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作詞家 zoppが予想する、令和に求められる歌詞の傾向 「“低温の応援歌”がもっと増えていく」

2019年05月06日 14:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 修二と彰「青春アミーゴ」や、山下智久「抱いてセニョリータ」など、数々のヒット曲を手掛ける作詞家・zopp。彼は作詞家や小説家として活躍しながら、自ら『作詞クラブ』を主宰し、未来のヒットメイカーを育成している。これまでの本連載では、ヒット曲を生み出した名作詞家が紡いだ歌詞や、比喩表現、英詞と日本詞、歌詞の物語性、ワードアドバイザーとしての役割などについて、同氏の作品や著名アーティストの代表曲をピックアップし、存分に語ってもらってきた。


 第21回目となる今回は、オリコンが発表した平成シングル売上ランキング TOP10を軸に、平成に流行した歌詞の特徴から、令和にどんな歌詞・曲が増えるのかについてまでをじっくりと聞いた。(編集部)


(関連:テレビは平成の時代をどう切り拓いたのか? 『紅白』やアイドル文化の変遷から太田省一が振り返る


■「平成はカラオケを意識している歌詞が特徴的」
ーー『オリコン平成30年ランキング』が発表されました。


zopp:CDのセールスランキングということで、ランクインしているのは90年代の作品が中心ですね。特にシングルランキングはドラマの影響が大きいと思います。“音楽先行型”だったのが、90年代からタイアップが音楽を活性化させることが分かって、タイアップが重要視されるようになっていきました。


ーーシングルTOP10はタイアップが付いているものばかりですね。


zopp:ドラマの脚本や原作をしっかり読んで作りこんだものと、「世界に一つだけの花」のようなまず曲があって後からタイアップが付いたもので歌詞に大きな違いがあります。前者はより具体的な歌詞で、歌詞を書く側としても、タイアップによってこれまでに作ったことのない歌詞が書ける。例えば失恋の曲を書いたことがなくても、失恋をテーマにしたドラマだったらそういう歌詞にチャレンジできたり。それまでは自分から湧き出たものしか作れなかったけれど、タイアップによって新しい扉が開ける。そこがタイアップの良さだと思います。


ーーDREAMS COME TRUEの「LOVE LOVE LOVE」、CHAGE&ASKA(現:CHAGE and ASKA)の「YAH YAH YAH」と同じ言葉が3つ続いているタイトルが気になりました。


zopp:僕が作詞した「抱いてセニョリータ」(山下智久)も〈抱いて 抱いて 抱いて〉とサビで3回繰り返しています。日本人は「五・七・五」もそうですが、音感的に奇数を好む傾向がある。でも、タイトルや歌詞で同じ言葉を5回繰り返すのは多すぎるので3回なんだと思います。そういえば『HEY!HEY!HEY!』も3回でしたね。


ーー「LOVE LOVE LOVE」はハミングも印象的です。


zopp:当時海外で流行していたというのもあると思いますが、〈ルルルルル〉で相手に考える余地を作っている。カラオケではそこに自分の好きな言葉を入れられますし、面白い作りだと思います。デュエットで盛り上がれるCHAGE and ASKAもそうですが、こうして見ると平成はカラオケを意識している歌詞が特徴的ですね。また、平成の初期はラブストーリーを描いたドラマが多かったこともあり、ランクインしているのもストレートなラブソングばかりです。後期に入るとリスナーの知識欲が増して、ラブソングでも「失恋したらこうしよう」といった何かを学べる曲が増えていきました。とはいえ、時代は変われどラブソングは多い。人と人とのつながりを描いた曲はこれからも続くと思います。


ーー失恋ソングとポジティブなラブソングはどちらが多いのでしょう?


zopp:ポップスの6~7割が失恋ソングという説がありますね。最終的にハッピーになる曲を書こうと思ったら、最初は悲しいところから始めますし、全編悲しい、もしくは楽しい曲ってなかなかない。どこにフォーカスするかによって変わってくると思います。ただ、ウォークマンが登場してから、移動する時に1人で音楽を聴くことが多くなった。車で皆で聴くときなどはハッピーな歌が多いかもしれませんが、1人だと悲しい歌を聴きたくなるんじゃないでしょうか。


