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『あなたの番です』マンションの住人らに徐々に変化が 殺人者になる葛藤をスリルに描く

2019年04月29日 13:41  リアルサウンド

リアルサウンド

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 “交換殺人ゲーム”のルールを絶対に守るのであれば、次は自分が誰かを殺さなくてはいけない。28日に放送された日本テレビ系列日曜ドラマ『あなたの番です』第3話では、マンション“キウンクエ蔵前”から飛び出した交換殺人の連鎖と、届けられる脅迫文によって追い詰められていく403号室の藤井(片桐仁)の姿にフォーカスが当てられた。“殺してほしい人”として名前を書いたドクター山際が殺されたことで、次は自分自身が殺人者になることを余儀なくされるという極めて特殊な心理状態によって生まれる葛藤が実にスリリングに描き出されていたといえよう。


参考:眼帯姿の西野七瀬


 手元にある紙に書かれていた“タナカマサオ”という、いたく平凡な名前の人物を探す藤井。それと同時に自分を脅迫している人物を探すために、各住民を訪ねて歩き「あなたの番です」と書かせるもとても見つかりそうにない。そんな中でも新たな伏線のようなものをひたすら張り巡らせ、まったく手の内を明かそうとしない本作は、見るからに怪しげな住人たちの姿を少しずつ少しずつ映していくのだが、これまでと比較して微妙な変化を垣間見せていた。


 それは住人を監視するやたら不穏な存在に見えていた401号室の木下(山田真歩)が、決してそのイメージ通りではないということが翔太(田中圭)の言葉から見受けられる点。そして502号室の家族の嫁姑の不仲がついに爆発しかけたことや、常に怪我をしている202号室の沙和(西野七瀬)についての仮説が生まれたことなど、ただただミステリアスなわけではない、登場人物それぞれのドラマへの入り口が提示されていたというわけだ。これらはすべて、今後のエピソードの伏線として何らかの意味をもつような予感がひしひしと漂っている。


 さて、今回の劇中に登場した“教唆”というワードに注目しておきたい。刑法第61条の第1項に明記されている通り「人を教唆して犯罪を実行させたものには正犯の刑に科す」という、簡潔に言えば「誰かに誰かを殺させた人は、誰かを殺した人と同じ罪を背負う」といったところか。この“交換殺人ゲーム”の前提そのものがこの“教唆”に当たるのだと、住民会の中でも指摘されていたはずだ。とはいえ、例えば第1話の終盤で管理人が殺された時点で、殺した者は殺人者に、殺してほしいと書いた者は教唆犯になったわけだが、当然のように殺人が実行されない限り、誰も教唆犯にはなり得ないし殺人犯にもなり得ない。


 今回描かれた藤井の葛藤や心理的な負荷を分解してみると、「自分が誰かを殺さなくても、誰かが自分の書いた名前の人物を殺してしまったことで自分も殺人罪に問われる」ことに加え「いずれ自身も殺人犯になること」。そしてさらに、別の誰かからのほぼ強要のような形で「殺人犯になることを余儀なくされること」という3つの側面が存在している。これはこの先ある種のルーチンとして、各登場人物に拡がっていくのかもしれない。ここでふと、その引き金となった管理人の死が警察の判断通りに事故だったとしたら、と考えをめぐらせてみたくなってしまう。もしそうならば、なおさら人間の弱さを露見させるドラマとして面白さが増すのではないだろうか。 (文=久保田和馬)