私たちは、社会保険料を納めることで、様々な社会保障の恩恵にあずかっています。中でも医療費は、その性質ゆえ、家計の負担が重くならないよう公的な保障が手厚くなっています。
例えば、1か月の医療費が自己負担の上限額を超えた場合に、超えた金額が払い戻される高額療養費制度や、会社員の場合、長期療養時に最長1年6か月にわたり、収入の約3分の2を受け取れる傷病手当金などもあります。これらは、男性女性関係なく受けられる保障ですが、女性の場合、もう一歩踏み込んで備えておくことをおすすめします。(文:楽天証券経済研究所・ファンドアナリスト 篠田尚子)
入院だけでなく、妊娠・出産にかかる費用も考えておく
■【治療費以外の備え】
近年、乳がんや子宮頸がんなどの女性特有の病気の罹患率は増加傾向にあります。婦人科検診を含め、近年は自治体や健康保険組合の補助も充実してきましたが、公的な医療保険の対象から外れる部分については、民間の医療保険でカバーする必要があります。
その代表例が、希望して個室に入院した場合などに発生する差額ベッド代(正確には特別療養環境室料といいます)です。差額ベッド代は、健康保険の対象外で、全額が自己負担となります。女性の場合は特に、療養時のプライバシーを確保したいという要望が多いため、ニーズに合わせて医療保険でカバーすることも検討したほうが良いでしょう。
■【妊娠・出産のための備え】
そしてもう1つ、妊娠・出産時にかかる費用についても、妊活前に考えておくことをおすすめします。
国民健康保険中央会の調べによれば、正常分娩における妊婦の平均合計負担額は約51万円。ただし、健康保険や国民健康保険に申請すれば、1児につき原則42万円が出産育児一時金として支給されるため、基本は、この差額分を準備しておけば出産費用を賄うことができます。
ポイントは、帝王切開などの異常分娩となった場合にかかる追加的な費用です。帝王切開には、あらかじめ計画しておこなう選択帝王切開と、出産中に自然分娩から急きょ切り替えておこなう緊急帝王切開があります。いずれの場合でも、正常分娩と比べて費用は高額になります。プラス20万円前後のことが多く、入院が長期化するとさらに費用がかさむことになります。
帝王切開を含む異常分娩では、健康保険が適用になり、さらに、前述の高額療養費制度も利用できるため、自己負担額が急増することは考えにくいですが、不安がある場合は、医療保険で備えておくと良いでしょう。
異常分娩は、「疾病(病気)」に該当します。女性向けの商品でなくとも、一般的な医療保険であれば給付金が支払われるケースが多くなっています。既に医療保険に加入している場合は、保障対象になるか、あらかじめ保険会社に確認しておきましょう。
なお、出産前後の生活費について、会社員の場合は、産前産後休暇中に出産手当金としてお給料の約3分の2が支払われるほか、育児休業を取得している間、最長で子どもが2歳になるまで、お給料の約3分の2(6か月経過後は2分の1)を育児休業給付金として受け取ることができます。自営業者やフリーランスの場合、こうした手当はないため、医療保険の加入とは別に、事前の準備を検討してください。
【筆者プロフィール】
篠田 尚子(しのだ しょうこ)
楽天証券経済研究所 ファンドアナリスト
AFP(日本FP協会認定)
国内の銀行において個人向け資産運用のアドバイス業務に携わった後、2006年ロイター・ジャパン入社。傘下の投信評価機関リッパーにて、世界中の機関投資家へ向けて日本の投資信託市場調査および評価分析レポートの配信業務に従事。同時に、世界各国で開催される資産運用業界の国際カンファレンスで日本の投資信託市場にまつわる講演も数多く行う。2013年にロイターを退職し、楽天証券経済研究所に入所。各種メディアで投資信託についての多くのコメントを手掛けるほか、銘柄選びに役立つ各種コンテンツの企画や、高校生から年金受給層まで、幅広い年齢層を対象とした資産形成セミナーの講師も務めるなど、投資教育にも積極的に取り組んでいる。著書に「本当にお金が増える投資信託は、この10本です。」、「新しい!お金の増やし方の教科書」(ともにSBクリエイティブ)などがある。