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稲垣吾郎と本棚を共有し1冊ずつ増えていくワクワク感 『ゴロウ・デラックス』本の全リストを見て

2019年05月06日 07:31  リアルサウンド

リアルサウンド

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 「本棚を見れば、その人がわかる」なんて言葉を聞いたことがある。触れてきた言葉は、人となりを構成する大切な要素。実際には、なかなか相手の本棚を見るタイミングはないが、私たちは“稲垣吾郎の本棚”の一部を共有することはできる。


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 『週刊文春WOMAN』(2019GW号)では、稲垣がMCを務めていた『ゴロウ・デラックス』(TBS系)で出会った本の全リストが掲載されている。その数、8年間で318冊。毎週、課題図書として稲垣が読んできた本たちだ。


 本棚に並ぶ背表紙を見て、内容が思い出されるように、その羅列されたリストから稲垣が作家たちと穏やかに語り合った姿が目に浮かぶ。「そうなのだ、大事なのは読んだことのない本ではなく、読んだ本なのだ、と」。『ゴロウ・デラックス』で稲垣が最後に朗読した沢木耕太郎の『銀河を渡る 全エッセイ』の一節がフラッシュバックしてくる。


 「もうちょっと続けられたし、続けたかったなって思いは正直あります」と、稲垣自身も語るように、番組は多くの惜しむ声が上がる中、3月28日に最終回を迎えた。


 『ゴロウ・デラックス』が丁寧に作られた番組であったことは、視聴者にも十分に伝わっていた。紳士的で、知的で、落ち着いた雰囲気の中で、作家たちの魅力が引き出されていく、他に類を見ない番組だった。稲垣の口からスタッフの気配り、そして稲垣自身が「とにかく相手を知りたいという気持ちを伝えるんだ」と誠意を持って番組に向き合っていたことを聞くと、改めて素晴らしい番組が幕を閉じてしまったことを残念に思う。


 自分でも「内向的で人見知り」と認めるように、稲垣のパーソナルイメージは決して社交的ではない。最近でこそ「イラチ(すぐにイライラしてしまう)」と繊細で敏感な性格を自らネタにする場面もあるが、それでもやはり稲垣の心の扉はフルオープンには見えない。しかし、だからこそ、そんな稲垣の心の扉を開いた本、そして著者に、好奇心が掻き立てられたのだろう。


 また、「真っ白なところからものを作っていく方々には、劣等感みたいなものをずっと抱いている。劣等感が、憧れや尊敬に繋がっていくんですけどね」という言葉も印象的だ。その劣等感と呼ぶ視点は、私たち視聴者と限りなく近い。稲垣自身も素晴らしい才能を持っているにも関わらず、「劣等感がある」と話せる稲垣の冷静な眼差しとブレのなさが『ゴロウ・デラックス』を品のある番組にしていたのだと改めて感じる。


 だが、「番組が終わったからといって、全てがゼロになるわけではない」と稲垣は前向きだ。インタビュアーとして作家と対談していく企画も大歓迎だという。いつか自分でも文章を書いてみたいという夢も。そして、アーティストとして活躍中の香取慎吾と共に「絵本作りも素敵なのかも」とアイデアは止まらない。


 同番組で稲垣の相棒を務め、彼の読み、聞く力を間近に感じてきたTBSアナウンサー外山惠理も「インタビュアーとしての仕事を続けてほしい」と熱望している。そして、いつかまた『ゴロウ・デラックス』がやりたい、それが難しければ別の形であっても、この精神を受け継いだ企画をやりたい、とも。それはきっとこの番組に携わったスタッフや出演した著者たち、または出演を夢見た作家たち、そして番組を楽しみにしていた視聴者すべての願いだろう。


 稲垣吾郎と本棚を共有し、1冊ずつ増えていくワクワクを、またいつか。その日が来ることを信じて、318冊の本をもう一度味わい直しておこう。(文=佐藤結衣)