ーー昭和と平成でその割合は変わったんでしょうか。


zopp:昭和は激動の時代で、ポップスはポジティブなものが、演歌は悲しいものが多かった気がします。平成に入って、演歌がメインストリームから離れて、ポップスに悲しい歌が多くなった。平成は悲しい出来事も多かったので、そういった時流も反映されているんじゃないでしょうか。


■「これからより必要とされそうなのは“自分を応援する歌”」
ーー令和ではどんな歌詞が流行ると思いますか。


zopp:宇多田ヒカルさんの「Movin’ on without you」のMVのような、リアルではない相手を対象にした曲がもっと増えていくんじゃないでしょうか。映画ではロボットとの恋愛、などといったテーマも多いので、音楽にもその流れが入り込んでくる可能性があるのではないでしょうか。最近ではバーチャルなキャラクターのコンサートも増えていますし、もっと人気が出ていきそうですね。以前はアイドルなどに純真無垢なイメージや夢を抱いたりしていましたが、そのイメージが薄れてきて、いわゆるオタクだけでなく一般層の人もバーチャルな存在に流れていくんじゃないかなと思います。“デジタルラブ”というか。


ーーVTuberがアーティストデビューしている例も増えていますよね。


zopp:まさにそうですね。また、日本では歌い手の見た目も気にする傾向がありますが、VTuberの場合は実力があれば、キャラクターを通して人気を得られるので、門戸が広がりそうですね。


ーーバーチャルな存在を意識した歌以外に、今後増えていきそうな歌詞はありますか。


zopp:これからより必要とされそうなのは“自分を応援する歌”です。頑張らないといけない空気感がある一方、特に若者に頑張ることが苦手な人は多い。ウルフルズの「ガッツだぜ!!」が100とすると、30~40くらいの“低温の応援歌”がもっと増えていくんじゃないかなと思います。「頑張れ」というより、「大丈夫」というスタンスで、背中を押すよりも肩を組んだり手をつなぐようなイメージですね。例えば、back numberは“低温のラブソング”というイメージがあります。恋愛はしているけど、どこか冷めている。あいみょんさんや米津玄師さんもそう。平成の初期は小室哲哉さんがカラオケで練習してもらえるようにとにかくキーを高くして、憧れの存在だったアーティストや曲を生み出していました。でも今は“共感系アーティスト”が多いので、その流れが続くんじゃないでしょうか。「世界に一つだけの花」のような、“ナンバーワンじゃなくてオンリーワン”というスタンスになりそうです。その先にもう一回、熱い歌やアーティストがくるかもしれませんね。


 平成のシングルTOP10もとても普遍的な曲が多いですが、令和のトップ10を見ても、歌っていることは普遍的なんじゃないかなと。あとは人間の寿命も延びていますし、セカンドライフに焦点を当てた歌詞も出てくるかもしれませんね。


ーースマートフォンの進化も歌詞に影響していくのでしょうか。


zopp:スマホは自分とは別のもの、相棒といったイメージでしたが、メガネや、身体にICチップを入れたりするようになったらまた変わりますよね。連絡手段は恋愛ソングに大切な要素。スマホが進化するとアイテムや方法論は変わりますが、感情は不変だと思います。


ーー平成はCDからMD、ストリーミングや配信と音楽メディアが大きく変化した時代でもありました。令和におけるヒットの指標はどう変わっていくのでしょう。


zopp:平成最後のヒット曲の一つ、「Lemon」(米津玄師)と「U.S.A.」(DA PUMP)を考えると、「Lemon」はドラマ主題歌ですが、「U.S.A.」はネットから広まった曲です。初期はまだテレビの影響があると思いますが、YouTubeやSNSから盛り上がってヒットする曲ももっと増えていく気がします。