4月26日金曜日は、トロロッソ・ホンダのダニール・クビアトが25回目の誕生日だった。
しかしF1第4戦アゼルバイジャンGPのFP1はマンホールの問題で実質的にキャンセルとなり、FP2はインストレーションチェックでフロントサスペンションに問題が見つかって50分を失い、遅れて走り始めた9周後に自身のミスでターン7出口のウォールに飲み込まれてしまった。
今年は速さはあるのにトラブルやミスで結果に繋がらないレースが開幕から続いてしまい、上海ではかなり刺々しい雰囲気さえも漂わせていただけに、この日もさぞかしフラストレーションを募らせているのかと思いきや、当のクビアトは上機嫌だった。
がっかりな誕生日になってしまったね、と水を向けるとクビアトは驚いた表情を見せて言った。
「え、どうして? クルマはこんなにコンペティティブだし、そんなクルマで夢のF1の世界で走ることができているんだ。これ以上に幸せなことなんてないよ!」
外から見れば、トラブルとクラッシュでたった9周で終わってしまった散々な1日だったが、クビアト本人はそれ以上にマシンのコンペティティブさにいたく上機嫌だったのだ。そのくらいバクー・シティ・サーキットでトロロッソSTR14は速かった。
「クルマのフィーリングもしっかり確認できないまま走行を始めて、プッシュしたところでウォールにヒットしてしまったんだ。でも間違いなくクルマはコンペティティブだし、重要なのは速さがあるってことだよ。予選はいつもすごくタイトな争いになるから、そこできちんとタイムをまとめられるようにしっかりと準備する必要がある」
金曜日は計10周のみ。そして去年はここでレースをしていない。それでも予選に向けてクビアトに不安はなかった。
「別に難しくなんかないよ。データをチェックしたらあとは帰ってしっかり寝るだけ。以上!」
そう言って笑っていたクビアトには夜の技術ブリーフィング終わりにチームが用意したケーキでサプライズパーティが行なわれ、全スタッフから温かい拍手が送られた。
そして予選では有言実行。Q3に進出し6番手を掴み獲った。他車とはタイミングをズラして単独でアタックし、場合によっては0.4~0.5秒にもなるスリップストリームも使わずに中団グループトップのセルジオ・ペレス(レーシングポイント)とは0.088秒差。この週末のSTR14はかなりのポテンシャルを秘めていると言えた。
「僕も一度ウォールにタッチしたよ。ここでタイムを出すためにはリスクを取らなければならないんだ。だから昨日もああいうことが起きたし、今日はそれが結果に繋がった。今日のように長いセッションになると、その中で陽が出たり陰ったりもするし集中し続けるのは大変だったけどね」
「Q3はトウを使えばもう少しタイムを縮めることはできたかもしれない。だけど他車と違うタイミングでアタックして渋滞に左右されないことも大事だし、特にここのようなサーキットでは他と違うことをやるべきだと思ったんだ」
■アレクサンダー・アルボンは予選赤旗の影響で苦戦
逆にアレクサンダー・アルボンは計50分にも及んだ赤旗中断によるディレイの影響で上手く予選タイムをまとめることができなかった。精神的に落ち着きを見せたクビアトの方に一日の長が合ったと言えた。
「最終の1つ手前のコーナー(ターン15)でフロントウイングをウォールに擦らなければQ3に進むチャンスはあったと思うけど、中断を挟んでもう一度アタックに出て行く時には少し自信を失ってしまっていたんだ。路面温度が下がってクルマの挙動を感じ取ることが難しくなったことも影響していた。攻めきれなかったところもあったし、逆に攻めすぎてしまったところもあったよ」
このSTR14の速さについて、トロロッソのテクニカルディレクターであるジョディ・エジントンは中低速域の空力性能向上が鍵になったのだと説明する。
