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TikTokでの“トークボックス講座”も話題 JUVENILEが語る「トークボックスの魅力」

2019年04月25日 14:31  リアルサウンド

リアルサウンド

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 音楽家の経歴やターニングポイントなどを使用機材や制作した楽曲とともに振り返る「音楽機材とテクノロジー」。これまでは横山克・後藤正文と音楽作家・バンドマン目線から見た音楽制作・録音・スタジオ面での話が続いたが、今回は“機材”にフォーカスを当ててみようと思う。


 そこで登場してくれたのが、ボーカル・ダンサーのRYUICHIとともに「OOPARTZ」というユニットで活動しているJUVENILE。彼はオリエンタルラジオ(中田敦彦・藤森慎吾)を中心に結成されたユニット・RADIO FISHの「PERFECT HUMAN」を手がけた音楽家であり、シンセサイザーやトークボックスに一家言ある演奏者だ。今回の取材では「そもそもトークボックスとは何なのか?」といった基本的なところから、ヴォコーダー、オートチューンとの使い分けなどについてまで、広く話は展開した。(編集部)


(参考:ASIAN KUNG-FU GENERATION 後藤正文に聞く ロックバンドは“低域”とどう向き合うべきか?


■ 「California Love」で気づいたトークボックスの魅力


ーーまず、どういうきっかけでトークボックスというものに興味を持ったのか教えてください。


JUVENILE:大きく分けて、ロックバンドか打ち込みかというと、後者が好きでしたし、小さい頃からゲーム音楽が好きということもあって。昔からロボットボイスとかヴォコーダー、オートチューンのように、デジタル的、サイバー的といっていいものに興味はあったんです。


ーーそれは小さい頃の音楽遍歴が影響していたんですか?


JUVENILE:もともと小さい頃からピアノを弾いていたんですけど、小学校4年生くらいのときに坂本龍一さんの「energy flow」を音楽室で弾いていたら、音楽の先生から「坂本龍一が好きならこれはどう?」ってYMOの「Technopolis」、「TONG POO」、「RYDEEN」とかが入ってるカセットテープを渡されて。それから一気に打ち込みの音楽に興味が湧きました。


ーーそこから音楽機材に興味を持ったんですか。


JUVENILE:この曲をやりたいという時に、バンドを組もうと思ったんですけど、小学生のコミュニティだとそんな仲間がいないんですよ。ピアノを弾ける女の子が多かったけれど、当時の僕は敵視していて(笑)。でも、男の子にもバンドを組んでくれる人がいなかったので、1人でやるしかないなと。当時はインターネットが普及し始めたころですが、自宅にはネットがなくて、YMOについて図書館で調べてたら、「シーケンサー」というものがあるらしく、なかでも「YAMAHA-QY100」が良いらしいと。とはいえ小学生には自分で買える値段のものではなかったので、ありとあらゆる手を尽くして買ってもらいました。


ーー親御さんもさぞビックリしたでしょうね。次の機材を買うまで、どれくらいの間「YAMAHA-QY100」を使ってたんですか?


JUVENILE:高校生の頃ですね。今でも動いてるんですけど、画面の内蔵バッテリーが切れて、映らなくなっちゃうくらい使い倒しました。


ーー5~6年間も使っていると、曲作りもかなり上達したんじゃないですか。


JUVENILE:そうですね。ただ最初は説明書を読んでもわからなかったですし、トライアンドエラーでしかなくて。画面は小さいし、ステップ入力もクオンタイズもわかりづらい。触って、こうなったから戻して……みたいに時間をかけて、今だったら絶対にできない時間の使い方をしていました。子供の頃ならではですね。


ーーそれを誰かに見せたいとは思わなかったんですか?


JUVENILE:思わなかったですね。中学生時代はほとんど家に籠って作っているばかりでした。


ーーそこからトークボックスに興味を持ったのは、いつごろなんでしょう。


JUVENILE:中学2~3年生くらいですね。このころにヒップホップを好きになったのが大きいです。トークボックスって、西海岸系のヒップホップでよく出てくるので。ヴォコーダーでもオートチューンでもなくて、これがトークボックスなんだと認識したのは、2Pac Ft. Dr. Dre & Roger Troutmanの「California Love」(1996年)でした。


ーーヒップホップを通ったことで、作る音楽にも変化はありましたか?


