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『緊急取調室』がファンを獲得し続ける理由 ポイントは“密室の銃撃戦”と“安心感”にあり

2019年04月25日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 “密室の銃撃戦”とは言い得て妙である。『緊急取調室』(テレビ朝日系)で繰り広げられる様子はしばしばこのように表現されてきた。真壁有希子(天海祐希)をはじめとするチーム・キントリの刑事たちが対する毎話のゲストは、簡単に丸裸にできる人間たちではない。それぞれが秘密を抱えており、真壁たちの取り調べを巧みに切り抜けようとするのだ。思わぬ供述をすることでキントリの捜査に揺さぶりをかけようとすることだってある。互いに読み合いを重ねながら言葉の応酬を展開する様は、まさに銃撃戦さながらの緊迫感を伝える。


 そんな本作は今クールで三度目のシーズンに突入。そこで今回は放送開始から多くのファンを獲得し続ける『緊急取調室』の魅力を紐解いていこう。


参考:『昼顔』『オカムス』『緊急取調室』……脚本家・井上由美子が描き続ける女の情念 


●“密室の銃撃戦”が意味するもの


「事件は会議室で起きているんじゃない、現場で起きているんだ」


 これは『踊る大捜査線 THE MOVIE』の言わずと知れた名台詞である。刑事ドラマの中で描かれるシーンは実にさまざまで、何か事が起こる現場としての“外”のシーンもあれば、会議室という“内”のシーンもある。いずれの場所であれ、刑事たちの葛藤や奮闘はあるわけであり、だからこそそれぞれの場でドラマが生まれるのだ。そして『踊る大捜査線』のように時に“内側”と“外側”が対立することも起こりうる。


 言うまでもなく、取調室は会議室と同様に“内側”のフィールドである。しかし、『緊急取調室』で描かれるあの独特な取調室は、まるで今そこで“事件”が起こっている“現場”であるかのような錯覚を覚えさせる。もちろん殺人のケースで言えば、事件は起こり終えていることがほとんどであり、取調室で“起こっている”という表現は厳密に言えば適切ではない。しかし、真壁たちがまさに直面している取り調べという名の“銃撃戦”自体は、『緊急取調室』という作品における“事件”の一つと言い表すこともできよう。


 だからこそ、私たち視聴者は“今、何かがこの部屋で起ころうとしている”というハラハラを抱くことになるのだ。本作の中では、刑事である以上、真壁たち自身がどこかに足を運ぶこともある。だが『緊急取調室』の特徴はやはり、取調室という“内側”の舞台でありつつも、“外側”さながらのドラマを体感出来ることにあるだろう。それこそが、“密室の銃撃戦”と呼ばれる所以であり、『緊急取調室』の魅力の一つなのかもしれない。


 それと同時に取調室のすぐ隣では、残りの仲間たちがミラー越しに様子を窺っている。被疑者のプロフィールや手元の事件データに目をやりながら、あれこれ予測したり、今後のことを検討したりする姿からは、どこか“会議室”的な要素も感じられるものだ。一枚の壁を隔てた片側では“銃撃戦”があり、もう片方の側ではこうした参謀があるという独特な舞台が出来上がっている。


●“安心感”を届ける主要登場人物たち


 そして『緊急取調室』のもう一つの大きな魅力は、主人公の真壁有希子はもちろんのこと、彼女を囲む個性豊かな仲間たちの存在にもある。


 少々武骨なところのある梶山(田中哲司)。口は荒いがひょうきんな一面をよく見せる菱さん(でんでん)。知識豊富で皆が頼りにする春さん(小日向文世)。画像解析に長ける新入りの玉垣(塚地武雅)。“モツナベ”こと監物(鈴木浩介)と渡辺(速水もこみち)の捜査一課のコンビ。真壁たちに厳しく接することがあっても、力になってくれることもある磐城(大倉孝二)。そして、最大の功労者にして、今後もチーム・キントリにとって大切な存在であり続ける善さん(大杉漣)。皆、一癖、二癖ありながらも、一人一人が光るところを持ち合わせているのだ。新たなシーズンが始まるたびに、「キントリが帰ってきた!」という嬉しさとともに、どこか安心感のようなものを覚えるのは、きっとこうした魅力的なキャラクターの存在のおかげなのかもしれない。(國重駿平)