令和元年、最初の1戦となる富士スピードウェイでの2019年スーパーGT第2戦決勝が5月4日に開催され、2戦連続天候に翻弄された大混乱の内容ながら、ZENT CERUMO LC500の立川祐路/石浦宏明組がオーバーテイク満載、逆転に次ぐ逆転のレースを制し、2年ぶりの500kmレース勝利を手にした。
恒例となったゴールデンウイークの500km長距離決戦は、史上初の大型10連休後半での開催ということもあり、朝から富士スピードウェイ周辺はファンの車列が連なる満員御礼の大混雑。正午まで快晴のサーキットには当日5万6千人の大観衆が詰めかけた。
前日のドライ路面で争われた予選では、開幕から2戦連続の"レコードブレイカー"となる驚異のスピードを披露したMOTUL AUTECH GT-Rが連続ポールを獲得。同じくニッサン陣営の12号車カルソニック IMPUL GT-Rはセカンドロウ3番手、そして8番グリッドとなるCRAFTSPORT MOTUL GT-Rも、Q2でのトラックリミット違反がなければ実質12号車の背後4番手と、GT-Rがこの富士スピードウェイでの相性の良さを感じさせる速さをみせた。
一方、レクサス勢は決勝を見据えたタイヤチョイスがグリッドに反映され、ソフトを選択したKeePer TOM'S LC500がフロントロウ2番手を確保。開幕からの反転攻勢に向け前方視界を確保したが、ホンダ勢は前戦でまさかの同士討ちを演じたKEIHIN NSX-GTが6番手、RAYBRIG NSX-GTは12番手と、500km長距離戦で後方からの浮上を狙う形になった。
前日の予報から急な降雨の可能性がささやかれていたが、決勝前12時55分開始のウォームアップ走行から雲行きが怪しくなり、セッション中盤には軽い雨が落ち始める。
その後、なんとか堪えていた雨は14時10分のグリッドウォーク終了と同時に無情にも強まり始め、スタート開始5分前のクルー撤収直前でレインタイヤへの交換を決断するチームが多数派を占める状況となり、開幕戦同様のセーフティカー(SC)先導スタートの決断が下され、パトカー先導のパレードラップも2戦連続で中止されることになった。
SCに隊列を率いられながら路面状況を確認した各マシンは、左右にウェービングを繰り返しながらウォームアップを続け、3周目突入時点でレースは早々にスタート。
ポールシッターの背後から1コーナーでの攻防に持ち込むべく距離を詰めたKeePer TOM'S LC500のニック・キャシディだったが、ここはロニー・クインタレッリのMOTUL AUTECH GT-Rが見事なディフェンスを見せホールショット。
しかし、その後も上位集団ではタイヤ発動状況や雨量変化も合わせて、めまぐるしくポジションが入れ替わる攻防劇が続き、4番グリッドから発進のMOTUL MUGEN NSX-GTはスタートでポジションを上げて一時3番手を走行も、6周目にはホームストレートからサイド・バイ・サイドでKEIHIN NSX-GTとの攻防を演じると、コカ・コーラ・コーナーでワイドランを喫し大きくドロップすることに。
スタート直後からパッシングが連続する首位バトル。ZENT立川が大幅に順位アップ
変わって中段からジャンプアップを見せたのが富士マイスターの立川祐路がステアリングを握る38号車ZENT CERUMO LC500。7番グリッドからスタートした38号車は4周目には4番手、6周目にはカルソニック GT-Rをかわして3番手へ、そして9周目にはダンロップコーナーでKeePer LC500も仕留めて2番手へと浮上してくる。
依然として雨脚は弱まることを知らず、そればかりかコースサイドで撮影するカメラマンが恐怖を感じるほど間近な雷鳴を伴って雨量が増す方向となるなか、立川はついにトップを走る23号車MOTUL AUTECH GT-Rの背後にまで迫り、GT300クラスのバックマーカーが絡んだ13周目の1コーナーでインを突き、見事に首位浮上を果たす。
