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「平成バラエティ史」を振り返る【前編】ーー“感動×笑い”を洗練させた『めちゃイケ』の功績

2019年04月27日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 もう間もなく、「平成」が終わり、新元号「令和」の時代が始まる。90年代後半より放送開始した人気番組『めちゃ×2イケてるッ!』や『SMAP×SMAP』『とんねるずのみなさんのおかげでした』(すべてフジテレビ系)などが、この数年の間で放送終了を迎えたことが象徴するように、このおよそ30年でTV番組、とりわけバラエティ番組は大きく変わったように思える。


 TVバラエティにとって、平成とは一体どんな時代となったのだろうか。およそ30年にわたる「平成バラエティ」の歴史を社会学者・太田省一氏に振り返ってもらった。本稿では、その前編をお届けする。(編集部)


■『めちゃイケ』から『チコちゃん』へ


 いま、面白いバラエティは? と聞かれたら、『チコちゃんに叱られる!』(NHK/以下、『チコちゃん』)と答えるひとはきっと少なくないはずだ。


 5歳という設定の着ぐるみの女の子・チコちゃんが、「なんで右利きの人が多いの?」のような素朴な疑問を大人にぶつける。そして大人が答えに詰まると、「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と相手を叱りつける。子どもが大人をやり込める逆転の構図。CG技術によるチコちゃんの豊かな表情の魅力とともに、その痛快さが人気の理由だろう。


 そして番組のメインを務めているのが、これがNHKに初レギュラー出演となったナインティナイン・岡村隆史である。


 岡村と言えば、いうまでもなくフジテレビ『めちゃ×2イケてるッ!』(以下、『めちゃイケ』)がブレイクのきっかけだった。その『めちゃイケ』が1996年のスタート以来約21年半に及ぶ番組の幕を閉じたのが昨年2018年3月のこと。そしてその直後の2018年4月に、『チコちゃん』がレギュラー化された。平成の終わりに、岡村隆史という存在を介して人気バラエティ番組のリレーがおこなわれたことになる。


 もちろん『チコちゃん』と『めちゃイケ』では、同じバラエティでもまったくと言っていいほどテイストは異なる。だがだからこそ、両者の違いは、平成においてバラエティにも大きな変遷があったことを物語る。そこで以下では『めちゃイケ』を出発点に、そこから『チコちゃん』に至るまでの平成バラエティ30年余りの歴史をポイント別に振り返ってみたい。


■ドキュメントバラエティにおける感動と笑い~『めちゃイケ』が見せた完成度


 平成に入ってまだ間もない1990年代前半、ドキュメントバラエティという新たなバラエティのスタイルが生まれる。1992年開始の『進め!電波少年』(日本テレビ系)がそのパイオニア的番組だ。事前の約束なしに訪れてお願い事をする「アポなし」ロケが一世を風靡。そしてその後、若手お笑いコンビ・猿岩石による「ユーラシア大陸横断ヒッチハイク」が大反響を呼び、社会現象的ブームになった。


 ドキュメントバラエティは、その名の通りドキュメンタリー性を前面に出したバラエティである。出演者は、たとえ芸人であっても芸よりも素の部分をさらけ出すことを求められる。視聴者は、猿岩石が宿代も食事代もない状況になり、やせ細りながらも必死で旅を続ける姿に感動した。バラエティのなかに、笑いに並ぶ要素として感動が入ってきたのである。


 『めちゃイケ』の目玉企画だった「岡村オファーがきましたシリーズ」は、その流れを受けてより洗練されたドキュメントバラエティのかたちを目指したものだった。


 この企画では、目標をクリアするため岡村隆史が奮闘する姿にカメラが密着する。ただその目標の達成には厳しい条件があって、普通に考えれば実現はきわめて困難だ。しかし岡村は、超人的な努力によって予想を超える“奇跡”を引き起こす。ジャニーズJr.としてSMAPのコンサートに出演したのが最初で、その後ムツゴロウ王国で競馬対決をしたり、元世界チャンピオン・具志堅用高とボクシング対決をしたりと数々の名場面が生まれた。


