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「平成バラエティ史」を振り返る【後編】ーー時代を味方につけたテレビ東京が主役的存在に躍り出る

2019年04月28日 08:01  リアルサウンド

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 もう間もなく、「平成」が終わり、新元号「令和」の時代が始まる。90年代後半より放送開始した人気番組『めちゃ×2イケてるッ!』や『SMAP×SMAP』『とんねるずのみなさんのおかげでした』(すべてフジテレビ系)などが、この数年の間で放送終了を迎えたことが象徴するように、このおよそ30年でTV番組、とりわけバラエティ番組は大きく変わったように思える。  


 TVバラエティにとって、平成とは一体どんな時代となったのだろうか。およそ30年にわたる「平成バラエティ」の歴史を社会学者・太田省一氏に振り返ってもらった。ドキュメントバラエティの誕生や、コントとドラマの接近・融合について論じた前編に続き本稿では、その後編をお届けする。(編集部)


■バラエティのなかのオタク文化~『アメトーーク!』とタモリ


 昭和の漫才ブームからの流れで定着したフリートーク形式の番組は、平成も健在だった。


 この分野の代表的存在は、いうまでもなく明石家さんまである。『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系、1997年放送開始)や『さんまのお笑い向上委員会』(フジテレビ系、2015年放送開始)など、平成を通じてさんまはお笑い芸人、芸能人、素人とあらゆるひとを相手にトーク番組のMCとして活躍し続けた。ボケ、ツッコミ、ノリツッコミ、キャラいじりなど漫才的コミュニケーションの技術を自由自在に駆使しながら、軽快なテンポのトークをさんまは進めていく。


 さんまの番組もそうだが、こうしたフリートーク中心のバラエティで定着したのがひな壇形式の番組である。MCがツッコミ役となって、ひな壇に座る芸人たちのボケやキャラをバランスよく引き出すスタイルである。


 ひな壇トークには、芸人の世界の縮図のようなところがある。現在の芸人にとってひとつのゴールは、さんまなどのようにトーク番組のMC、仕切り役になることである。若手芸人たちは、ゆくゆくはそうなるためにまずひな壇で「爪痕を残す」ことから始め、自らの存在をアピールする。


 そうしたひな壇番組のなかで独自の立ち位置にあるのが、2003年に始まり2006年からレギュラー化されたテレビ朝日『アメトーーク!』と言えるだろう。


 毎回、ある共通項を持つ芸人が「○○芸人」としてひな壇に登場し、司会の雨上がり決死隊とともにフリートークを繰り広げる。共通項となるテーマは、実にさまざまだ。ただなかでも特徴的なのは、「高校野球大好き芸人」や「キングダム芸人」のように、野球観戦や漫画など自分たちの趣味に関するマニアックなトークの頻度が高いことだろう。それは、オタク文化が市民権を得た平成という時代と無関係ではない。


 現在のバラエティにおいて、オタク的な要素は欠かせない。たとえば、『マツコの知らない世界』(TBS系、2011年放送開始)を見れば、毎回のように多彩なマニアが登場して蘊蓄を語っている。MCのマツコ自体、地図や都市再開発のマニアであることは番組でも語っているので有名だろう。


 そうしたなかで、平成になってさらに脚光を浴びる存在になったのがタモリである。元々は昭和時代に「密室芸人」として毒のある知的な芸風でブレイクしたタモリは、いまではむしろ、テレビ朝日『タモリ倶楽部』(1982年放送開始)やNHK『ブラタモリ』(2008年放送開始)を思い出すまでもなく、鉄道や地図・地形のマニアとして存在感を発揮している。オタク文化が浸透した平成において、趣味人・タモリは、若い世代からも憧れ、尊敬される存在になっている。


■散歩番組が確立した「ユルさ」の魅力


 『ブラタモリ』もそうだが、いま散歩番組が全盛だ。散歩番組は旅番組の一種と言えるが、有名観光地巡りではなく日常的な街の風景のなかでの人びととの交流がメインな点で、従来の旅番組とは一線を画す。いまや散歩番組は、ひとつの独立した番組ジャンルになった感がある。


 先駆的番組としては、1995年に始まったNHK『鶴瓶の家族に乾杯』が挙げられるだろう。笑福亭鶴瓶とゲストが毎回、全国どこかの街を訪れ、地元の人びととふれあう。「ぶっつけ本番の旅」とわざわざ番組最初に出るように、偶然の出会いが生む感動や笑いが最大の魅力になっている。


 この番組の鶴瓶を見てもわかるように、相手の人柄を引き出すことが肝になるこうした番組では、自ずとコミュニケーション術に長けたお笑い芸人が起用されることが多い。鶴瓶以外にも、有吉弘行、タカアンドトシ、サンドウィッチマンなどがメインの散歩番組が、現在各局で放送されている。


 そうした番組の代表格と言えるのが、2007年にスタートしたテレビ東京『モヤモヤさまぁ~ず2』である。さまぁ~ずの二人がテレビ東京の女性アナウンサーとともに毎回ひとつの街をぶらぶら歩きしながら、地元の人びとと交流する。


