WEC世界耐久選手権のLMP1クラスに唯一のメーカーワークスチームとして参戦しているTOYOTA GAZOO Racingは5月4日、ベルギーのスパ・フランコルシャンで行われた2018/2019年シーズン第7戦スパ6時間レースの決勝に臨み、セバスチャン・ブエミ、中嶋一貴、フェルナンド・アロンソ組8号車トヨタTS050ハイブリッドが優勝を飾った。また、僚友7号車トヨタTS050ハイブリッドも6位となり、トヨタは最終戦を待たずにLMP1チームチャンピオンを獲得している。
2018年から2019年にまたがって行われているスーパーシーズンで6戦5勝、5回のワン・ツー・フィニッシュを飾っているトヨタは、ランキング2番手につけるレベリオン・レーシングに対して53ポイントのアドバンテージを持って第7戦を迎えた。このスパラウンドでチームタイトルを決めることを目標としていたトヨタは、“スパウェザー”に見舞われた3日の予選でフロントロウを独占。6回目のワン・ツー・フィニッシュに向けて準備を整えた。
6時間の決勝レースは日差しが降り注ぐなかでスタートを迎えたものの、すぐに天気が急変し、激しい雨と雪がサーキットを襲った。そのなかでもマイク・コンウェイ駆るポールシッターの7号車トヨタは先頭をキープ。また、2番手スタートとなった8号車トヨタもタイヤ交換でタイムロスがあり順位を落としたものの、すぐに2番手に返り咲くと、19周目にはブエミがコンウェイを交わして総合首位に躍り出る。
■レインからスリックへの転換期、8号車はタイヤ交換が“できなかった”
しかし、トップに立ちチームメイトに対して約7秒のリードを築いた8号車はコース上のアクシデントによって導入された2度目のセーフティカー(SC)ラン中に給油が必要となってしまう。このため、チームはピットレーン開放前に許される5秒間の給油のみの作業を行い、8号車をコースに復帰させた。
一方、コンウェイがドライブする7号車は燃料をセーブしていたことから、ピットレーン解放後に予定どおりのピットイン。給油とタイヤ交換を行ってコースへと戻った。
その後、8号車は再度フル給油を行うと同時にタイヤもレインからスリックに交換していくが、このピットインがSCラン開けのタイミングと重なったことで10番手までポジションを落とすこととなってしまった。
しかし、スリックタイヤに交換したブエミはすぐさま追い上げを開始し、レース開始から約2時間後に導入されたフルコースイエロー(FCY)導入時には7号車に次ぐ2番手まで順位を挽回する。その後、2台のトヨタTS050ハイブリッドは7号車がコンウェイから小林可夢偉、8号車はブエミからアロンソにバトンが渡されていった。
■チャンスの小林可夢偉組7号車を襲ったマシントラブル
一時は吹雪となった天気も安定したレース中盤は、可夢偉とアロンソが45~50秒の間隔で1、2番手を走行する展開に。しかし、まもなく3時間を迎えようとしたところで、首位を走る7号車が突然のセンサートラブルに見舞われて緊急ピットイン。
ピットガレージで迅速な原因究明と対策が施された7号車だったが、この作業に約11分を要したことで、トップから4周遅れの総合22番手まで後退してしまう。
レース終盤、7号車の脱落によって総合首位に立った8号車はアロンソ、一貴、アロンソとつなぎながら、再び降り出した雨雪のなか2番手以下をラップダウンにすると、最後は悪天候のために赤旗終了となったレースを制した。
また、7号車も可夢偉から交代したホセ-マリア・ロペスが必死の追い上げをみせ、約3時間の間にポジションを大きく回復。最終的に総合6位/クラス6位入賞を果たした。この結果、TOYOTA GAZOO Racingはチームポイントを177点とし最終戦を待たずに、ダブルタイトルを獲得した2014年以来、4シーズンぶりにチームタイトル獲得を確定させている。
なお、ドライバーズタイトルは8号車と7号車のポイント差が14ポイントから31ポイントに広がったものの、最終戦ル・マンでは最大39ポイントが獲得できることから、戴冠決定の瞬間は次戦に持ち越しとなっている。
「今日決めることができたFIA世界耐久選手権(WEC)ワールドチャンピオンをチームのみんなと祝いたいと思います。これは、昨年からチームの全員がたゆまない努力を積み重ねてきた結果です」と語るのは、TOYOTA GAZOO Racing WECチームを率いる村田久武チーム代表。
