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立川&石浦、そして村田エンジニアの融合。2年ぶり優勝のZENTセルモ、スーパーGT第2戦富士500kmの舞台裏

2019年05月09日 17:51  AUTOSPORT web

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第1戦の劣勢から盛り返したレクサス陣営。ZENT CERUMO LC500の2年降りの勝利を喜ぶ立川と石浦
ZENT CERUMO LC500の村田卓児エンジニアと言えば、現役ドライバーの誰もが組んでみたいという“優勝請負人”のひとり。その村田エンジニアは自身を自虐的にこう言う。「オレは雨が苦手」。さらに「混乱が苦手だ」とも。スーパーGT第2戦富士、その苦手な雨が決勝スタート前に降ってきた。

 決勝はセーフティカー(SC)先導でスタート。その後は雷を伴う強い雨になるという予報で、さらにゴール前には上がると予想されており、混乱が起きる可能性は高い。村田エンジニアの心はざわざわしていたことだろう。

 一方、立川祐路は燃えていた。前日の予選は8番手(レースは7番手グリッドでスタート)。これはドライバーの責任ではなく、Q2で履いたタイヤがコンディションに合っていなかったから。不可抗力とは言え、前夜は「モヤモヤしていた」という。そのぶん、決勝では「やってやる」と気合いが入っていた。その強い気持ちはSCがコースから外れたと同時に爆発。“オープニングラップ”のダンロップコーナーでまず2台を大外刈り。

 その翌周はインから抜き、6周目には先頭集団に追いついた。その後も1台ずつグイグイ抜いていく。雷鳴が轟き、雨が激しくなり、周囲の走りがおとなしくなっていくが、立川の勢いは変わらない。ついに13周目の1コーナーでトップのモチュール オーテックGT‐Rのインを奪った。

 これを頼もしげに、だが不安げに、ピットで見守っていたのはチームメイトの石浦宏明。

「みんな、探りながらブレーキングしているなか、立川さんは自信満々でインに入っていったりしていて、やっぱり違うなあと。ただ、一番恐れていたのは、僕のタイミングでスリックタイヤに替えて出て行くこと。だって、ラインを少し外したら水しぶきがバンバン上がっているのに、もう替えるって。『ええ~、大丈夫なの?』と(笑)」

 赤旗中断後、雨は上がり、路面は急激にドライアップ。と同時に、ライバルが盛り返し、モチュールGT‐Rに先行を許すことになった。レインタイヤからスリックの切り替えはドライバー交代と同時に行ないたい。そのピットストップウインドウは開いた。

 でも、「まだまだ濡れてない?」と誰もが思う。タイヤウォーマーが禁止されているスーパーGTのアウトラップは、それはそれはスリリングだ。路面温度はこのときわずか19度。スーパーフォーミュラで2度のチャンピオンに輝いた男でさえも不安になる。

■乾き始めの難しい路面コンディションで腹を決めたZENT CERUMO LC500の石浦宏明

 しかし、このタイミングを1周でも見誤れば、勝利は手からこぼれ落ちてしまう。そう言えば、最後に勝ったのはもう2年も前だ。

 立川からは「もうあと何周かでドライ!」という無線が入る。その後、1~2周で急激にタイヤのグリッブダウンが始まった。村田エンジニアは石浦を見る。「『まだ早くないですか~?』って顔をしてた(笑)」。

 安全策としては、ウエットタイヤを付けて出て行き、途中でスリックに替える案もあるにはある。だが、ロスが大きい。何よりコース上の立川が、「もう乾いてるよ!」と叫んでいる。石浦が迷っている間に、スタッフからは「いま、セクター3!」の声。村田エンジニアがもう一度問いかける。

「行けるよね!?」

「……行きます!」

 腹をくくった石浦は、立ち上がってピットボックスの脇に立った。覚悟を決めて、ステアリングを握る。そのアウトラップ。「きつかったー。レインタイヤを履いているGT300のマシンに何度かぶつかりかけたりして、それが3周くらい続いた」

 GT500と言えど、ウエットパッチが残る路面のアウトラップでは、レインタイヤを履いたGT300のマシンのほうが速い。冷たい路面の上で、冷えたタイヤで格闘しながら、なんとかマシンを走らせていた。

 そのうち、クラフトスポーツ モチュールGT‐Rが背後に迫るが、「ここは勝負どころ」と抑え切る。やがて待望の発動がやってくると、59周目の1コーナーからコカ・コーラーコーナーにかけて、トップのモチュールGT‐Rを抜くことに成功。第3スティントの立川もアウトラップで順位を下げたが、99周目に石浦と同じようにトップに浮上し、最後までポジションを守り抜いた。

 勝因は「そりゃドライバーの力でしょう!」と村田エンジニア。立川のゴリゴリの序盤の走り、石浦の開き直りのアウトラップもそうだが、抜群のブレーキングを実現させたマシン、そしてベストの戦略を実現させたピットワークも完璧だった。今回のZENTセルモLC500の唯一のウイークポイントを挙げるとすれば、それはブリヂストンのウォームアップ性能だろう。

 2回目のピットストップの停止時間は、手元の計測ではセルモもニスモもほぼ同じ。だが、アウトラップ(ピット停止時間を含む)では4秒、さらにその翌周では2秒の差がついた。いまごろブリヂストンはこの課題に改めて取りかかっていることだろう。この地味な部分が浮かび上がるほど、ZENT LC500の仕事はパーフェクトだった。