しかし、ここで大雨によるトラックコンディションを案じたレースコントロールから再びのSC導入がアナウンスされ、ZENT立川の勢いはここで一旦そがれることに。15周終了時点にホームストレート上でクラス別のリグループを行ったところで、ARTA NSX-GTが最終コーナーでスピンを喫してふたつ順位を下げ、GT300マシンでもアクシデントがあり、ここで赤旗中断の決定が下された。
約30分の中断を経て雨が上がったところで、15時33分にSCスタートでレースは再開。このリスタートで後続を大きく引き離した立川に対し、3番手KeePer LC500のキャシディが先ほどの再現を演じるかのように23号車をピタリとマークすると、1コーナー立ち上がりで鮮やかなパッシング。
さらに19周目の最終コーナーから車速を乗せた塚越広大のKEIHIN NSX-GTがカルソニック、MOTULと2台のGT-Rをホームストレートでまとめてオーバーテイクし、1コーナーまでに3番手に浮上する。
23周目にはSC中のスピンによりARTA NSX-GTがドライブスルーを消化する間、24周目のGRスープラコーナーの立ち上がりでは首位争いが激化し、キャシディが立川を捕まえ再びのトップランを取り戻す。
その背後ではついにミシュランタイヤのウォームアップを終えたクインタレッリがペースを上げ、26周目のダンロップコーナー立ち上がりから13コーナーまでのトラクション競争でKEIHIN NSX-GTをかわし3番手にカムバックしてくる。
その後も1分40秒台前半から39秒台と、先行車より1秒近く速いラップを重ねたMOTUL AUTECH GT-Rは、30周目にZENT LC500もかわして2番手へ。続く30周目には最終コーナー手前でKeePerに追いつくと、そのままわけもなく前へ出ることに成功し、そのまま1分38秒540のファステストを記録するなど、路面雨量の減少に伴って、めまぐるしい攻防劇が繰り広げられる。
40周目を目前に最初のピットへと向かったのは、後方からポジションを上げてきたCRAFTSPORT MOTUL GT-Rで、38周終了時点でセカンドスティントのフレデリック・マコウィッキへ交代するともにスリックタイヤへとスイッチ。
すると全車なだれを打ったようにピットへと向かい、40周終了時点で38号車ZENT、37号車KeePer、12号車カルソニックがスリックへとチェンジし、ZENTは48秒5の制止時間でピットアウト。翌周に首位23号車MOTUL GT-Rが同じくドライバー交代を行うも、その滞留時間は53秒1とわずかにレクサスのライバルより遅れを取ることに。それでもミシュランタイヤのウォームアップ性能が良く、アウトラップを終えてZENTの前を走行する。
直後の44周目には1コーナーでKeePer TOM'S LC500平川亮とカルソニック IMPUL GT-Rのジェームス・ロシターが交錯し、両車スピンを喫するアクシデントも発生。さらにコカ・コーラ・コーナー立ち上がりではKEIHINがGT300クラスの車両と絡んでコースオフするなど、スリックへのチェンジに伴い多くの混乱が巻き起こる。
これでイレギュラーピットを強いられた平川は48周目に8.1秒の作業で左フロントのみを交換。これで最後尾までポジションを下げてしまった。
ウエットタイヤからドライタイヤでの戦いに。タイヤメーカーの違いでペースが入れ替わっていく難しい展開に
レースは50周を過ぎ、首位を行くMOTUL GT-Rと2番手ZENT LC500はともに1分30秒台の攻防で1秒前後のタイムギャップをキープしていたが、折り返しの56周を迎える頃には2台は0.217秒差まで急接近。石浦宏明が松田次生の隙を窺う態勢に持ち込んでいく。
そのまま接近戦が続いた2台は58周目のセクター3からサイド・バイ・サイドの状態になると、続く59周目の1コーナーでも2台並走でピタリと張りついたかのようにクリアし、続くコカ・コーラ・コーナーでインをとった石浦が松田次生攻略に成功。トップドライバー同士のクリーンな勝負で首位に浮上してみせる。