JUVENILE:かなり変わりましたね。自分で作るとなると、やっぱりコピーし続けるところから、1段2段どころじゃない、すごく難しいハードルの上がり方をするんですけど、ヒップホップのトラックって基本的にはループの音楽なので、4小節作れば完成なんですよ。そういう意味ではやりやすかったところもありますね。ただ、「HIPHOPは音がダサいとかっこいい曲にならない」と気づいたのもこの頃で、それまでアレンジとか展開、譜面を考えて作っていたMIDIやQY100とは違う音が必要だと思って。それで、ネットオークションで古いシンセサイザーやリズムマシンを集め始めました。トークボックスを自作し始めたのもこの時期です。


ーー自作は上手くいったんですか?


JUVENILE:原理的には簡単なんですよ。キーボードを弾いて、その音をスピーカーから出して、それを閉じ込めてホースでウニャウニャするという。海外でそれを自作してる人が結構いて、ネットにHOW TO動画も上がっていましたし、ホームセンターにあるもので作れるなと思って、挑戦してみたんです。でも、段ボールで作ると、出力がやっぱり弱くて。コンプレッションドライバーはホーンスピーカーにつけないと力が弱くなっちゃうんです。だから、ライブやレコーディングで使うまでには至らなくて、おもちゃの領域は出なかったですね。


ーーなるほど。でも、QY100だけを使っていた頃から比べると大きな進歩ですね。


JUVENILE:そうなんですよ。だから、最近のDAWを触って「わかりづらい」って言ってるのを聞くと、「ふざけんな」って思っちゃいます(笑)。


ーー(笑)。そうしてヒップホップに興味を持ち、機材の種類も変わってきて、外に開けていったわけですか。


JUVENILE:高校生の時は僕自身がまだJUVENILEと名乗っていたわけでもないんですけど、ヒップホップを聴くきっかけになった、隠れてちょっとヤンチャをしてる友達がいて。その子から「お兄ちゃんがラッパーだから来てよ」とライブに行ったのをきっかけに、「俺はラップやる」「俺はDJやる」とみんながやりたいことを見つけていく中で、「じゃあ、俺は曲作るわ」と。


ーー友達同士で1つのクルーみたいになっていたと。


JUVENILE:そうなんです。よく渋谷 VUENOSや田町のstudio Cube 326でライブを見たり、東京の千葉寄りに住んでいたこともあって、千葉のクラブStarNiteとかにもよく行ってました。そこから、「僕もやっぱり出たい!」と思うようになって。でも、DJじゃないし、歌も歌えないし、ラップをするのも抵抗があって、トークボックスをやり始めたんです。


■「声を入力するにも、トークボックスの発音っていうのがある」


ーーなるほど。ちなみにトークボックスって、どれくらい種類があるもんなんですか?


JUVENILE:その話をすると、そもそも「トークボックスとは何か」みたいな話になるんですけど、ソースもギターやキーボードと色々あって、そこにスピーカー的なものとホースがあればトークボックスなんですよ。そのなかで市販で売られているものだと、アンプが内蔵されてるものとされてないものの2種類があります。アンプがあるものはエフェクターとしての役割もあるので、ギタリスト向けでもあり、アンプのないものはコンプレッションドライバーが必要、という感じですね。アンプ内蔵タイプはBANSHEE、内蔵でないものはHEILというメーカーのものが大半です。ここ3~4年はMXRというメーカーから新しいモデルが出ていて、個人的にはこれが一番使いやすく、ライブでもレコーディングでも活躍してくれています。


ーーMXRはどうなんですか? 最近のモデルとなると、やっぱり性能が大きく変わっているのかなと思ったんですが。


JUVENILE:BANSHEEはギター向きということもあってノイズが多いんですが、MXRはノイズが少なくて良いですね。あと、トークボックスの人って、ある程度のところまでいくと、みんな自作するんです。そのアンプとスピーカーを別々に調達して作っていくんですけど、いかんせんデカくて重くて。アンプもオーディオアンプを使ったりするとすごい重量になるんですよ。ただ、MXRはそこそこ重いけど、すごい楽なんです。


ーーなるほど。それって、見る/聴く側からしてもわかるものですか?


JUVENILE:いや、使っている人以外はほとんどわからないと思います。


ーー見た目的には、アンプの有無で足元の見た目とか動作が変わるくらいですよね。音に関してはどうですか?


