本書『THE TEAM 5つの法則』(幻冬舎News Picks Book)は、精神論や経験則ではなく、学術的根拠に基づく5つの「法則」によって、チームを成功に導く手法を教えてくれる一冊だ。著者はモチベーションクラウドなどを提供するリンクアンドモチベーションの取締役、麻野耕司氏。幻冬舎の敏腕編集者として知られる箕輪厚介氏が編集を担当している。
著者は、多くの人が誤解している良いチームの特徴として、
・目標を確実に達成する
・多様なメンバーがいる
・コミュニケーションが多ければ多いほうがいい
・みんなで話し合って決める
・メンバーのモチベーションを高めるためには、リーダーが情熱的に語りかけることが大切だ
の5つを挙げている。一見正しいと思えるこれらの考えは、実は誤解があり、ときにチームが十分にパフォーマンスを出せない原因になり得るという。(文:篠原みつき)
「目標を確実に達成するのが良いチームだ」という誤解
「チームの法則」は、目標設定、人員選定、意思疎通、意思決定、共感創造の5つで構成される。その一部を紹介すると、「目標を確実に達成するのが良いチームだ」は間違いではないが、より大切なのは「目標を適切に設定する」ことだという。「目的」は、行動レベル、成果レベル、意義レベルの3つに分けられる。
例えば、本書の目的を当てはめてみると、
A 「行動目標」チームの法則を事例を交えて分かりやすく伝える本を作る
B 「成果目標」10万部売る
C 「意義目標」日本全体のチーム力を高める
となる。Aはメンバーが取り組むべき具体的な行動の方向性で、Bは具体的な成果、Cは最終的に実現したい抽象的な状況や影響を示すものだ。
どの目標を自分のチームに設定するのが適切かは、チームを構成するメンバーの能力・思考力・行動力によるってくる。もちろん3つすべてを設定することもできるが、チームが自分で考えて動くことが出来ないなら、まずは行動レベルで目標を設定しなければパフォーマンスには繋がらない。
一方で、チームメンバーが自ら考え動くことができるなら、意義レベルや成果レベルで目標を設定した方が、パフォーマンスは生まれやすくなる。逆に、チームに「行動目標」しかなければ、メンバーはときに作業の奴隷になり、「成果目標」だけでは数字の奴隷になってしまう。
「意義目標を設定することによって、メンバーは自らの生むべき成果や取るべき行動について、意思を持つことができます。『何をやるべきか?』だけでなく『何故やるべきか?』が分かれば、新たな『何をやるべきか?』が見つかるからです」
現に、本書を作る際に「日本全体のチーム力を高める」という意義目標が定まったことで、編集者の箕輪氏から「リーダー以外の人にも役立つ本にしましょう」「法則の頭文字を繋げると言葉になるようにしましょう」などのアイデアが出てきたという。「何のために」といった意義が見えたとき、人は自らアイデアや方法を考え出すのだと分かる。
自分の「トリセツ」で、メンバーの「経験」「感覚」「志向」「能力」を理解する
コミュニケーション(意思疎通)の法則では、柔道、駅伝、サッカー、野球の型に例えながら、プレイヤーの数や環境の変化度合いに応じて適切なルール作りが必須だと説く。その上で、互いを理解して「安心して意見を言える場づくりのため」のコミュニケーションは、一見無駄に見えても欠かせないという。といっても、飲みにケーションやレク大会などではない。メンバーひとりひとりの「経験」「感覚」「志向」「能力」を理解する「コンテキスト(文脈)づくり」が肝になる。
ユニークなのは、著者が新規事業を立ち上げたときの取り組みだ。互いに異なるバックボーンをもつ社内外の多彩なメンバーと仕事をするため、「チームメンバーの全員が自分の『取扱説明書』を作成した」という。このトリセツには、
・自分の人生の「経験」と「感覚」を示した「モチベーショングラフ」
・自分の「能力」や「志向」を記した「ポータブルスキル」や「モチベーションタイプ」
・自分がどんな時に嬉しいと感じ、悲しいと感じるか、周囲のメンバーにはどのように関わって欲しいか
まで記載されている。
これによって、初めて仕事をするメンバー同士でも、相手のコンテキスト(文脈)を理解したコミュニケーションができるようになった。「モチベーショングラフ」などの作成は、本書を参考にすぐに試してみたくなる。
すべてのチームに活用できる、偉大なチームの法則
著者は、これらを含めた5つの法則を自ら実行したことで、業績をV字回復させ、あるメンバーに「メンターになってほしい」とまで言われる信頼を得ている。その上で、
「『偉大なチームには偉大なリーダーがいる』のではなく、『偉大なチームには、法則がある』」
という気付きを語った。5つの法則は、リーダーだけでなくメンバー全員が共有することで、チーム力が最大限に発揮できるだろう。
章ごとのチェックリストや、巻末に法則の学術的背景を紹介するなど、工夫を凝らしたつくりの本書は、企業だけでなく、中高の部活や大学のサークル、地域のコミュニティなどすべてのチームに活用できる。筆者もさっそく、自分の周囲の人々のトリセツづくりをしてみたくなった。