 『モヤさま』の特徴は、「ユルさ」である。初回で訪れたのが、新宿ではなく北新宿であったことなどがまず象徴的だ。流行の店や人気スポットがある定番の街ではなく、そこから少しずれたところを敢えてチョイスする。そこで出会う地元の人びともテレビ的なお約束には無頓着で、自分たちの普段着のままの姿勢を崩さない。さまぁ~ずとのやり取りも、芸人同士による丁々発止のボケとツッコミの応酬のようなかっちりしたものとは異なり、どこか微妙にずれていたりする。だが逆にそのずれが醸し出す「ユルさ」がガチ感となって、独特な笑いが生まれる。


■平成はテレビ東京の時代


 定番から絶妙に外れたところに新しい価値を見出す。それは、テレビ東京そのものの方法論でもあった。


 テレビ東京が在京キー局としては最後発で、予算面なども十分ではなかった事情からやむを得ずそうなった面もある。ただ、定番に頼らない徹底したアイデア勝負のスタンスが、昭和のテレビから脱却し、新しいものを模索していた平成のテレビにうまくフィットした。そうして時代を味方につけたテレビ東京は、平成のバラエティを担う主役的な存在に躍り出た。その意味で、平成はテレビ東京の時代だったとも言える。


 たとえば、太川陽介と蛭子能収のコンビでシリーズ化された『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』(2007年放送開始)などは典型的だ。旅番組の定番を離れ、地元で走っている路線バスだけを乗り継いで期限内に目的地にゴールするというアイデアがまず見ていて面白い。そこに地元の名産には目もくれずどこでも自分の好きなカツ丼やカレーを食べる蛭子さんのユニークなキャラクターなども加わり、局の看板人気番組になった。


 ほかにもテレビ東京のアイデア勝負の成功例として、大食いブームを巻き起こした『TVチャンピオン』(1992年放送開始)や一般人に密着する『YOUは何しに日本へ?』(2012年放送開始)、『家、ついて行ってイイですか?』(2014年放送開始)などの素人をフィーチャーした番組がある。また鉄道沿線の街を空撮した映像がナレーションとともに延々と続くだけの『空から日本を見てみよう』(2008年放送開始)なども、そうだろう。


 こうしたテレ東的アイデア勝負の手法は、いまやテレビ全体に広まりつつある。衛星画像からポツンと存在する一軒家を発見し、そこに暮らす人たちを訪ねて取材する『ポツンと一軒家』(テレビ朝日系、朝日放送テレビ制作)が大河ドラマや人気バラエティ『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)と同じ時間帯で堂々と高視聴率を挙げているのは、その好例である。


■『チコちゃん』の成功が教えるバラエティの可能性


 その点は、NHKも例外ではない。たとえば定番外しの手法は、前編の冒頭でふれた『チコちゃんに叱られる!』(NHK/以下、『チコちゃん』)にも見受けられる。いやむしろ、そうした定番外しの要素を巧みに織り交ぜたのがこの番組の魅力であり、そこに世代を問わず視聴者を飽きさせない理由もあるだろう。


 基本フォーマットはクイズ形式の教養バラエティで、これまでも同じジャンルの人気番組がなかったわけではない。だが『チコちゃん』で特に見逃せないのが、随所に凝らされたエンタメとしての工夫だ。


 チコちゃんの声がお笑い芸人・木村祐一で、5歳という設定を無視したような大人の会話もお構いなし、という意外性たっぷりな部分もそうだろう。ニュース番組の印象が強くお堅いイメージの森田美由紀アナが淡々とした口調で「毒」を吐くナレーションにもつい笑いを誘われる。また答えの解説VTRも、有名俳優を使った再現ドラマにいきなりなってみたり、取材が上手くいかなかったことをスタッフが自虐的にばらしたりするなど、ありがちな形式にせずあえてユルく作っている様子がうかがえる。


 そして究極には、この番組自体がNHKの定番外しの産物でもある。『チコちゃん』の元々のアイデアは、かつてダウンタウンやウッチャンナンチャンの番組の演出などを手がけ、1990年代以降のフジテレビバラエティを支えたひとりである小松純也(当時は番組制作プロダクション・共同テレビジョン所属、現在はフリー)によるものである。その意味では、岡村の存在と併せ、『チコちゃん』というバラエティは、NHKとフジテレビのハイブリッドと見ることができる。


 『めちゃイケ』だけでなく、『SMAP×SMAP』や『とんねるずのみなさんのおかげでした』といった長寿バラエティのここ数年での終了を受けて、1980年代以来バラエティをリードしてきたフジテレビの時代の終焉を指摘する声は少なくない。またコンプライアンス意識の高まりから、従来のバラエティのありかたが再考を迫られていることも確かだ。しかし、『チコちゃん』が示すように、フジテレビが築いたバラエティのエッセンスは思わぬところで受け継がれ、ヒット番組を生んでもいる。そこに来たるべき時代の新しいバラエティの可能性も潜んでいるに違いない。(文=太田省一)