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刑務所にいた過去、会社に打ち明けたらクビ「社会の目があるから…」 再起できず苦悩

2019年05月06日 10:01  弁護士ドットコム

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「刑務所に入っていた人を会社に置いておくのは、社会の目があるからちょっと…」。宮原さん(30代・仮名)は会社でこのように言われ、職場を去った。


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3月19日、東京・霞が関の弁護士会館で開催された講演会「出所者の生活・就労支援と弁護士活動について」(主催:第一東京弁護士会刑事法制委員会)で、体験談を語った宮原さん。(過去記事:「2度と刑務所に戻らない」出所者の決意を支援、元受刑者の取組み https://www.bengo4.com/c_1009/n_9403/)



仕事を始めて2、3カ月経ったころに誘われた会社の飲み会で、服役していたことを打ち明けたのだという。



宮原さんだけではない。弁護士ドットコムにも「無遅刻・無欠勤で働いてきましたが、前科があることを話したところ、クビと言われました。その日のうちに辞めさせられました」という悩みが寄せられている。



服役経験や前科があることは知られたくない事実だ。しかし、前科を隠していたことがバレてしまったら、解雇されても仕方がないのだろうか。労働問題にくわしい大川一夫弁護士に聞いた。



●採用時に告げなかったら「経歴詐称」となるのか

履歴書には、賞罰を記入する欄が存在することもあるが、前科を記入していなかった場合、経歴詐称となるのか。



「採用の判断に影響する事柄を伏せることは経歴詐称になります。そのため、今までは前科を伏せることも経歴詐称と考えられていました。



しかし、2017年に施行された改正個人情報保護法で、前科は『要配慮事項』となり、本人の同意なく前科の情報を取得できないことになりました。



そのため、履歴書の賞罰欄は『前科を伏せたい者にまで前科の記載を求めるものではない』と解される余地があります。



また、履歴書に賞罰の記入欄がなく、採用面接でも前科の有無を聞かれなかったという場合も、先ほど説明した改正個人情報保護法の趣旨からして、経歴詐称にならないといえるでしょう」



●バレてしまったら、解雇されてしまう可能性

履歴書に書かなくてもよかったとしても、採用後に前科があることがバレてしまった場合、会社としては、解雇することは可能なのか。



「会社側は採用時、労働者について『労働力があるか』という判断をします。その判断に大きく影響するような事柄を『詐称』することは、信義則違反として許されません。



判例にも、有罪確定判決の秘匿を理由に、懲戒解雇を認めたものがあります」



となると、前科がバレたら、解雇されても仕方ないのだろうか。



「いいえ。必ずしも、そういうわけではありません。採用後、相当期間にわたって大過なく勤務した場合、経歴詐称の信義則違反は『治癒される』と言われています」



●前科があるというだけで解雇することに合理性はあるのか

今回の事例の場合はどうなのか。宮原さんは採用されてから2、3カ月後に刑務所にいたことを打ち明け、退職を迫られている。



「勤務していた期間が短いため、いわゆる『治癒』論で労働者を救済するのはむずかしいでしょう。また、前科を自ら明かしている場合は個人情報保護法違反の問題にはなりません。



そうすると、先の判例の存在からして解雇やむなしとなりそうです。



しかし、前科が何年も前で、その後立派に更生している人を単に前科があるというだけで解雇することに合理性があるのか躊躇を覚えます。



無論、前科が直近で、その犯罪が職務と関係するような場合などは解雇やむなしとなる可能性もあります。たしかに判例はありますが、今後はその前科の中身など慎重に判断されるようになるのではないでしょうか」



大川弁護士は「もしどんな場合でも『前科』があるという理由で解雇が許されるとなれば、前科がある人は社会内で更生できません」と指摘していた。



「生き直したい」。そう願って、再び社会に復帰するために努力している人もいる。社会の中で更生するためには、本人の努力だけでなく、周囲の理解も不可欠といえそうだ。



(弁護士ドットコムニュース)




【取材協力弁護士】
大川 一夫(おおかわ・かずお)弁護士
大阪弁護士会所属、元同会副会長。労働問題特別委員会委員、刑事弁護委員会委員など。日本労働法学会会員、龍谷大非常勤講師。連合大阪法曹団代表幹事、大阪労働者弁護団幹事など。
事務所名:大川法律事務所
事務所URL:http://www.okawa-law.com