2019年05月05日 08:41 弁護士ドットコム
都内の会社員J子さんは先日、取引先への訪問を終え、そのまま上司とランチをすることになった。その時、上司は思いがけない行動に出たのだという。
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J子さんはその日のことを、こう話す。「暑い日でした。訪問先はちょうどサラリーマンが行きやすい1000円くらいのお店が多いところで、私たちはイタリアンのお店に入りました。すると上司は、席に座ってメニューをめくりながら『ビール飲んじゃおうかな』と言ったんです」。
驚くJ子さんだったが、上司はワイングラスで出されたビールを平然と飲み干し、帰社後はいつも通り、仕事をしていたそうだ。「お酒に強い人だったので、グラス一杯程度のビールなら影響はないのかもしれません。でもさすがに会社員としては不適切なんじゃないかと思います」と首を傾げるJ子さん。
J子さんは他の上司や同僚に告げ口はしなかった。ただ「就業規則には書かれていませんでしたが、もし誰かに言っていたら、懲戒処分もあり得たのではないかと思う」と話していた。
仕事の合間に、ビールなどアルコール飲料を飲んだらクビなど懲戒処分となり得るのだろうか。澤藤亮介弁護士に聞いた。
仕事の合間にビールを飲んで、解雇されるということはありうるのか。
「即解雇というのは解雇権の濫用となり、不当解雇になるでしょう。昼食中の1回の飲酒のみを理由とする解雇は、懲戒処分としては行き過ぎです」
澤藤弁護士はこう述べる。
「現在の労働法制においては、雇い主の解雇権は厳しく制約されています。客観的合理的理由のない解雇は原則無効とされています(労働契約法16条)。
言うまでもなく、解雇は、従業員の将来の生活を脅かすいわば『死刑判決』のようなものです。たとえ、給与を払う立場の雇い主であったとしても、自由に解雇権を行使できるものではありません。
不当解雇は解雇そのものが無効となるだけではなく、不法行為として雇い主に損害賠償義務も発生させます」
就業規則で飲酒行為を禁止していなかったとしても、雇い主側の判断で懲戒処分になることはあるのだろうか。
「雇い主側が『社内の秩序を乱すような行為』と判断するようであれば、ありえます。しかし、まずは軽い懲戒処分である口頭または文書での戒告処分程度にとどめるべきです。
仕事の合間にビールを飲んで酔っ払ってしまい、周りに迷惑をかけたり、実害を与えたりした場合も同様です。
それでも繰り返すようであれば、その時点で初めて、より重い処分を検討すべきでしょう。
そのような『プロセス』を経ることなく、いきなり最も重い処分である懲戒解雇とすることは、客観的合理的理由のない解雇となり、無効な不当解雇と判断されるでしょう」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
澤藤 亮介(さわふじ・りょうすけ)弁護士
東京弁護士会所属。離婚、男女問題などを中心に取り扱う。自身がiPhoneなどのデバイスが好きなこともあり、ITをフル活用し業務の効率化を図っている。日経BP社『iPadで行こう!』などにも寄稿。
事務所名:新宿キーウェスト法律事務所
事務所URL:https://www.keywest-law.com