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『ミュウツーの逆襲』なぜ今3DCGでリメイク? 近年のポケモン映画が置かれる状況から読み解く

2019年05月06日 08:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 毎年恒例であったポケモンの劇場版シリーズに大きな注目が集まっている。シリーズ1作目ながらも世界的に高い興行収入を記録し、ファンからも高い人気を誇るポケモン映画を代表する名作『ミュウツーの逆襲』をCGアニメとしてリメイクされることが発表されたためである。この記事では本作がもつ魅力と共に、なぜこのタイミングでCGとしてリメイクしていくのかを考えていきたい。


参考:劇場版ポケモン『みんなの物語』が描く“ポケモンと人間の関係” 来年のミュウツーが問い直す流れに?


 ゲームの大ヒットにより子供を中心に高い人気を集めていたポケットモンスターシリーズの初の劇場版作品として注目を集めていた『ミュウツーの逆襲』は1998年7月に公開された。その結果、日本国内のみで76億円という高い興行収入のほか、北米を中心に世界各国で歴史的な大ヒットを記録している。


 本作の魅力の1つが遺伝子組み換え食品の安全性に対する問題や、羊のドリーの誕生に伴う倫理問題の面からも世界的に論争を巻き起こしていた遺伝子の解明と遺伝子操作をテーマに添えた点である。今作で中心的な存在である伝説のポケモンのミュウツーはミュウの遺伝子を改造することによって作られている。人間に作られた生命、あるいはコピーのポケモンを通して、その存在の是非や科学の功罪に対する向き合い方など、社会的な一面が発揮されていた。


 同時にミュウツーはミュウというオリジナルの存在がいる一方で、自身がコピーの存在であるという悩みを持ち続けている。この「己とは何者なのか?」という自己の存在理由の探求もテーマとしている。ミュウツーの自己の存在に対する疑問は”我思う、故に我あり”というデカルトの哲学と通じるものがあり、青春期の若者たちを描いた実写作品にも多く見受けられ、普遍的な問いを観客に投げかけている。


 また脚本を担当した首藤剛志は、目を守る機能として涙を流す動物はいるものの、感情によって涙を流す動物は人間だけだと言われているという説を紹介している。しかし、作中のピカチュウが涙を流し、それが他のポケモンたちにも波及するという名シーンがあるが、本作で描かれたポケモンたちは単なる動物やモンスターではなく、人間に近い感情を持つということを表現している。またオリジナルの存在であっても、人間に作られたコピーであっても、感情や思考を持つという点において何も変わらないことを示している。


 ゲームでは、ポケモンたちを戦わせることでレベルを上げていき、強力なライバルと戦い勝ち抜くというシステムだが、ポケモンバトルの残酷さなども感じさせることにより、戦うだけが全てではないという平和的な思想も伺うことができる。本作は最先端の科学に対する懸念と倫理問題、若者たちが抱える内面の問題、平和的な思想を啓蒙する教育的な面など多くの見どころを兼ね備え観客の涙を誘う名作となった。


 ではなぜその名作を今になってCG作品でリメイクするのだろうか? それは近年のポケモン映画のおかれた状況と関係があると推測する。『ミュウツーの逆襲』の驚異的なヒットをピークにポケモン映画は興行的には毎年30億円前後の興行収入を記録する大ヒットシリーズではあるものの、大きな盛り上がりを見せることができない状況が続いていた。


 そして2016年の『ポケモン・ザ・ムービーXY &Z ボルケニオンと機巧のマギアナ』では約21億円とシリーズ最低の興行成績となってしまう。本作は大手レビューサイトなどでも好意的なレビューが多いのだが、2016年の夏には『ファインディング・ドリー』『シン・ゴジラ』『君の名は。』などの記録的な大ヒット作品が次々と公開されたこともあり、決して作品そのものの出来は悪くないにも関わらず、競合のファミリー映画の前に苦戦を強いられた。


 そこで登場するのが今年の『ミュウツーの逆襲  EVOLUTION』である。ポケモンシリーズは世界中で高い知名度と人気を誇る作品であるが、北米ではすでに3DCGアニメが一般的なこともあり、近年では劇場版作品がその存在感を発揮することは難しくなっていた。そこで『ルドルフとイッパイアッテナ』で3DCGアニメに挑戦していた湯山邦彦監督が挑んだのがポケモンだった。『ミュウツーの逆襲』に当時熱狂した世代はすでに大人となっており、家庭を持ち子供がいる人も多いだろう。2世代にわたって楽しんでもらえるコンテンツであるポケモンを3DCG化することによって、単なるリメイクとして日本のファミリー層を呼び込むだけでなく、北米など世界中で高い興行収入を得ることを期待したのではないだろうか。


 日本のアニメ産業は世界でも高く評価されており、『ドラゴンボール超 ブロリー』は高い原作人気もあって世界中で大ヒットを記録し、世界興行収入は100億円を超えている。その他にも『僕のヒーローアカデミアTHE MOVIE 2人の英雄(ヒーロー)』も北米を中心にヒットしているほか、北米以外でも『ドラえもん』や『名探偵コナン』などのファミリー向けアニメ映画が中国で1億元(2019年4月のレートで約16億7千万円)のヒットを記録している。世界中でのポケモン人気はこれらの作品と比べても決して劣らぬことを考えると『ミュウツーの逆襲  EVOLUTION』も記録的なヒットも期待できる。


 また興行以外の面においても、予告を見る限りにおいてリザードンが火炎放射を放つシーンなどは迫力があり、作品のクオリティ自体も高いものが期待できる。また、手法も一新したことによって“リメイク(コピー)がオリジナルを超える”ことができるのかという試みもあるようにも感じられる。どうしてもリメイク前と比べられてしまうところもあるだろうが、願わくば“どちらも違ってどちらもいい”という作品に仕上がっていてほしい。


 2019年はポケモンが初の実写映画化された『名探偵ピカチュウ』も公開されており、ポケモンシリーズ全体に大きな注目を寄せられている。『名探偵ピカチュウ』と公開時期を若干ずらしたのは事前に協議などがあったのかはわからないが、ハリウッドで製作された初の実写化作品と、日本で製作された初の3DCG作品が同年の比較的近い時期に公開されるのは偶然としても面白い。『名探偵ピカチュウ』は、『ミュウツーの逆襲』を意識した部分も見受けられ、相乗効果で日本のみならず世界中でどのような反応と興行収入を記録するのだろうか。今後のポケモン映画の興行を左右する可能性もあるだけに、その動向に注目していきたい。


■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。