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CD売上1位のラストアイドルとDL1位のあいみょん、対照的な両者が並ぶランキングの“ねじれ構造”

2019年04月27日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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参考:2019年4月29日付週間シングルランキング(2019年4月15日~2019年4月21日)


 4月29日付の週間オリコンシングルランキングは、ラストアイドルの『大人サバイバー』が73,277枚を売り上げ1位を獲得。続くGANG PARADE『ブランニューパレード』が42,917枚で2位、山本彩『イチリンソウ』が30,065枚で3位となった。


(関連:ラストアイドル『大人サバイバー』、センター阿部菜々実インタビュー「自分にはアイドルしかない」


 1位の『大人サバイバー』はラストアイドルの通算6枚目のシングル。アコギのカッティングやサビの入り方、整列したメンバーたちが無表情でダンスするMVなど、筆者としては随所に「サイレントマジョリティー」を彷彿とさせる要素を感じた、力強いダンスナンバーである。ライブでファンも参加できるよう“HEY!”という掛け声が何度も組み込まれており、現代的な作りをしたアイドルソングと言えそうだ。作詞を秋元康、作曲を新隼人、編曲を野中“まさ”雄一がそれぞれ担当している。


 一方で、同日付の週間デジタルシングルランキングを見ると4月3日に先行配信されたあいみょん「ハルノヒ」がダウンロード数25,832を記録して1位となっている。発売週のみに集中しない売り上げを見せているのは、CDシングル発売までの2週間に渡り発売に関する話題が持続していることや、多くのメディア露出、主題歌に起用されている映画『クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン ~失われたひろし~』が19日に公開されたことなど、さまざま考えられる要因はあるが、それを考慮したとしても好調な成績である。後に続く3位の米津玄師「Lemon」や7位のONE OK ROCK「Wasted Nights」のようにロングセールスとなりそうな予感だ。あいみょんは他にも「マリーゴールド」(5位)、「君はロックを聴かない」(12位)、「今夜このまま」(18位)とチャート上位を席巻し圧倒的な存在感を見せている。


 CD売り上げ1位のラストアイドル、ダウンロード数1位のあいみょん。非常に対照的な両者が首位に肩を並べた週である。


 しかしながら、面白いのは、現代アイドルならではの表現を見せたラストアイドルが”CDシングル”で1位を記録し、逆にノスタルジックなサウンドを携えた「ハルノヒ」が”ダウンロード数”で1位となったことである。


 「ハルノヒ」の舞台は北千住。東京の中でも下町風情の残る地域で、昔ながらの商店街が今もなお残る街だ。この曲に限らず彼女の作品は懐かしい雰囲気を感じさせる楽曲が多い。利用者に若い世代が多いはずのデジタルシングルのランキングを席巻している彼女の楽曲が、そうした性質を持っている点はなかなか興味深い。


 また、この曲は“未来”に対する漠然とした距離感と思いを歌っている。


〈僕らは何も見えない 未来を誓い合った〉
〈どんな未来が こちらを覗いているかな〉
〈どうか未来が こちらに手を振ってほしい〉


 この“どうか”という言葉から、主人公の繊細な機微が伝わる。ぼんやりと遠くにある“未来”に対して、みずから自発的に向かおうとはしていない。〈焦らないでいい〉と何度も歌っているように、生き急いでいる雰囲気がない。対する「大人サバイバー」はこうだ。


〈たとえ地図がなくても どこかへは辿り着けるだろう〉
〈前へ前へ歩けよ!〉
〈どんな時も夢見ろ!〉
〈迷わず まっすぐに進むんだ〉


 “未来”が見えないのは同じだが、自己啓発にも似た力強いフレーズの連続で能動的な姿勢を促している。目的地ははっきりしないものの、前へ突き進むパワーと、自分を信じる強さが表れている。前進することに対して、意気込みや熱意に溢れ、活気に満ちている。手法やサウンドも対照的な両者だが、“未来”に対してのスタンスも明確に分かれている。


 新指標としてのデジタルランキングを席巻するあいみょんの“郷愁感”と、低迷するCD市場に君臨するアイドルの“力強い”言葉。平成終盤のオリコンランキングから見えてきたのは、ある種の“ねじれ構造”であった。(荻原梓)