4月29日の「モーニングCROSS」(MX系)では、健康社会学者の河合薫氏が、厚生労働省が2016年にサイトに掲載した「働き方の未来2035懇談会報告書」について持論を展開した。
報告書には、「評価軸は時間ではなく成果」、「副業や兼業は当たり前になる」、「多様な働き方が求められる」など、未来の働き方は自由かつ自立した個人が主体となるものと記されている。ただ河合氏は、内容をよくよく読み解いてみると
「会社という法人の頭は残します。『みなさん、手足、胴体になれるよう頑張ってね』というような内容」
と、個人が都合の良い歯車になることをポジティブに書き換えているだけだと指摘した。(文:石川祐介)
「個人の能力を引き出す会社を作るからこそ、自立した個が生まれ、能力を発揮出来る」
河合氏は続けて、裁量労働制やフリーランス、副業容認など、報告書で目指したような働き方を、政府は着々と進めていると紹介する。この流れを「言わんとしてることはわかるし、おそらくこういう方向に行くんだと思います」と一定の理解を示すが、
「スケールの大きいことを言うと、私達人類は人と協同することで生き残ってきたんですよ。なので、(会社が)個人の能力を引き出すことこそ、自立した能力が発揮できる」
と苦言を呈した。会社というものの成り立ちを考えると、
「会社をフリーランスの塊にするのはおかしな話。個人の能力を引き出す会社を作るからこそ、自立した個が生まれ、能力を発揮出来るというのに。都合の良い人だけ集めてきて、プロジェクトが終わったらはい解散というのは、会社として存続する意味がなくなる」
というのだ。
「"唯一無二の自立した個"なんて幻想。依存の先にこそ自立がある」
そして、「私達が"唯一無二の自立した個"になるなんて幻想の世界で、依存の先にこそ自立がある」と口にする河合氏。例えば、赤ちゃんは養育者という"安全基地"があるからこそ探索行動ができる。明確な依存先がないと、真の自由や自立を獲得することはできないという指摘は正しいかもしれない。
「個でやっている人なんて1億3千万人の中のほんの一部です。それ以外の人達って『夢を持って自立してって、何をすればいいの?』ってことが普通なんです」
自力でやりたいことを見つけ、自力でスキルアップ出来る人はごく少数であり、それらを全て個人に委ねてしまうことはとても危険であると語気を強めた。
ネットには「社員を大切にしてきた日本的経営を散々非難してきたんではないか」という意見もあったが、確かにそのとおりだ。どのような働き方、働かされ方が理想なのかは、深い議論が必要だ。