フォルクスワーゲンは4月24日、ドイツ・ニュルブルクリンクにおける電気自動車のラップレコードを塗り替えるべく開発を進めてきた、フル電動レーシングカー『ID.R』をワールドプレミアした。
2018年のパイクスピーク・ヒルクライムで、元WRC王者セバスチャン・ローブとプジョースポールが保持していた従来レコードを約16秒も短縮してEV初の総合優勝を果たしたフォルクスワーゲン。
多岐にわたるブランドを傘下に収めるフォルクスワーゲングループの筆頭ブランドである同社は、モビリティ社会の転換期を迎えようとしている今、市販車のEV転換を推し進めており、その流れはレーシングプロジェクトにも波及している。
そうしたなかで生み出された『I.D. Rパイクスピーク』は前述のとおり、アメリカ・コロラド州のメジャーヒルクライムイベントで見事成功を収めたが、フォルクスワーゲンモータースポーツはさらなる挑戦の場として聖地ニュルブルクリンク北コース“ノルドシュライフェ”に注目した。
新たなプロジェクトは現在、中国の新興EVメーカーでフォーミュラEにも参戦しているNIOの『EP9』が記録した6分45秒90という電気自動車のレコードタイムを破り新たなラップレコード樹立を目指すもの。
この挑戦のためフォルクスワーゲンモータースポーツはパイクス優勝マシンであるI.D. Rパイクスピークにさらなる改良を加え、DRSなどF1のエアロ技術を応用しながらニュルブルクリンクに対応した空力デバイスの最適化をはじめ、EP9の約半分となる500kW(680馬力)を2モーターで発揮する電動パワートレインのチューニングなどが行われている。また、パーマネントAWDの駆動を路面に伝えるタイヤはミシュランからブリヂストン製にスイッチ。新たに330-40/18というサイズのポテンザレーシングタイヤが採用された。
1100kg以下の車重で0-100km/h加速を2.25秒、トップスピードは270km/hを記録するID.Rは今夏の挑戦に向けて、すでに開発テストがヨーロッパ各地のサーキットで実施されており、パイクスピークでも同マシンのステアリングを握ったロマン・デュマが引き続きドライブを担当。本番でもハイスペックEVを操る。
ニュルブルクリンク24時間レースで過去4度総合優勝を飾っているデュマの駆るID.Rは、25日にも本番の舞台となるノルドシュライフェで1回目の走行テストを開始する予定だが、これ以前からシミュレーターを使ったテストも行われてきたという。
「僕はすでにシミュレーターを使って『ID.R』でノルドシュライフェを何度もドライブしてきた」とデュマ。
「ID.Rが2018年と比べてどれだけ開発、改良されたきたか、その進化は(シミュレーターでも)印象的だ。しかし、信じられないほど速いコーナーリングスピードの本当の感覚は、実際のトラックでマシンに乗っているときにしか得られないんだ」
「だからニュルブルクリンク北コースで本物のID.Rを走らせるのが待ちきれないよ」
また、フォルクスワーゲンモータースポーツ・ディレクターのスヴェン・スミーツは今プロジェクトについて「ノルドシュライフェでの挑戦はID.Rの旅の次のステップであり、フォルクスワーゲンモータースポーツのすべてにおける電動駆動車の将来の重要性を象徴するものだ」と語った。