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ZOCの信念を貫き通す眩しさ “家族”のように集った6人の特別な関係性

2019年04月30日 21:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 顔が整っている、目が大きい、まつ毛が長い、手足が長い、華奢で細い……。


 誰かが作った既成の「カワイイ」条件をすべて満たした上で、なおそこからはみ出してしまうもの。既存の枠からはみ出しても、これこそが自分たちの作り出す新しい「カワイイ」であると認めさせる強さ。


 他のオーディションでは掬いきれない存在であっても、今までにない存在価値、新しい魅力を見つけるアイドルオーディション「ミスiD」。引きこもりでも、自撮り詐欺でも、ヤンキーでも、少年院出身でも、「その人がその人らしく在る」ことの魅力。


 ミスiD審査員の大森靖子ちゃんが、選考過程で出会った女の子たちと、前ユニット時代から縁ある西井万里那ちゃん、一人一人に自ら声をかけて、プロデューサーでなく“共犯者”として始めたアイドルグループZOC。規格外のはみ出し者達が集まった時の最強感。


 4月20日、『MARQUEE祭 Vol.28』渋谷O-WESTのステージで初めて生で観たライブは、大森靖子ちゃんと西井万里那ちゃん不在のZOCだった。それでも、イチゴが二次元ではただ可愛いモチーフなのに、実物を凝視すると結構毒々しい色をしていて、箱を開ける前から匂い立つ香りの強さであるような、4人を体感できた。


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 藍染カレンの、誰もが本能的に惹きつけられ目が離せなくなる、踊りとシルエットと視線。兎凪さやかの、自信なさげで怯えていたウサギがソロパートで解放され弾ける瞬間。香椎かてぃの、雨の中捨てられた仔猫が自分の存在を必死に主張するシャウト。戦慄かなのの、菩薩の笑顔でニッコリしながら確実に急所を突いてくる陰の参謀感。


 誰もが圧倒的マイナスとしか捉えられない事実を自らの力で逆転させ、誰にも真似できない圧倒的プラスの魅力に変えた稀代の才能。真夜中に動き出すフランス人形のような恐ろしく可愛いお顔に、真性のヤンキー気質。ハイトーンのほんわかした声で発する言葉は刃物のごとく鋭く刺さる、最強で最凶の可愛さ。


 『ロンタイBABY』や『スケバン刑事』といった漫画の影響で、ヤンキーに猛烈に憧れていた中学生の自分を思い出した。その頃でもすでにスケバンは絶滅危惧種だったので二次元にしか存在しないと思っていたけれど、ヤンキースピリット(顔が綺麗で喧嘩が強い、校則も法律も逸脱するけれど、人情に厚く、自分の中の正義だけは死んでも守る)を受け継いだ存在に、21世紀の日本で出会った。


 ZOCが女の子たちに人気なのは、ただ可愛いからだけじゃない。ZOCが歌うのはオリジナル曲の他に、大森靖子楽曲のカバー。十代の女の子にとって、その音楽が「自分の気持ちが歌われている」と感じられるのはきっと何よりも大切なこと。しかもその歌を、自分たちの好きな「カワイイ」女の子たちが歌っていたら、こんなにも魅力的なアイドルはいないだろう。


 ZOCのメンバーと靖子ちゃんは、お母さんと娘、姐御と舎弟、保育士さんと園児……。「アイドルとプロデューサー」という枠組からはみ出した関係性。


 かなのちゃんが様々なインタビューで、家族(母親)との関係に問題があって育ったために、母親的存在を切実に求める心理を自己分析して語っていたけれど、かなのちゃん以外のメンバーも皆「安らげる場所」と「家族」を求めて、靖子ちゃんの元に集ったのかもしれない。プロデューサーとプロデュースされる人という上下関係とは全く違う、心の底から欲している、淋しくて堪らない人間が求めてやまない、血よりも濃い繋がり。そんな6人が全国デビューとして歌う楽曲のタイトルが、「family name」。


 “生い立ち”という逃れられない属性。それでも道を切り開いていくという気合い。かなのちゃんが出演したラジオで、共演者から何気なく発せられた「お母さんと色々あると思うけど、可愛く産んでくれたことだけは感謝しなくちゃね」という言葉に戦慄した。辛い目に合わされても、分かり合えなくても、自分の身体はその相手から生み出され、同じ血で作られているという事実。どんなに外側を塗り替えても、自分自身からは逃げられない。圧倒的に可愛い見た目は、武器であると同時に呪いにも思える。


 一回もアイドルを目指したことなんてないし、そもそも人前に立つことも超絶苦手な自分だけど、ZOCのことがとてつもなく羨ましい。可愛いから、スタイルがいいから、縷縷夢兎の衣装を着ているから、大好きな大森靖子ちゃんの曲をステージで歌って踊れるから、羨ましいのではない。あの奇妙で特別な6人の6人にしかない関係性が、羨ましかった。


 踊り方も歌い方も様々で、どんなに歪でも何ひとつ揃っていなくても、情報量多過ぎでも、全員が自分の信じる「美しさ」を貫いている。空気を読んで人に合わせたり、無難で人当たりのいい服を着たり、嫌なことを言われても笑ってやり過ごしたりする窮屈な日々の中、信念を貫き通す6人がとてつもなく眩しく見える。


 でも本当は、誰だってそういう風に生きられるはず。これから新しい時代が始まるのだから。(松村早希子)