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【F1アゼルバイジャンGP無線レビュー】フェラーリ「ソフトが最後まで保つとは思えない」セーフティカー導入に賭けるも読みを外す結果に

2019年05月02日 14:01  AUTOSPORT web

AUTOSPORT web

シャルル・ルクレール(フェラーリ)
例年荒れに荒れるアゼルバイジャンGPだが、FIA-F2のレースの大半がセーフティカー先導となった教訓もあったのか、メルセデスAMG勢は同士討ちを避けるために必要以上にアグレッシブなバトルは展開せず、F1の決勝は大きな混乱もなくスムーズな走り出しとなった。

 メルセデスAMG勢が1-2を保持し、セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)が3番手、セルジオ・ペレス(レーシングポイント)に抜かれたマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)も5周目にはポジションを取り戻した。

フェラーリ:BOT(バルテリ・ボッタス)は47.6、HAM(ルイス・ハミルトン)は48.0。後ろのVER(フェルスタッペン)はPER(ペレス)をプッシュしている。プッシュしろ」

 フェラーリがベッテルにメルセデスAMG勢に着いていくよう指示する一方で、ハミルトンは予想以上に早いソフトタイヤのタレを訴えていた。

ハミルトン:フロントにグレイニングが出ている

メルセデス:了解。今(ピットインについて)話し合っているところだ

 メルセデスAMGはフロントのグレイニングによるグリップ低下だったが、レッドブルの場合はリヤだった。

フェルスタッペン:エンジンブレーキがきちんと機能していないみたいだ

レッドブル:チェックしているところだ

フェルスタッペン:ターン5~6でハンドブレーキが掛かったみたいだった

レッドブル:了解

 4番手に上がったフェルスタッペンはエンジンブレーキの不調を訴えたが、実際にはエンジンではなくリヤグリップの低下によってスタビリティと挙動が変わったことをそう感じただけだった。それほどに急激にグリップの変化が進んでいたとも言える。

 フェルスタッペンは8番グリッドから追い上げてきたシャルル・ルクレール(フェラーリ)にも抜かれ、レッドブル・ホンダ陣営はフェラーリ勢よりも先にピットインをしてアンダーカットを仕掛けるべく動くことにした。

 しかしその動きは隣のフェラーリピットに察知され、同じ11周目に先に入られてしまった。

レッドブル:ピットコンファーム、VET(ベッテル)に対抗してピットインだ。ただし彼はピットインするかもしれない

フェルスタッペン:あぁ、彼はピットインしているよ

レッドブル:ステイアウトだ

 ピット入口の直前で戦略変更をしたフェルスタッペンはそこから3周走り続け、ギャップは4秒から10秒に広がってしまった。

メルセデス:VETがピットインしたよ

ボッタス:あぁ、もし必要ならぜひピットインしたいよ

 首位をいくボッタスもタイヤはタレが大きく、ここで願ったり叶ったりとピットインしてベッテルの前を確保した。

メルセデス:バランスチェック

ハミルトン:すごくアンダーステアだ。でもこのペースでならまだ走り続けられるよ

メルセデス:OKルイス、BOX、BOX

 2番手ハミルトンはボッタスと同じ戦略では勝てないと考えそう言ったが、これだけタイヤのデグラデーションが大きければステイアウトすればするほどタイムロスは大きくなる。メルセデスAMGはすぐにハミルトンを呼び入れ、ハミルトンはボッタスの後方のポジションが確定した。

 これでスタートからミディアムで走り続けるルクレールが自動的に首位に立ったが、いずれピットインの瞬間はやってくる。フェラーリ陣営としてはどこかでセーフティカーが入ることに賭けていた。その間にタイヤ交換を済ませれば首位をキープすることができるからだ。そのためにQ2でミディアムを履き、セーフティカー導入を待つことができる“ウインドウ”を広くしたのだ。

 しかしメルセデスAMGには余力があった。セーフティカー中にピットインされても首位をキープされないよう、ルクレールとのギャップを縮めておくようボッタスに指示が出された。

メルセデス:LEC(ルクレール)はまだSC(セーフティカー)ギャップを持っている。だからこれを縮める必要がある。47秒台前半だ

 ボッタスはすぐにペースアップしルクレールとのギャップを縮めた。

メルセデス-ボッタス:ペースが良すぎるから少しバックオフしても大丈夫だ。LECはもうウインドウ内に入った。46台後半でOKだ

 レッドブルもスティントの序盤はタイヤを傷めないように抑えて走り、タイヤ温度が安定してきたところからプッシュを開始してファステストラップを連発させた。

レッドブル:パープルラップを記録して現時点でトウに入って走っているHAMよりコンマ数秒速いぞ

 ルクレールは依然としてタイヤ無交換のまま首位を走り続けるが、そのペースは決して速くはなく、後ろに2番手ボッタスから5番手フェルスタッペンまでが数珠繋ぎになりつつあった。

フェルスタッペン:ルクレールとはどのくらい離れているんだ?