JUVENILE:音の違いに直結するのは、意外とホースの太さと長さだったりしますね。基本的にホースが太くて短ければ短いほど、音が太いんですよ。で、細くて、長ければ長いほど痩せていって、フィルターがかかったような音になる。ローがどんどんなくなっていくというか。


ーーヘロヘロしてくるわけですね。


JUVENILE:そうなんですよ。で、単純に太くてデカイと口の中で邪魔なので、滑舌に影響するんですよ。細い方が滑舌が良くなりやすいんですけど、吹き口が細いので塞がりやすくて、唾でビチャビチャになって詰まったりしやすかったり、人によって合う合わないが違うんですよね。買ったときについてるホースをそのまま使ってる人が多いんですけど、そういう理由で変えている人も結構いますよ。


ーー本人の口の大きさとか、そういうところでも変わってくるんですね。面白い。あと、ボーカルを楽器にするとなると、トークボックスのほかにもヴォコーダーやオートチューンという選択肢もあるわけですが、その使い分けついても教えてもらえますか。


JUVENILE:なんだろう……感覚的な話になるんですけど「ここはローズ・ピアノじゃなくてアップライトピアノでしょ」みたいな感じで、「ここはヴォコーダーじゃなくてトークボックスでしょ」みたいな感じで使うんです。なのでヴォコーダーもオートチューンも使いますし、OOPARTZでもRYUICHIのボーカルにオートチューンをかけたり、歌の周りをヴォコーダーで作った和音で囲ったりするんです。iZotopeから出ているボーカルシンセもいいんですけど、プリセットに入ってるトークボックスは、再現度が低いというか、何か違うんですよね。


ーーホーンだったり、息だったり、ちょっと再現しづらいものが絡んでくるからですか?


JUVENILE:確かに。声を入力するにも、トークボックスの発音っていうのがあるんですよ。ボーカルシンセは普通に歌った声を変換するので、それが基準になっているから違和感を覚えるのかもしれません。


ーートークボックス用の発声?


JUVENILE:そうなんです。人間の耳ってすごいなと思うのは、結局ちょっと違う発音にしていてもそうだって認識できるんですよね。たとえば〈California Love~♪〉って歌うときも、そのままの発音だとフニャフニャしないんですよ。だから、空気を抜く感じで崩して口を動かした方がいいんです。発音をちょっとデフォルメするというか。


ーー面白いですね。それは使いこなしていないとわからないことだと思います。


JUVENILE:ヴォコーダーのようなものもあって、混同してしまうからあまりそこまで入ってくる人もいないし、理解者も少ないんですよね……。ライブでも、プロのPAさんから「どこに差せばいいんですか?」って聞かれたり、卓に入れようとしたりするので。口から出てマイクで拾う、ということ自体が認識されてなかったりするんですよ。


ーーだからこそ、ソフトウェア一発でポンと出るものとは全然違う音も出ますし、それぞれに適したセッティング、その人にしか出せない音もあるわけですよね。


JUVENILE:そうですね。どう作っているかシンプルでわかりやすいというのも、トークボックスならではの利点だし、良くも悪くも単一化してしまうヴォコーダーとの違いなのかもしれません。トークボックスを説明する時、「ここは声を使ってなくて、口パクしてるだけなんですよ」と言うと、「じゃあ全員、同じ音になるの?」と聞かれて「そうです」って答えちゃうんですけど、そうじゃないんですよね。骨格が違うし、設定も違うので。


■TikTokで人気「トークボックス講座」はなぜ始まった?


ーーそういうディティールがこれから少しでも知れ渡っていくといいですね。その意味で、TikTokで「トークボックス講座」として発信している動画が好評なのは、啓蒙活動の一部として大成功といえるのでは?


JUVENILE:自分では「これは果たして本当に新鮮に見えてるのか……?」と不安になっているんですけど、そうやって言っていただけて嬉しいです。若い子からすると何をやっているのかわからないところを面白がってもらっているのかもしれないですね。


ーーご自身ではそうやって新しいプラットフォームで動画を発信していくことについて、意識的に挑戦しているのでしょうか?


JUVENILE:そこまで意識的というわけではなく、新しいものが出てきたからとりあえずやってみる、という感じですね。やらないことには何もわからないじゃないですか。TikTokはランダムに出てくるからこそ、意図しない形で見つかって動画が見られたと思うので。だから、これからもとりあえず挑戦してみる、という気持ちは忘れないようにしたいですね。


(中村拓海)