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『ルパン三世』が支持され続ける理由とは 故モンキー・パンチが漫画・アニメ界に及ぼした影響

2019年05月04日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 4月11日、漫画家モンキー・パンチが亡くなった。『ルパン三世』の生みの親として知られ、漫画雑誌『漫画アクション』(双葉社)の創刊を支えた同氏。『ルパン三世』は1971年にテレビアニメ化して以来、劇場用アニメシリーズが続々と制作され、実写映画や宝塚歌劇団の舞台にもなるなど、世代を越えて愛されてきた。4月19日放送の『金曜ロードSHOW!!』(日本テレビ系)では、放送内容を急遽差し替え『ルパン三世 ルパンVS複製人間』が放送されるなど、改めて多方面にもたらした影響を再認識させられることとなった。


参考:『ルパン三世 カリオストロの城』はMX4Dでどう生まれ変わった? アニメと体感型映画の相性を考察


 物語評論家のさやわか氏は、モンキー・パンチの功績について、以下のように語る。


「漫画家としては、青年誌というカテゴリーでアメコミのような洒脱な絵柄で描くスタイルを新しく生み出した方です。もともと、同人誌でアメコミを取り込んだものを描いており、その作風が注目されてデビューすることになったという話があります。『漫画アクション』では看板連載を持ち、大人の読み物としてのおしゃれな青年漫画という側面をはっきりと打ち出しました。1967年当時は劇画ブームが始まっていて『漫画アクション』にも『子連れ狼』などの劇画ものは載っていました。しかし、そういうのとは少し種類が違い、アメコミ的なバタくさいテイストだったので、珍しかったんです。かつ、犯罪とかエロティックな感じをふんだんに取り入れた、1話完結の話。『ルパン三世』では、不二子もいろんな形で出てきますし、容姿すら一貫しなかったりする。決して続き物ではなく、その話だけを軽く読めてちょっといい雰囲気を味わうみたいな、そういう漫画のスタイルで台頭した方です。初期の『漫画アクション』は無国籍感みたいなものを目標としたところがあって、日本人かどうかわからないものを狙って、編集者がモンキー・パンチというペンネームを考えたんです」


 モンキー・パンチの原体験には、アメコミがあったというが、漫画に対しても勉強熱心だったようだ。


「初期からマッキントッシュを積極的に導入していました。すごく勉強熱心な方で、キャリアを積んでも漫画の研究を続ける方でした。80年代初頭にパソコンを手に入れて、カリフォルニアのハイセンスなカルチャーとして全く新しい表現を追求したかったんだと思います。アメコミに始まり、海外のセンスを貪欲に取り入れていくというのがあったんじゃないでしょうか。さらに『トムとジェリー』の大ファンで、アメリカの初期のアニメーション文化のスラップスティックな感じを自分の作品に取り入れていましたね」


 また、代表作である『ルパン三世』の魅力を、さやわか氏は以下のように分析する。


「アニメの『ルパン三世』は絵柄がすごく変わるんです。でもどれを見てもルパンだな、不二子だなとわかるようになっている。それはつまり、キャラクターが強力だということです。ルパンや銭形というような関係性やキャラクター像がしっかりしていて、だからこそ絵柄や世界観を変えても対応できる。あくまでも泥棒であるルパンを中心として、奇想天外なことが起こるというストーリーラインに乗ってさえいれば、かなり自由度の効くお話なんです。例えばシャーロック・ホームズはパイプを加えて鳥縁帽を被っていれば、どんな作品に出てきてもホームズだとわかるじゃないですか。『ルパン三世』にはそれがある。エンタメをやるひとつの型として『ルパン三世』という設定がとても有効に機能したと思うんです。初期には、宮崎駿さんをはじめとするクリエイターたちが、自分のオリジナルイメージのルパンを、ある種暴走して作っていくんですが、それでも作品自体は壊れずに、むしろますますみんなが好きになっていった。お話を呼び込む裾野が広かったので、宮崎さんはTVシリーズで登場するロボットに『天空の城ラピュタ』の元ネタになるようなものを仕込んでいたり、新しいアイデアやクリエイターの想像力を働かせるようなところもあったと思います」


 さらに、ルパンというキャラクターが、他の作家の手を借りることによって多方面に羽ばたいていくのも、その後のアニメ/漫画に強い影響を残したという。


「モンキー・パンチさんも、最初はアニメの絵柄が漫画と全然違うことを受け入れがたく思ったらしいですが、動いているものを見たときに『これも良いだろう』と思い直したそうです。有名な話で、『ルパン三世 DEAD or ALIVE』を自分で監督した際に、ルパンが後ろから敵を撃とうとするシーンを描こうとしたら、『ルパンはそんなことしません』と言われてすごく憤慨したんだけど、結局その規定に従ったというエピソードがあります。彼が作ったキャラクターなのに、彼自身の思っているものではなくなっているんです。みんなの心にある『ルパン』の姿を優先させ、偉大な概念としてのキャラクターになっていくことを認めたということですね。『ルパン三世』は、モンキー・パンチさんが亡き後もそういう作品として今後も根強く支持されるはずで、それは非常に稀有なことだと思います」


(構成=安田周平)