レッドブル:彼はまた我々のピットストップウインドウ内に入ったよ

 28周目、ルクレールの背後に追い付いたボッタスにコース上で抜くよう指示が出された。背後を走っているとタイヤを傷めてしまうからだ。

メルセデス-ボッタス:ルクレールに対して仕掛けていこう。みんな後ろに追い付いてきている

 ボッタスはルクレールとハミルトンに挟まれながら、虎視眈々と狙うハミルトンに隙を与えないようルクレールを抜いて首位を取り戻した。

メルセデス:前とのギャップは1.5、後ろは1.4。LECを捕まえろ

メルセデス:HAMがDRSを使うかもしれないぞ

 3番手に後退したルクレールはベッテルに前を譲るが、上位3台の集団の後ろを走ることでルクレールもタイムロスを余儀なくされる。ピットインを訴えるルクレールだが、次に履くソフトタイヤで最後まで走り切らなければならないにも関わらず、第1スティントで想定以上にソフトが保たなかったことを考えれば、フェラーリとしてはそう早くピットインさせるわけにもいかなかった。

ルクレール:僕らは2台とも大きくタイムロスしているよ!

フェラーリ:ピットインはもうすぐだ。しかしここからソフトタイヤが最後まで保つとは思えない。まだもう少し引っ張る必要がある

 それでもこの時点でルクレールの戦略が破綻していたことは明らかで、どうせなら傷口が大きくならないうちに入れるべきだったかもしれない。

 タイヤ交換後のルクレールはソフトタイヤをいたわって走らなければならず、ペースが上げられない。

 4番手フェルスタッペンにとってはルクレールはそれほど大きな脅威ではなかった。

レッドブル:LECのラップタイムは45.5。(第2スティントのミディアムは)デグラデーションが小さいからファステストラップを記録できそうだ

 39周目、ピエール・ガスリー(レッドブル・ホンダ)がドライブシャフトを壊してストップ。この車両回収のためVSC(バーチャルセーフティカー)が出された。

レッドブル:集中してタイヤの温度を保ってくれ。このスティントは素晴らしい仕事をしている、メガジョブだ

フェルスタッペン:なぜVSCが出ているんだ?

レッドブル:GAS(ガスリー)が止まったからだ

 レッドブルはタイヤが冷えることを恐れて指示を送ったが、コーナーらしいコーナーが少なく長いストレートを走っている間にタイヤは温度を失ってしまい、レースが再開されてもペースを取り戻すのは難しかった。

レッドブル:OK、マックス。ターン16出口の縁石は避けて走ってくれ

 ドライブシャフトが破損するリスクを避けるために縁石も使わないよう指示が出され、レース終盤に予定していたプッシュラップも断念して4番手を確保することに専念した。

 後方にピットストップを自由に行えるだけのギャップがあったのはフェルスタッペンとルクレールだけだったが、これでルクレールだけがアタックをすることになった。

フェラーリ:今P5。前のVERは29秒前方。後ろのPERは28秒後方

ルクレール:僕らはファステストラップを持っている?

フェラーリ:ノー。ファステストは44.7だ

 ルクレールはこれで最後に1分43秒009のファステストラップを記録し1ポイントを加算したが、予選Q2まではポールポジションを獲れると考えていたほどの勢いがあったことを考えれば、決して満足の出来る週末とはいえなかった。

メルセデス:HAMがDRSを持っている。オーバーテイクボタンを使って良いぞ

 メルセデスAMG勢は最後にハミルトンがボッタスに襲いかかったが、ボッタスも冷静にペースをコントロールしており、付け入る隙は与えなかった。

 予選から決勝の読みを大きく外したフェラーリとは対照的に、メルセデスAMGは予選に最高のマシンを作り上げ、レース全体を読んだ完璧な戦略で土曜・日曜をコントロールしてみせたのだった。