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故・岩田聡氏との秘話や『スマブラ』裏話も……『桜井政博のゲームについて思うこと』書評

2019年05月08日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 日本における有名なゲームクリエイターを挙げていけば、桜井政博氏の名前はすぐに出てくることだろう。『星のカービィ』の産みの親であり、『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズのディレクターを務める桜井氏は、さまざまなヒット作品を手がけると同時に週刊ファミ通でコラムの連載を行っている。


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 そのコラムの一部をまとめた書籍が、2019年4月25日にKADOKAWAより発売された『桜井政博のゲームについて思うこと 2015-2019』である。ゲームクリエイターのコラムとなるとやはりゲーム制作に関する内容を想像するだろうが、本書の内容はそれだけではない。確かに桜井氏はすごいゲームクリエイターなのだが、同時にそんじょそこらのゲーム好きをはるかに超えるほどゲームを遊んでいる熱心なゲーマーでもあるのだ。


 本書の内容をいくつか挙げていこう。初代『星のカービィ』開発秘話や、キャラクターが攻撃を受けた時に一時的に動きが止まる「ヒットストップ」の重要さ、あるいはディレクションの方法論など、このあたりはゲームクリエイターが書いた内容らしいと言える。


 ある時は話題の新作ゲームを遊んで感心した点について書いたり、あるいはレトロゲームの復刻版を遊び、独立系開発者が制作したインディーゲームに触れ、VR(ヴァーチャル・リアリティ)のタイトルも積極的に手を出し、もちろんスマートフォンのゲームも忘れずにプレイする。『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズを開発するだけでも相当に忙しいはずなのに、ゲーマーとしてもかなり多くのタイトルを体験していることがわかる。


 しかもそれだけでなく、プレイヤーの意見をなるべく拾おうとする姿勢も見せている。たびたび読者からの感想や意見を取り上げるし、遊び手がゲームに不満を持って批判する行為、あるいはゲームバランスに文句を言うことなどにも真摯に取り合っているのだ。まさしく“ゲームについて思うこと”というタイトルのとおり、ゲームに関するさまざまなことを取り上げている。


 桜井氏のコラムがおもしろいのは、このようにゲームにまつわることならばなんにでもと言えるほどに多くのものに触れており、それを開発者として解釈するのはもちろん、さらになるべくゲーマーからの目線でも見ようとしているからだろう。ただ開発側の都合を語るだけでなく、それを理解してもらおうと、言葉にする努力をする。単純にゲームを遊ぶだけの我々からすれば、今まで知らなかった新たな視点をもたらしてくれる一冊となるわけだ。


 そしてもちろん、桜井氏だからこそ書けるコラムもたくさん収録されている。ゲームクリエイターであり、 任天堂の代表取締役社長を務めていた故・岩田聡氏に関するもの。ゲームを作る前から「頭の中で完成像ができている」という稀有な能力を持った桜井氏がどのように制作に取り掛かっているのか。もちろん、『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズに対してどのような考えを持ちながら作りあげたのか──。その一部も垣間見ることができるだろう。


 ゲームというものは遊ぶだけでも楽しいが、「なぜおもしろいのか」だとか、あるいは「自分はこのゲームをどうして楽しめなかったのだろうか?」、もしくは「開発側にどんな都合があったのだろうか?」などと深掘りしていくと、より奥深く味わうことができる。『桜井政博のゲームについて思うこと 2015-2019』は、ゲームを開発者の視点からも捉える一助になる。この本を読んでからまたゲームを遊ぶと、さらなる奥深さに気づくことができるようになるかもしれないのだ。


(渡邉卓也)