5月3~4日に富士スピードウェイで行われた2019年のスーパーGT第2戦、金曜日朝の公式練習で、2番手タイムを刻んだGAINER TANAX GT-R(11号車)。ところが、予選Q1での安田裕信のタイムはQ2進出にひとつ届かない17番手だった。
その理由を福田洋介エンジニアは、「公式練習と予選で路面コンディションがまったく違っていた」という。これはほかのチームも感じていた変化で、とくにダンロップ(DL)ユーザーへの影響が大きかったようだ。公式練習3番手だった同じくDLを履くSUBARU BRZ R&D SPORT(61号車)は、Q1で15番手タイム。いずれも公式練習のタイムを下回っていた。
スーパーGTはタイヤコンペティションのレースだ。GT300では開幕戦岡山の結果からも分かるように、ブリヂストン(BS)が一歩抜き出た状況にある。対するヨコハマ(YH)はロングディスタンスに優れ、DLはちょい濡れウエットで強い。そしてドライでの安定感という意味ではBS、YHに劣る傾向にあるDLだが、狭いながらもスイートスポットにハマったときはBSを超えるパフォーマンスを見せる。
昨季を振り返ると、8戦中5戦でBSが優勝という圧倒的な勝率を誇るなかで、DLが2勝を挙げているのも“うまくハマった”から。今回の公式練習とQ1の流れを見ると、メーカーごとのキャラクターは今季も変わっていないようだ。
そのQ1では、9番手タイムだったMcLaren 720S(720号車)が4輪脱輪のかどでラップタイムを抹消され、11号車が繰り上げでQ2に進む。タイヤはQ1と同じ仕様だが、クルマのセッティングをアジャストして平中克幸が4番グリッドを得た。この一連の流れで、「決勝に向けて自信が持てた」とは平中だ。
決勝はレース直前に雨が降り始め、セーフティカー(SC)が先導。3周目に実質的なスタートが切られると、ちょい濡れウエットのDL、“雨の安田”の強さで早々に2番手に浮上。さらに6周目にはトップに立った。
「F3時代から雨には自信がある」と安田。「でも、ドライのセカンドスティントで、平中選手がいいペースで走ってくれたのが勝因ですね」と補足した。
12周目、雨脚が強くなるとSCが導入され15周目には赤旗中断。約30分後に再開されて路面が乾きだすと、BS勢が猛追を始める。31周目にLEON PYRAMID AMG(65号車)にトップを明け渡すが、安田は冷静だった。
路面コンディションとタイヤのマッチングを的確に判断し、ピットタイミングを無線で知らせる。そしていち早くスリックタイヤを履くと、ウエットパッチとドライパッチが混在する難しい状況のアウトラップで、平中がギリギリの攻めでタイムを稼いだ。
「安田くんの判断があと1周早くても遅くてもダメだったし、平中くんのアウトラップの速さがなければ勝利はなかった」と福田エンジニアはドライバーを称えた。
レース終盤には、ARTA NSX GT3(55号車)に追い上げられる場面もあったが、それには理由がある。タイヤの内圧モニターと実際の内圧値に誤差が出るアクシデントが生じており、安田の最終スティントではバーストの危険を回避するために内圧を少し上げていたのだ。
内圧が上がりすぎてピーキーなフィーリングになりながらも、安田は絶妙なライン取りで55号車を抑え切り、0.239秒差で勝利を手にした。
正直、タイヤのパフォーマンスでいうとやはりBSが強いのは事実だろう。「今回の優勝は荒れた天候だったから。手放しで喜べる状況ではない」とチームのメンバーは口をそろえる。
ニッサンGT-RニスモGT3の2018年モデルは、昨季GAINERが開発も兼ねて先行投入。今季から一般デリバリーに向けてフロントサスペンションのアッパーアームが変更され、剛性が上がっている。それにより昨季のセッティングが使えなくなった。新たなアッパーアームとDLの相性はあまり良くないらしい。
平中は「今日はたまたま、コンディションとDLがハマったてくれた。路温が上がるほど厳しくなると思う」と話す。とはいえ、荒れたレースに強いのはドライバー力とチーム力が高い証明でもある。今季のここまでの“一連の流れ”を見ると、荒れた展開はまだまだありそう。
2015年以来のGAINER、そしてDLのチャンピオンという可能性を感じさせる1戦となったのは間違いない。