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『東京独身男子』ずっと見たかった高橋一生がここにいる 可愛すぎる“太郎ちゃん”に至るまで

2019年05月04日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 さて、魅力的な男たちのせいでテレビをつけるのが楽しみで仕方がないのが、『きのう何食べた?』(テレビ東京)がある金曜夜だけでなく、土曜夜まで加わってしまった。現代における結婚事情というものを、女性視線ではなく男性視線で見ることの新鮮さはさることながら、なにより率直に思うのは、「私たちが最も見たかった彼ら」の姿を見せてくれそうだということだ。


 『中学聖日記』(TBS系)の金子ありさが脚本を手がけ、『奪い愛、冬』(テレビ朝日系)の樹下直美、そして『昭和元禄落語心中』(NHK総合)で「色っぽい岡田将生」を見せてくれたタナダユキが、それぞれ演出を手がけた『東京独身男子』(テレビ朝日系)の1・2話。スタイリッシュかつ濃厚な演出で、色気の塊のような3人のやっかいな“AK男子”(あえて結婚しない男たち)の恋模様を描いた。


 しかし、滝藤賢一は盲点だった。もちろん、『重版出来!』(TBS系)で最上もがに振り回される漫画家も、映画『愛の渦』のサラリーマンも、『探偵が早すぎる』(読売テレビ・日本テレビ系)の探偵も、その自由に弾む目やら仕草に今までも頻繁に撃ち落とされてきた。だが、初回のあのチーズとワインと松本若菜とのキスシーンの破壊力は、理解の範疇を超えていた。しかし、最年長の設定らしく、ロマンチックなムードは生々しい「介護」という言葉で打ち壊され、どうなってしまうのか。


 続いて、桜井ユキと組んで濃厚すぎる色香を漂わせ、診察台とうがい用の水の零れる様でコミカルかつ衝撃的に性事情を曝け出してしまうに至った斎藤工。2話においてもイチイチ濃いリアクションで画面を埋め尽くしこちらを圧倒させたと思ったら、高橋一生となにやらわちゃわちゃとはしゃぎ始めたりして、完全にもう目が離せない。


 そして何といっても、高橋一生である。なんであんなに可愛いのかわからない太郎ちゃんである。彼こそが我々がずっと見たかった高橋一生ではなかったか。空前の高橋一生フィーバーが起こってからというものーーつまりは映画『シン・ゴジラ』、『カルテット』(TBS系)、『おんな城主 直虎』(NHK総合)以降の彼が演じてきた役の数々はーーなにかしらの過去を抱えた王子様キャラという、「女性の理想を形にしました」とでも言いたげなキャラクターが心なしか多かったように思う。もちろん、このドラマもまた「女性の理想」の集合体であり、女性の多い製作陣の手の平の上を転がされているだけかもしれないが。


 その極めつけが、ここ数年の恋愛映画における彼である。どうも映画というものは残酷で、完璧な理想の男というものは大体女の夢の中にしか現われないようにできているのか、彼は完璧すぎて幻と化している。また、恋愛映画は女性の心情の変化を主とすることが多い。そのため、男性は基本的に受けの演技を強いられるわけで、これまで物語の端のほうにいるどんな役にも生命を吹き込み、その語られない背景をもこちらに想像させてきた高橋は、もちろん今までと変わりなく、それぞれの役を完璧に演じ、ヒロインを最大限に輝かせてきた。


 例えば桜井ユキとのラブシーンが強烈だった映画『リミット・オブ・スリーピングビューティ』の写真家役。しかし既に彼は亡くなっていて、恋人を失った傷心の桜井ユキの記憶の中に佇む存在であるために、霞のように夜の闇に消えてしまった、幻の美しい男に過ぎない。高橋が長澤まさみの耳の裏にキスする場面がとても素敵だった『嘘を愛する女』でも、彼は序盤に意識を失い終始眠っている。映画は彼女が謎に満ちた彼の実像を見つけ出すまでの過程を描いているのであって、やはりここでも彼はヒロインが行動または思うことによってのみ動くことのできる、美しい記憶が形をなした人物に過ぎないのだ。


 さらには『九月の恋に出会うまで』の彼は、まず「声」のみでその姿を表し、ヒロインに尾行・観察されることでかなりの時間「謎の人物」として観客に見られることになる。ただこの映画の場合、謎の男であると共に、後半恋や夢と向き合うために葛藤する姿も描かれるために、彼は珍しく完璧ではない、葛藤の片鱗を少しだけ覗かせる。


 「常に完璧すぎて人間離れしている」というのは言いすぎだが、常に受身で余裕の高橋一生が、恋愛映画において描かれてきた。だが、このドラマにおいて、高橋メアリージュン演じる元カノへの「好き」という気持ちが暴走し抑えきれず、パソコンにコーヒーをぶちまけ、それを地道に麺棒で掃除し、ライバルの完璧さを前に何事もうまくいかず、完全に敗北し、「やっぱり結婚なんてもういいや」と布団に飛びこんだりすることがこんなにも嬉しいのは何故だろう。好きな人の行動の一つ一つに翻弄され、こじらせて強がったり、当惑したり期待したり、大忙し。このドラマの登場人物の中で誰よりも真っ直ぐかつ不毛に「恋をする」ことを体現している。仲里依紗が言う通り、太郎は他の2人と違って「真っ当」に生きている人間、つまり我々視聴者と一番近い位置に立って、「アジェンダ」なんていう役に立つのか立たないのかわからないものを作って喜んでいるのだ。


 高橋一生は元々、報われない恋に向かっていく側の存在だった。『おんな城主 直虎』の政次も舞台『ガス人間第一号』のガス人間も決して叶わぬ恋を昇華する人物だったし、『カルテット』の家森はすずめ(満島ひかり)への恋心を言葉遊びの中に潜ませ続けた。高橋一生はいつもこじらせた恋をする人の側にいた。それこそが勝手ながら、俳優・高橋一生の本質であるような気がするのだ。


 2話の最後、妹キャラだった仲里依紗演じるかずなが、太郎に迫る。逆に迫られる立場になりそうな太郎が、今度はどんな行動にでるのか。楽しみでならない。(藤原奈緒)