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『なつぞら』ついになつが上京へ 酪農の子からアニメーターへ転身する“超展開”は成功するか!?

2019年04月29日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 朝ドラヒロインにとっての通過儀礼。それは「上京」だ。NHK東京放送局制作の連続テレビ小説では、地方で暮らしていたヒロインが大好きな家族と別れ、東京に出て、個性豊かな人々と出会う。そのハラハラドキドキの瞬間が前半の見せ場になることが多い(一方、10月スタートのNHK大阪放送局制作作品では大阪への移住が多い)。『なつぞら』(NHK)のなつ(広瀬すず)にもそんな瞬間がやってきた。これまでの舞台は北海道の十勝地方で、終戦時、東京で戦災孤児になった“なつ”はそこで酪農の牧場を営む柴田家に引き取られた。4月29日(月)からの第5週では、それから9年、農業高校の卒業を控えた“なつ”が、生き別れになってしまった実の兄・咲太郎(岡田将生)を捜すため、養母の富士子(松嶋菜々子)と共に東京へ戻ってくる。


参考:山田裕貴&吉沢亮、『なつぞら』を経てさらなる飛躍へ 広瀬すずを支える“幼馴染”を好演


 時代は昭和30年代。咲太郎は4年前まで新宿の芝居小屋で働いていたという。“なつ”は新宿でカフェを営む光子(比嘉愛未)など、きらびやかな都会の人々と出会いながら兄を捜す。それだけではなく、漫画映画と呼ばれていたアニメーションの制作現場を見学することに(第6週)。ここで“なつ”が東京で働くという選択肢もあることを認識することになりそうだ。


 ここ10年ほどの朝ドラを振り返ると、上京の場面は忘れがたい名シーンばかり。『あまちゃん』のアキ(能年玲奈)はもともと東京生まれだが、岩手県の祖母の家で暮らした後に、アイドルを目指し上京した。東京へ向かう電車を海辺で旗を振り見送ってくれたおばあちゃんとそれを見て涙するアキの姿には涙した。また、『ひよっこ』のみね子(有村架純)は茨城県から集団就職で東京へ。みね子が東京の駅にたどり着いたとき、会社から迎えにきた人とすれ違ってしまい不安になる様子には、こちらもハラハラした。また、『半分、青い。』の鈴愛(永野芽郁)は漫画家を目指して岐阜県から上京した。


 “なつ”の場合は、いったんは上京するが、その後は北海道に戻り、改めて東京に出る決心を固めるという展開になっていく。“なつ”に牧場を継がせたいと思っている頑固なじいちゃん・泰樹(草刈正雄)は許してくれるのか。“なつ”とは美男美女でお似合いのカントリー男子・天陽(吉沢亮)もいる。彼との恋愛感情はどうなるのか。柴田家を出ていくとなったら、家族も従業員もみんな泣いちゃうんじゃないの? 東京へ行く前にクリアすべき問題が満載で、それを描く展開も盛り上がりそうだ。


 ところで、昭和30年当時、北海道からアニメーターを目指し上京するという生き方はリアルにありえたのだろうか? “なつ”のモデルと言われる実在したアニメーター、奥山玲子は宮城県仙台市の出身で、東京で第一線のアニメーターとなったが、もともとアニメーターを志して上京したわけではないようだ。“なつ”が当時まだ知られていないアニメーターになろうと考えわざわざ北海道から東京へ、というのはドラマの創作部分であり、リアリティを考えると少し苦しい。農業を学び牛の乳搾りをしていた女性が、漫画と映画と文学に熱中するサブカルチャーオタクの巣窟へ? そんな飛躍を説得力充分に描けるかどうかは、脚本や演出の腕の見せどころになりそうだ。


 ただ、実例を探してみると、アニメーターではなくても近い職種にはある。今月、亡くなった漫画家のモンキー・パンチは北海道厚岸郡の出身で、高校卒業後に漫画家を志し上京したという。偶然だが、劇中で“なつ”が上京するのと同じ昭和30年ごろのことだったと思われる。さらに少し後の世代になると “24年組”の山岸凉子を始め、北海道出身の漫画家は数えきれないほど。『鋼の錬金術師』『百姓貴族』で知られる荒川弘は、酪農も営む農家に生まれ、自身も農業高校を卒業し漫画家になるまで農業に従事していた。つまり、酪農家から漫画・アニメの作り手へという転身もなくはない。


 『なつぞら』にも今後、モデルの奥山玲子の周りにいた有名なアニメーター、アニメ監督たちを思わせる人物が登場。水木しげるをはじめとした漫画家たちを実名で描いた『ゲゲゲの女房』よりフィクション要素が強いが、昭和のアニメ業界の熱気とハチャメチャぶりをどこまでリアルに描けるかに期待しよう。(小田慶子)