 ただ、感動の比重が大きくなりがちなドキュメントバラエティにあって、笑いの要素を巧みに織り込んでいたのが『めちゃイケ』の特徴だった。所々に笑える場面が挟まるというだけでなく、途中で何気なく出てきた小道具や場面が実は伏線になっていて番組の最後にオチに使われるなど、ドキュメンタリーとバラエティがまさに渾然一体になっていた。中居正広も絡んで『めちゃイケ』が主体となった2004年の『FNS27時間テレビ』は、そうした緻密な構成・演出の集大成と言える。


■コントとドラマの接近、そして融合


 『めちゃイケ』の前身番組は、『とぶくすり』(1993年放送開始)。コント中心の深夜バラエティである。すでにフジテレビでは、同様の深夜バラエティ『夢で逢えたら』(1988年放送開始)からブレイクしてダウンタウンやウッチャンナンチャンがゴールデンタイムに冠番組を持つようになった前例があり、「深夜からゴールデン」が出世コースになっていた。


 ただ『ダウンタウンのごっつええ感じ』(1991年放送開始)や『ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!』(1990年放送開始)といった番組は、ドキュメントバラエティがトレンドになる以前にスタートしたこともあって、深夜と同様にコント中心のバラエティとして成功した。


 そこでは、コントはある種の「作品」のようになった。ドタバタやギャグがメインのものだけでなく、たとえば『ダウンタウンのごっつええ感じ』の「トカゲのおっさん」のように、ストーリー性を伴った、演者にも演技力が求められる一編のドラマのようなコントが、そうした番組には含まれていた。要するに、シリアスとコメディの両面を持つようなコントが、ひとつのジャンルとして定着したのである。


 一方で、2000年代に入る頃になると、深夜ドラマを中心にドラマがコント化し始める。『トリック』(テレビ朝日系、2000年放送開始)が典型的で、シリアスなストーリーを軸にしながらも、小ネタやパロディ、笑える掛け合いなどコミカルな要素を自在に織り交ぜていく手法が人気を呼んだ。


 そこには、『トリック』の演出の堤幸彦にはとんねるずの番組の演出経験が、テレビ東京『勇者ヨシヒコシリーズ』の脚本・演出の福田雄一にはバラエティの放送作家の経験がそれぞれあるなど、バラエティとドラマ双方に関わった経験を持つスタッフの存在があった。また『勇者ヨシヒコシリーズ』の主演を務め、『山田孝之の東京都北区赤羽』(テレビ東京系、2015年放送)ではドキュメンタリードラマのようでもコントのようでもある不思議な空間を生み出した山田孝之のような俳優の存在もあった。


 こうしてコントとドラマが接近するなかで、実際に俳優がコント番組に出演するケースも増えた。


 NHK『サラリーマンNEO』(2006年放送開始)は、タイトル通りサラリーマンの世界を舞台にしたコント番組である。演じるのは主に生瀬勝久、沢村一樹、山西惇などの俳優で、お笑い芸人はいない。ニュース番組や外国語講座のパロディあり、キャラクターコントあり、悲哀やユーモア漂う演劇的なコントありと多彩なコントを俳優たちが見事に演じる姿は、「バラエティ=お笑い芸人」という常識を揺るがせるに十分なものだった。


 また2012年放送開始のNHK『LIFE!~人生に捧げるコント~』では、お笑い芸人と俳優がコント番組で共演している。メインのウッチャンこと内村光良、ココリコ・田中直樹、ドランクドラゴン・塚地武雅らお笑い芸人とともにムロツヨシ、西田尚美、吉田羊、塚本高史ら俳優がレギュラー出演し、やはりさまざまなタイプのコントを繰り広げる。そこにはもはやお笑い芸人と俳優のあいだに境界線はなく、コントとドラマが融合したような印象を受ける。(文=太田省一)


※後編に続く