レッドブルから昨年型RB14のベースとなる部分を流用したことで、浮いたリソース(時間とコスト)を空力開発に集中させることができたのが今季のトロロッソの底上げに繋がっているのだ。本家レッドブルとは大きく異なるフェラーリ型のフロントウイングによる空力効率の向上もそのひとつだ。
「今季の我々はレッドブルのギヤボックスとリヤサスペンションを流用したが、それは主に信頼性確保を目的としたものだ。実際にここまでにトラブルは一切起きていないし、すでに今シーズン末まで走るだけのスペアパーツも確保している。これまでその開発に割いていた時間を今年は空力開発に傾注し、その結果として中低速域での空力性能を向上させることができた。それが今年のマシンのパフォーマンス向上に繋がっているんだ」
特に高速コーナーではなく中低速コーナーが連続するバクー・シティ・サーキットではそのSTR14の強みが遺憾なく発揮されることになった。それが初日からクビアトを上機嫌にさせるほどのパフォーマンスに繋がったというわけだ。
高いパフォーマンスを誇りながらもクリーンな週末を送ることができず結果が伴っていない今季のトロロッソだが、バクーでは金曜のつまずきがレース週末に影響しないほどに速さがあった。
しかし決勝が始まるとそれが間違いであったことが露呈してしまった。6番グリッドスタートのクビアトはスタート直後にマクラーレン勢をはじめとして次々と後続に抜かれ、5周目にはピットに飛び込むことになってしまったのだ。原因不明のグリップ低下と、レースペースの欠如。予選の速さからは全く想定していなかった事態だったが、それも金曜日の走り込み不足が影響したかもしれなかった。
「スタートしてしばらくしたら突然大幅にグリップを失ったんだ。クルマの何かが間違っていたんだと思う。予選であれだけコンペティティブだったのに今日になって急に速さを失ってしまったのはなぜなのか。現時点ではそれが何なのか分からないけど、その原因をしっかりと分析して学ばなければならない」
■STR14のポテンシャルの高さにチームは前向き
それでもミディアムタイヤに履き替えてからは、中団グループでポイント圏内を争う力はあった。ペレスやマクラーレン勢ほどの速さはなかったものの、クビアトの冷静なドライビングで10位入賞は確実にできたはずだった。
だが30周目のターン3でインに飛び込んで来たダニエル・リカルド(ルノー)がオーバーシュート。クビアトもその影響で曲がりきれず、コースに戻ろうとしているところにリカルドが後進で突っ込んできた。
右のフロアは大きくダメージを負い、走行の継続は不可能だった。
それでもレース後に謝罪を受けたクビアトは、リカルドに怒りをぶつけることはしなかった。
「ダニエルはもう少し忍耐が必要だったね。その前のターン1ですでに抜かれかかっていたんだけど、ターン3ではインに飛び込むにはタイトすぎたと思う。信じられなかったけど、レースではこういうこともあるからね」
「オーバーテイクをしようとしてミスを犯せばガッカリもするし慌てもする。不運だったとしか言いようがないよ。彼も自分のミスだと認めてきちんと謝ってくれたし、それはとても素晴らしいことだと思う。彼との間に個人的なわだかまりは何もないよ」
アルボンも1周目のターン1を皮切りに「レースの中で何回かはウォールにヒットした」というが、ペースは悪くなかったと振り返った。しかし予想に反してタイヤのデグラデーションが大きかったため第2スティントを有利に進めるためにピットストップを遅らせたことが結果的に大きな遅れを招き、バーチャルセーフティカーが入ったことで挽回も難しくなってしまった。
結果的にノーポイントに終わってしまったバクーの週末だったが、ポテンシャルが高かっただけにトロロッソ陣営に悲観的な雰囲気はなかった。しかしレース週末全体の組み立てという点で再び課題に直面してしまったのもまた事実だ。
次戦スペインGPでは開幕前テストのデータも充分にある。ここでしっかりとした戦いを見せ、まずは一度きちんとマシンのポテンシャルを最大限にリザルトに繋げるためのセオリーを見付け出す必要がありそうだ。