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TAKAHIRO、佐藤大樹らの主演映画が公開 LDH所属アーティスト、“俳優”としてのポテンシャル

2019年05月02日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 佐藤大樹が主演の『4月の君、スピカ。』が4月5日から公開され、またTAKAHIRO単独初主演の『僕に、会いたかった』が5月10日から公開になるなど、LDHに所属し、普段はアーティストとして活躍する2人の映画がお目見えする。


 これまでにも、LDHの所属のアーティストや俳優たちは、映画の世界で活躍してきた。AKIRAはマーティン・スコセッシ監督の『沈黙-サイレンス-』で、小林直己はNetflixオリジナル映画『アースクエイク・バード(原題)』でハリウッドにも挑戦。また、今市隆二が満を持して「CINEMA FIGHTERS project」の第3弾で俳優デビューすることを発表したことでも話題になった。もちろん、所属アーティストや俳優たちがこぞって出演する『HiGH&LOW』シリーズや、『PRINCE OF LEGEND』などもあり、その幅は広い。


 この春公開となった『4月の君、スピカ。』は、『Sho-Comi』(小学館)で2015年から2017年まで掲載されていた杉山美和子による漫画が原作の恋愛ストーリー。ヒロインの早乙女星が転校で東京から田舎の高校にやってきたことから始まる。その中で佐藤大樹が演じるのは、ヒロインが恋心を抱く大高深月(鈴木仁)の親友の宇田川泰陽という役である。


 泰陽は学ランに赤パーカーという明るくヤンチャな学生の定番のスタイル。『HiGH&LOW』シリーズの鬼邪高校の村山(山田裕貴)の青いチェックのシャツスタイルや、『PRINCE OF LEGEND』の京極兄弟(鈴木伸之/川村壱馬)も思い起こさせる。


 この泰陽が、とにかく引っ込み思案のヒロインに積極的に絡む。少女漫画原作の男子(王子)像には、ある一定の型がいくつかあるとしたら、ガツガツした主役タイプと、一歩引いた当て馬タイプがまず挙げられると思うが、泰陽はあきらかに前者。泰陽と深月は、その名前からもわかるように、太陽と月のような存在で、その対比がくっきりと描かれる。


 しかし面白いのは、その恋がどっちに転ぶかわからないところで、本来なら“月”の深月のほうが「当て馬」キャラになりがちなところを、泰陽にも「当て馬」的な要素が見えるのがこの作品を見るうえでのポイントともなっているのではないだろうか。筆者が佐藤大樹に取材したときも、そんな部分を楽しんで演じたのがわかる発言も飛び出していた。これまでにも『ママレード・ボーイ』で吉沢亮と、『センセイ君主』では竹内涼真と恋のライバルを演じてきたからこその視点である。


 佐藤大樹は『PRINCE OF LEGEND』には出ていないが、ある意味この映画でも、ひとつの王子の型を演じているとも言える。また佐藤の普段の真面目で好感度の高いキャラクターを持った上で、明るさはそのままにちょっと強引な役を演じていることで、うまく別の顔を引き出されていたと思う。


 対して、TAKAHIROが主演した『僕に、会いたかった』のトーンは、『4月の君、スピカ。』とはまったく異なる。隠岐の島を舞台にしたシリアスな作品で、監督は青柳翔主演の『渾身 KON-SHIN』や、青柳翔、AKIRA、小林直己が出演の『たたら侍』も手掛けた錦織良成。脚本を、錦織と、本作のプロデューサーも務める劇団EXILEの秋山真太郎が手掛けている。


 本作の中でTAKAHIROは、元は凄腕の漁師だったが、記憶をなくして漁に出られなくなった主人公の徹を演じている。そんな日常に対して、徹が憤ったり、ことさらに抗うというわけではなく、海に出られずとも、漁港で真面目に働き、おだやかに生きようとしているものの、前に進めない姿が描かれている。


 本作には、母親役として松坂慶子が出ている。息子が記憶をなくしているために、どこか他人行儀な関係性であった2人が、どう変わっていくのかも見どころになっている。また、島留学で都会から島にやってきた青年を演じる板垣瑞生との釣りのシーン、同級生であった秋山真太郎とのやりとりなどを通じて、主人公の徹が徐々に変わっていく姿を、誇張せずに淡々と描き、終盤ではある境地にたどり着く。


 『4月の君、スピカ。』と『僕に、会いたかった』は、まったく作風の違う映画であるが、普段はアーティストとして、「自分自身」を表現している2人が、そのときにしか演じられない人間を演じているという意味では共通している。


 佐藤大樹は、初々しくもその年代ならではの葛藤を抱えた高校生を、TAKAHIROも30代の半ばを迎え、飾りをすべてとっぱらった姿を演じている。当たり前のようなことだが、表現をする者が段階を追って成長していくこととリンクさせて、そのときにしか演じられないものを演じることの重要さを意識しているからこその作品だと感じた。


 LDHでは、自社で企画や配給を行うからこそ、それぞれの良さを最大限に生かす術を模索してきた。本人のキャラクターをもとに、物語を構築していく手法は、『HiGH&LOW』、『PRINCE OF LEGEND』のみならず、SABU監督の『jam』などでも多く見られた。このとき、このアーティストには、こんな役を合わせたら輝くという目線と、こんな作品でこのイメージが強くなったら、今度は裏切ろうということも大いにあるだろう。例えば片寄涼太は『PRINCE OF LEGEND』で王子を演じたが、次の段階では、彼の持つ別の一面を引き出す作品に挑戦するはず。そんな目線から、今後も様々な作品やスターが生まれていくのではないだろうか。(文=西森路代)