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ロイ-RöE-『ストロベリーナイト・サーガ』OP曲はなぜ“恐怖”与える? 姫川玲子に向けた独自の視点

2019年05月02日 19:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 「オープニングが怖すぎる……」放送のたび、そう話題に上がるのは、現在放送中のドラマ『ストロベリーナイト・サーガ』(フジテレビ系)。オープニング曲は、ロイ-RöE-の「VIOLATION*」。ロイ-RöE-は、昨年ワーナーミュージック・ジャパン内のレーベル<unBORDE>からメジャーデビューしたばかりの、新人シンガーソングライターだ。ドラマのミステリアスな世界観を見事に表現したロイ-RöE-とは一体、どんなアーティストなのだろうか。


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 彼女は、中学卒業後から独学で作曲を開始し、現在22歳。一度聴くと耳から離れないメロディと個性的な歌詞を紡ぎ出すのが得意だ。全ての曲のタイトルにアスタリスク(*)がついており、これは“タイトルの解説を曲でしている”という“脚注”の意味だという。また、ひらがな・カタカナ・漢字のバランスや、小さい”っ”が続かないように、など“歌だけど見た目も大切”と考え、リズムや行数などにもこだわって書き上げる。小説家のような視点だが、作詞をするために本を読みはじめ、中原中也と三島由紀夫が特に好きだというから納得だ。最初は二人の名前の字面のデザイン・見た目で入ったが、今はリスペクトし、彼らに怒られないように描きたいと思っているという。「VIOLATION*」も冒頭から〈終に、重力に負け 星になった生命よ〉と、小説の始まりのような耽美なフレーズで書き始められている。


 ドラマ『ストロベリーナイト・サーガ』は、2012年に竹内結子主演で放送された『ストロベリーナイト』から7年の歳月を経て、二階堂ふみとKAT-TUN・亀梨和也がW主演を務めるなど、キャストとスタッフを一新して制作されている。原作は累計400万部を突破した、誉田哲也の大ベストセラー警察小説『姫川玲子シリーズ』。リアリティ溢れる警察描写で、重厚かつスピード感に満ちた事件捜査と、数々の魅力的なキャラクターによる群像劇を描き、今なおファンを増やし続ける傑作シリーズだ。ロイ-RöE-は今回のオファー前から原作を読み、前作のドラマも見ていたと言い、人間の心理の奥底まで描かれている本作に感動したという。


 オープニング曲「VIOLATION*」で歌われているのは、二階堂ふみ演じる主人公の女性刑事・姫川の心境だと、ロイ-RöE-は明言している。彼女の見解では、主人公の姫川は、加害者と被害者、どちらにも同調する女性。一方、姫川の周りの人々は自分の境遇によって同調できる場面が違うため、彼女は理解されず、突き放されることもある。そんな姫川の虚しさを描きたかったという歌詞には、孤独や痛みといった暗い感情がありながらも、どこかそれを楽しんでいるような痛快さも感じられる。


 また、タイトルの「VIOLATION」は“違反”という意味で使われ、ロイ-RöE-は「弱い自分を見せるのは、自分の中では違反行為だっていう。本当は弱さを見せたいし、甘えたいけど、それが恥と思ってるから見せられないで、一人で凍えてる。そこは自分とも合ってますね」と語っている。彼女自身も、弱さを見せるのは恥と考えており、これは姫川の心境と重なる部分がある。自己を投影して書かれた歌詞は、どうしても一人称が前に押し出されてしまい、リスナーの共感や想像を阻害してしまうことも多い。しかしこの曲はロイ-RöE-であり、姫川であり、聴き手自身でもあり、他者でもあると思わせる。これはまさに小説を読んでいる時の感覚に近く、ここにロイ-RöE-特有のエッセンスがあると思う。(参考:ロイ-RöE-公式インタビュー)


 ロイ-RöE-は楽曲制作の際、歌詞から、メロディから、アレンジから、といったことは決めていない。ただ、いつも色や映像が先に”降りてくる”といい、今回の「VIOLATION*」では赤”、生きるか死ぬかくらいの血の色の赤だったという。デジタルがかったロイの声が叫ぶ〈VIOLATION〉というフレーズ、鋭く鳴り響く不協和音的なサウンド……たしかにオープニング映像から流れる楽曲を一度聴くと、どす黒い赤が、血のように流れ落ちるイメージが浮かび、それがドラマに重厚感と奥行きを与えている。


 昨年、ロイ-RöE-の1st EP『ウカ*』で初めてプロデュースを担当したゲスの極み乙女。のちゃんMARIは、「芯はしっかりとしながらも、少女のような、大人のようなふわふわとした時期の心を歌う」と評価。「VIOLATION*」では、作曲と編曲はプロデューサーユニット、Face 2 fAKEとのコライトになっており、共作することで無意識で書いていた部分のどこが良くて、何が足りないかに気づくことが出来たと語っている。歌い方にもこだわり、Aメロの重い歌詞が伝わるように、数ある歌い方の中でどの抑揚がいいかを細かくチェック。結局、悲しい歌い方よりは、ちょっと笑ってやってやるくらいのニュアンスで歌ったそうだ。新しい意見を取り入れ、変化を恐れず、進化を続ける過程でこの「VIOLATION*」は誕生した。


 ちなみに、ロイ-RöE-の由来は、メールの返信に入る“Rと“E”であり、インディーズからのリスタートの意味が込められている。また、“RE”にはラテン語で〈~について〉という意味があり、真ん中の“ö”は“O(オー)”ではなく、歌っていることを表す記号として使われている。ここには“自分についてちゃんと歌っています”という意味合いがある。今回の「VIOLATION*」も、主人公・姫川をロイ-RöE-自身になぞらえて曲を作ったことで、ドラマを盛り上げることに成功したと言えるだろう。


 MPC(サンプラー)やギターを駆使し、たった一人でマルチなステージングを展開するなど、従来のシンガーソングライターの型を払拭するような活動を精力的に行っている彼女。ミステリアスでストイックな雰囲気を持ちつつも、理想の結婚相手はドラゴンボールのベジータ、趣味はお笑い鑑賞といった親近感のわく一面も。歌に限らず、ファッションからアートワークまで、彼女の個性を全方位的に表現した「RöE World」が展開されていくことに、これからも期待したい。(深海アオミ)