤを作動させられるようにセットアップを変えたのですが、方向性は正しく、FP3(フリー走行3回目)ではケビンがよく走ってくれました。ケビンの感触はどんどん良くなってきていたので、ベストを出せればQ3に進める可能性もあると思いました。

 バクーはトラフィックが多く、ちょっとミスをしたらエスケープゾーンに入ってしまうことになるので黄旗も出やすく、とにかくクリアラップをとって走るのが重要です。予選Q1は、タイヤの温まりも遅いので何周目に最もタイムが出るのかを判断するのに悩みましたが、ウチの場合は新品タイヤを2セット使ってそれぞれのランでアタックを2回することにしました。結果的にはこれでよかったですし、ケビンはよくやってくれて無事にQ1を通過出来ました。

 しかしロマンの方は相変わらずクルマの感触が改善せず、彼はまったく自信を持ってコーナーに入っていけません。このような状況ではかなり速度を落としてコーナーを周ることになりますし、アンダーステアも出てしまうのでタイムが出るはずがありません。残念ながら今シーズン最悪の17番手でQ1落ちとなってしまいました。

 さてQ2です。ここでもまだアタック1周目にタイムを出せるのか出せないのか微妙なところでした。Q2では2度走れますが、そのうちの1回はアタックを2回行う時間がありません。もし最初のランの2度目のアタックを終えた段階で、1周目にタイムを出せないから次のランでも2度アタックをしたいと思っても、その時間はないのです。

 ですから僕は、Q2では最初のランは『ファスト・スロー・ファスト』(アタックを行い、クールダウンラップを挟んでもう一度アタックを行うこと)にしておいて、2度目の最後のランでは1周目勝負という予定を基本にとり、ケビンには「最初のランの1周目にアタックして、クールダウンラップの間に話をして決めよう」と伝えておきました。

 ところが実際にクールダウンラップで聞くと、ケビンが「わからない」と言ったんです(笑)。なので結局最後は僕が「このランはここで打ち切って、最後のランで2度アタック出来るようにしよう」と決めました。しかしこれも僕が100%の確信を持って決めているわけではありません。これまでの状況を見たり、今週末のクルマ、タイヤ、ドライバーの状況など数値にならないことも踏まえたうえで、これがベストだろうという判断を下すわけです。

 結局、このセッションは赤旗中断があったため、路面温度もどんどん下がって来ており、この方法が僕らの状況には最適だったと思います。残念ながらケビンは最後のアタックでミスをしてしまい、14番手でQ2落ちとなってしまいましたが。

 予選Q3は通常みな1周目にアタックをかけるのですが、ダニール・クビアト(トロロッソ・ホンダ)やさらにはマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)までもが『ファスト・スロー・ファスト』でいきました。これにはちょっとびっくりしましたが、レッドブルくらいのダウンフォースを持っていても路面温度が26度くらいまで落ちると、今回のタイヤで1周目にタイムを出せるか確信を持てなかったんですね。メルセデスとかフェラーリも、1周目にタイムを出せるとはわからなかったと思いますよ。それくらいバクーではトップチームでもタイヤに苦労していたんですね。

■決勝レースでもタイヤがカギに。次戦は大型アップデートを投入予定

 決勝レースではロマンがブレーキトラブルでリタイアとなりました。フロントタイヤを保たせるのががあまりにもキツイので、そのためにブレーキを攻めていたのですけれど、結果的には攻めすぎたということです。もちろんリタイアは良くないけど、そこまでプッシュしないとタイヤをどうにもできないという状況でした。

 一方ケビンのレースですが、やはりタイヤの性能を保つことが出来ずペースも上がらないまま13位でレースを終えました。1ストップ作戦が基本だったのですが、39周目にVSC(バーチャルセーフティカー)が出たところでケビンは2度目のタイヤ交換を行いました。

 あの時はもう入賞圏外にいて、ペースも上がらないので、ピットインせずに同じタイヤを履いたまま後で挽回できる見込みはゼロでした。たとえばタイヤがオーバーヒートしているような状況だったら、VSCの間にうまく冷やして、レース再開後にペースを上げることが可能かもしれません。ですが今回は状況が逆で、タイヤの温度が下がりきっていて挽回できる余地はなかったので、タイヤを交換するほかにできることはありませんでした。

 次戦はヨーロッパ初戦のスペインGPですが、バルセロナはまた状況がまったく違います。冬のテストのあの寒い状況でタイヤを機能させることができたので、実戦でもタイヤは機能させられると思います。逆にもし機能しなかったら、他に問題があるということになると思います。それに大型のアップグレードを投入する予定なので、ダウンフォースが増えることも助けになります。

 ですが、もしバルセロナでうまくタイヤを機能させることができたとしても、その後もう1回バクーに戻ってタイヤを機能させられるかといったら、そんなことはないと思っています。要はバルセロナで仮に上手くいっても、それで一喜一憂することはできないのです。なんといってもその後にはモナコやモントリオールという低速コーナーだらけの公道コースが待ち受けていますから。今はこれに向けて解決策を探しているというか、手を打っているところです。

 とにかく、本当に大変な3レースでした。ここまでタイヤに振り回されるとは、バーレーン以前は予測していませんでした。別に自分達が苦労しているから言うわけではないのですが、ここまでタイヤが作動するかしないかに左右される選手権ってどうなんでしょうか? 観ているみなさんにとってはレースごとにタイヤを使えるか使えないかで速いチーム、ドライバーが変わるから逆に楽しいのでしょうか? まあ、なにはともあれ、メルセデスでさえピレリのモーターホームにわざわざ不満を言いに行くぐらいですから、僕らチームにとっては大ごとなのです。