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インスタグラマービジネスは曲がり角に? Instagram、「いいね」数の非表示テスト実施

2019年05月04日 08:11  リアルサウンド

リアルサウンド

 SNS最大手のFacebookは、4月30日から5月1日にかけて年次開発者会議「F8」をアメリカ・カリフォルニア州で開催した。このイベントにおいて、同社傘下のInstagramは社名と同名のアプリの根幹を変えるかも知れない重大な変更を検討中であることを明かした。


(参考:“インスタ露出”続く嵐・二宮和也 ジャニーズのSNS活用を開拓するか?


■「いいね」の数を競うアプリではない
 テック系メディア『The Verge』は、先月30日、Instagramが「いいね」の数を非表示にするテストを実施することを報じた。テストは来週中に開始され、カナダでのみ実施される。テスト期間やテスト後の展開に関しては不明だ。Instagram社は、ユーザには「共有した画像や動画に注目してほしいのであって、「いいね」の数を気にかけないでほしい」と説明している。


 今回のテストでは、「いいね」の数は非表示になるが「いいね」ボタンがなくなるわけではない。また、画像等を投稿したユーザ自身は自分の投稿に対する「いいね」の数を確認できる。こうしたテスト内容からは、「いいね」の数によって投稿の良し悪しを判断してしまっている習慣を改めたい、というInstagram社の意図が読み取れる。


 実のところ、「いいね」数を競うSNS文化を再考する動きはTwitterでも見受けられる。Twitter社は、今年2月に「いいね」やリツイートを非表示にするテストを実施するためのユーザを募集していた。


■「いいね」の功罪
 Instagramの今回のテスト実施に関しては、多数の海外メディアがおおむね好意的に報じている。前出のThe Vergeの記事では、「いいね」の数を競うことは投稿する意欲をかき立てる反面、「いいね」欲しさに安易な内容の投稿が氾濫している現状を指摘している。安易な内容の投稿の事例としては、フードポルノ画像(日本で言うところの「飯テロ」画像)を挙げている。「いいね」数の非表示は、こうした現状を変えるきっかけになるだろう、と評している。


 ワシントンポスト紙が1日に公開した記事も、「いいね」数を非表示にするテストを肯定的に報じている。もっとも、この記事では「いいね」数の非表示によって新たな問題が生じるかも知れない、と指摘する南カリフォルニア大学でSNSを心理学的に研究しているKaren North教授のコメントも紹介している。同教授によれば、「いいね」数が示されることによって、ユーザたちは共通の話題に関して「いいね」を押すことで共に応援するという一体感を体験してきた。「いいね」数が非表示になると、こうした体験が減ってしまうことが予想される。


 ニューヨークポスト紙が公開した記事では、今回のテストが(Instagramを活用するインフルエンサーである)インスタグラマーのビジネスの在り方を変えるきっかけになるのではないか、と報じている。というのも、「いいね」の数によって投稿やインスタグラマーを評価するフォロワーが少なくないからだ。インスタグラマーは、自分の投稿における「いいね」数を誇示することによって成立していたビジネスとも言える。もし正式に「いいね」数が非表示になれば、こうしたインスタグラマービジネスの前提が崩れることになる。


■「いいね」は捏造できる
 「いいね」の数を稼ぐことによって拡大してきたインスタグラマービジネスは、「いいね」数を増やすことに注力するあまり不正行為に手を染めるという負の側面も見られるようになった。デジタル写真誌『PetaPixel』は先月、こうしたInstagramのダークサイドを報じる記事を公開した。この記事では、人気フォトグラファーにしてインスタグラマーでもあるTrey Ratcliff氏が出版した書籍『インフルエンスのもとで ― いかにしてInstagramでだましてリッチになるか』の内容を紹介している。


 同書籍には、同氏が偽のInstagramアカウントを作ってインスタグラマーとしてスポンサーと交渉するまでの顛末が描かれている。偽のアカウントを作りにあたり、同氏は自身のフォロワー3万人に対して一人平均40ドル(約4,500円)支払って協力を呼びかけた。この協力によって、フォロワー数104,000人のアカウント@genttravelが誕生した。そして、この偽アカウントのスポンサーを探すためにマーケティング会社に働きかけたのだ。同氏がマーケティング会社と交渉するなかでわかったのは、マーケターたちは投稿内容や投稿したユーザのことなど大して気にとめてなく、もっぱら(偽物の)「いいね」の数だけに注目していたという事実であった。


 自身が執筆した書籍に関して、同氏は「わたしはソーシャルメディアに関わっていることで苦痛を感じていました。そうした苦痛こそがこの本を執筆した理由なのです」と述べている。また、ソーシャルメディアが悪用されれば人々に苦痛を与えるだろう、とも語った


 影響力の大きいSNSのひとつであるInstagramが正式に「いいね」数を非表示にすれば、インスタグラマービジネスは根本的な再考が求められるだろう。そして、この改革の影響はSNSを活用したマーケティング全体にも波及するかも知れない。


(吉本幸記)