その後方、KOBELCO SARD LC500のセカンドスティントを担当したGT500ルーキー中山雄一が65周目にKEIHIN NSX-GTを、68周目には4番手に浮上していたジェンソン・バトンの1号車、RAYBRIG NSX-GTに対しスリップストリームを使った教科書どおりのパッシングを見せ、上位に顔を出してくる。
後方では62周目に自己ベストの1分30秒908を記録し、その前には19号車のWedsSport ADVAN LC500もオーバーテイクするなど、難しいコンディションでGT500デビュー戦を戦っていた宮田莉朋のau TOM'S LC500が、63周目のエンジンのトラブルからかスモークを挙げてダンロップコーナーでストップし、戦列を去ってしまう。
レースが70周を過ぎ、最後のピットウインドウが開くタイミングで3番手のCRAFTSPORT MOTUL GT-Rが再び先手を取って動き、76周終了で最後の義務ピットへ。48.9秒で平手晃平が最後のスティントへ向かうと、翌周には5番手のRAYBRIG NSX-GTが46秒で山本尚貴を送り出す。
続くラップで首位38号車の石浦が、その2周後には23号車松田がピットへと向かうと、ニスモ陣営の得意のピット作業とミシュランタイヤのウォームアップ性能が再び効果を発揮してトラックポジションを逆転し、MOTUL AUTECH GT-R、ZENT CERUMO LC500、そしてCRAFTSPORT MOTUL GT-Rのトップ3に変化した。
時刻が17時30分をまわり周回数が88周目に入る頃には、5番手争いを展開する山本尚貴と塚越広大のギャップが0.519差にまで縮まってくる。同時に首位攻防の23号車MOTUL GT-R、38号車ZENTの2台も90周目を過ぎて秒差圏内の心理戦へと突入していく。
すると94周目には3番手を走行していた平手晃平のCRAFTSPORT MOTUL GT-Rがタイヤ磨耗かピックアップか、急激にペースダウン。レース前半の33周目にかわした元チームメイト、ヘイキ・コバライネンの逆襲に合い4番手に後退すると、96周目には張り詰めた勝負を展開するRAYBRIG NSX-GT、KEIHIN NSX-GTにも同時に前に行かれてしまう。
90周を過ぎると首位のMOTUL GT-Rは明らかにリヤのグリップが厳しくなり、滑りながら走行する状態に。それでもMOTUL GT-Rはステアリングを握るクインタレッリの気迫溢れるブロックとストレートの速さを活かして2番手ZENTのオーバーテイクを許さない。
しかし迎えた99周目、首位2台の攻防は、1コーナーで立川祐路がインをズバリ。クインタレッリはクロスラインでインに入り抵抗するも立川は下がらず並びかかり、コカ・コーラ・コーナーのインを奪い前に。ZENT CERUMO LC500が薄暮となった18時を前に、ついに首位奪還を果たす。
最大延長時間の18時20分が先か、規定周回数110周完走が先かのギリギリの決着となったレースは、残り6周となった1コーナーで3番手のDENSO KOBELCO SARD LC500に襲いかかったチャンピオン、山本尚貴のRAYBRIG NSX-GTが続くコカ・コーラ・コーナーまでのバトルを制して最後の大逆転で表彰台ポジションを獲得。
ZENT CERUMO LC500の立川祐路/石浦宏明組は2017年以来となる富士スピードウェイでの勝利を飾り、最後の最後までタイヤマネジメントを駆使してフィニッシュへとマシンを運んだMOTUL AUTECH GT-Rは2戦連続表彰台を確保してランキング首位に。3位にRAYBRIGが入り、LC500、GT-R、NSX-GTの3メーカーが表彰台を分け合う、2019年シーズンの混迷を予見する大混戦の500kmとなった。