4月23日の『ガイアの夜明け』(テレビ東京)で放送された伊藤忠商事の特集に、賛否両論が巻き起こっている。番組では、2003年に同社に入社した3人の社員に密着した。
このうち、資源エネルギー部門に初の女性総合職として入社した女性(38)は、入社から16年を経て2児の母になった。サハリンの油田・天然ガスの採掘事業を担当し今もばりばり働いているが、課長との面談で管理部門への異動を提案されたのだ。
「明日出張に行けと言われても行けない」悩む女性に管理部門すすめる
女性は入社1年目から海外出張し、27歳でシンガポールに駐在員として赴任。同社初の女性石油トレーダーとして活躍していた。同じフロアで働く先輩男性社員と結婚し、2回の産休・育休を経て2年前に職場復帰している。
キャリア面談で課長から指摘されたのは、3年7か月に及ぶ産休・育休で生じたブランクだ。課長はブランクを「言ってみれば同期の中で遅れている」と表現する。
「職能部門(編注:経理や総務などの管理部門)は9時から5時で時間も読めて出張もない。働くお母さんには適しているみたいな考え方があって、そういう人が圧倒的に多い」
子育て前のように時間の自由が効かず「出張に明日すぐ行けと言われても行けない」働き方に歯がゆさを感じている女性に、課長は総務や経理などの部門への移動を提案していた。
ネットではこうした表現や異動提案に「時代錯誤だ」「肩たたき」と批判が挙がった。業務経験の浅い社員の伸びしろに期待して異動を提案するなら、まだ分かる。入社して16年、産休・育休以外は資源エネルギー部門で一貫してキャリアを積んできた女性を別部署に異動させるのはどうなのか、というのだ。
一方、「長期間休んでたなら周りから遅れてるのは当たり前」「育児のことも考えて残業や出張の少ない部署を提案してくれてる」と、課長の提案を会社なりの配慮として好意的に解釈する人もいる。「会社側の対応としてはむしろいい方だと思う」という声も出ていた。
「伊藤忠ですら産休育休はブランクと捉えるのか」失望の声も
伊藤忠商事も、子育て支援をしていない訳ではない。企業サイトによると2016年には、子育てや介護で通勤困難な社員向けに在宅勤務制度を整備した。男性の育休も2015年度から取得促進キャンペーンを行い、2017年度までの3年間で168人が取得している。世の中の数ある企業の中では、進んでいる部類に入るだろう。
しかしだからこそ、今回の放送内容には「伊藤忠商事ですら産休や育休をブランクと捉えるんだ」「働き方を選べるのは男性社員だけか」と残念がる人も少なくなかった。
番組で密着した他2人の社員はいずれも男性だった。水産部調達チームのリーダーになった男性は、同社の売上の中核を担う子会社コンビニチェーンとの大きな商談に向け、水産加工品の調査や試作をする様子が放送された。もう1人は、社長が期待をかけるITビジネス部署の一員として紹介されている。
歯科医院向け求人サイトを手がける企業への投資を、上司から「この会社を本当に経営して大きくしてく覚悟はあるのか」と問われる厳しい場面もあったが、どちらも子育てとキャリアの板挟みになっている様子は見られなかった。
子育てと仕事の両立に悩むのは、まだまだ女性のほうが多い。今回の議論は伊藤忠商事1社の問題としてではなく、社会全体の課題として捉える必要がありそうだ。