「今日のレースはチャレンジングなものでした。非常に速かったにもかかわらず、センサーの問題で優勝のチャンスを逃がした7号車のドライバー達には大変申し訳ないことをしました」
「一方、8号車のドライバー達は不運があったにもかかわらず、最後まで素晴らしい走りで優勝を勝ち取ってくれました。いよいよ次はル・マンです。昨年の優勝後から1年かけて準備をしてきた集大成をお見せしたいと思います」
■小林可夢偉「勝てるクルマですべてが上手くいっていたので、もどかしいレースになった」
「10分程の間に4つの季節が訪れたような不安定な天候のレースだった」と大荒れのレースを振り返ったコンウェイ。
「我々は技術的な問題により数ラップを失ってしまった。それまで我々は十分なリードを保てており、本当に速く、全員が良い仕事をしていたんだ」
「ホセ(-マリア・ロペス)と可夢偉のふたりは、可能な限りポジションを回復すべく激しく追い上げたが、セーフティカーの導入により、完全には遅れを取り戻せませなかった。与えられた状況のなかで、僕たちにできるベストを尽くしたと思います」
また、ロペスもコンウェイと同様に「できることをすべてやり尽くした。だから、がっかりはしていない」と語る。
「(7号車が)最速のクルマであることを示すことができたし、そのことをとても誇りに思うよ。やるべきことはすべて上手くでき、ひとつのミスもなかった。残念ながら結果は上手くはいかなかったけれど、これがレースと言うものだよ」
「我々はル・マン優勝という、もうひとつの大きな目標に向け、全力で立ち向かって行く予定だ!」
トラブル発生時にマシンのステアリングを握っていた可夢偉は、「勝てるクルマでしたし、技術的な問題が起こるまではすべてが上手くいっていましたので、大変もどかしいレースとなりました」とコメント。
「レースでは起こりうることですが、今シーズンはここまで何の問題も起きていませんでしたので残念です」
「我々は挽回するために最善を尽くし、良いパフォーマンスを示しましたが、これだけの時間を失ってしまった後では、表彰台に上がるチャンスは実質失われていました」
■「7号車のトラブルはとても残念。彼らの速さに追いつくことは難しかった」とブエミ
「目まぐるしく激変する天候に翻弄されたレースでした。7号車の不運によって我々が優勝することができ、申し訳なく思っています」と語るのは、8号車をドライブした一貴だ。
「何度も困難な場面に直面したことは、ル・マンに臨むための試練だと考えています。今回のひとつの目標だったチームタイトルを決めることができて、ささやかながらお祝いをすることができました」
「次回は、最大目標のル・マン連覇とトライバーチャンピオン獲得の大仕事が待っています。それがどれだけ困難なものか誰よりも心得ていると思っています」
大荒れのレースのスタートドライバーを務めたブエミは、「もちろん優勝はうれしいけれど……トップを走っていた7号車にトラブルが発生してしまい、とても残念な気持ちだよ」と複雑な心境を明かした。
「今日の7号車の速さに追いつくことは難しかったので、本来ならばこんな結果ではなかったはずなんだ」
「一方、我々は序盤に不運と無線不具合に見舞われこそしたが、最終的にはチームはチャンピオンを獲得できたことはとてもうれしい結果になった」
「ドライバーポイントのマージンを広げて、最終戦のル・マン24時間レースに臨むことになるけれど、タイトル獲得の保証は何もない。だから、ル・マンには正々堂々と臨みたいと思っているんだ」
また、今シーズン限りでのトヨタWECチームからの離脱が発表されたアロンソもチームタイトル獲得を喜ぶ。
「激変する天候に加え、いくつかの問題が発生した前半は、本当に難しいレースだったね。気持ちが上向いたり、沈んだりの状態だったよ」
「今日の最大の目的はチームチャンピオンを決めることだったが、見事TOYOTA GAZOO Racingにタイトルがもたらされて、とてもうれしく思っている」
「今シーズンのここまでの結果は素晴らしい内容ばかりだった。最終戦のル・マンでも連覇とドライバータイトル獲得に向けて全力を尽くしたいと思っているよ」と抱負を述べた。
トヨタの大会2連覇がかかる第87回ル・マン24時間レースは6月12~16日、フランスのサルトサーキットで開催される。