トップへ

有機酸「spray」、40mP「春に一番近い街」、halyosy「桜ノ雨」…“歌ってみた”で人気の春曲

2019年04月24日 12:41  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 日本におけるボカロの黎明期と言えるのは、初音ミクが誕生した2007年だろう。ボカロ文化は約12年を経て、来たる5月1日からの新元号「令和」へと受け継がれていく。平成最後の節目の春だからこそ、今回は平成に誕生した春を感じられるボカロ曲を3曲、紹介したい。これを機に、別れ/出会いにおける、切なさ/期待を歌った、ボカロ春曲を噛み締めた上で、令和に向かってみてはいかがだろうか。


(関連:ヒトリエ wowakaが音楽シーンにもたらした“発明” ロックをアップデートしてきた足跡を辿る


■有機酸「spray」


 2018年11月より、シンガーソングライターとしても活動する神山羊が、昨年3月にボカロP・有機酸名義で公開した「spray」は、春に生ずる憂う心情を歌ったミディアムバラード。タッグを組むイラストレーター、東洋医学による動画の淡い色彩も春をほのかに香わせる。様々な歌い手が「歌ってみた」動画を投稿しているが、中でも人気なのは歌い手・Souによる「spray」だ。


 彼は2013年から、【爽快に】と【感情を込めて】枠で「歌ってみた」の投稿を始め、「理Souを待っていた/眠りSouになっていた」(「spray」)のように、動画の説明文には“Sou”に置き換えられる歌詞の一部を掲載してきた。【感情を込めて】枠で公開した「spray」では、サビ前にブレスを入れることで、曲のムードをそのままに活かしているが、特筆すべきは、大サビ直前にある〈「もう帰れない」〉を呟くように歌うことで、リアルな空気感を作り出している点だろう。


■40mP「春に一番近い街」


 「からくりピエロ」、「恋愛裁判」を中心とした物語性のある楽曲群で知られるボカロP・40mP(よんじゅうメートルぴー)が初の実写PVとして2012年3月に投稿した「春に一番近い街」。シンプルなピアノとギターの構成で、王道のJ-POPのような印象を受ける上に、〈嫌いなことひとつ探すより/好きなことを100個見つけよう〉、〈嫌いな人のこと嘆くより/好きな人をひとり守りたい〉といったポジティブなフレーズを用いることで、春に訪れる期待感を高めていく。数々の「歌ってみた」のなかでも、とりわけ注目したいのは、伊東歌詞太郎によるものだ。


 2012年から歌い手活動を始め、2018年には初の小説『家庭教室』を出版するなど、いまでは小説家としての顔も持つシンガーソングライター。伊東歌詞太郎の歌う「春に一番近い街」ではピアノ、ギターの旋律上を彼の透明感のある歌声が、心のゆくままにはつらつと駆けていくことで、春に対する期待が掻き立てられるようだ。


■halyosy「桜ノ雨」


 2007年に「メルト」の歌ってみたを投稿し、後に続く「ボカロ曲を歌ってみた」の流れを作り出した先駆者ともいえる歌い手かつボカロPのhalyosyが、2012年に公開したオリジナル曲「桜ノ雨」。卒業ソングに相応しい合唱曲で、〈教室の窓から桜ノ雨〉と、舞い込んでくる桜の‟花弁”を‟雨”とした比喩表現は実に見事だ。3人の演奏姿を映したhalyosy本人歌唱の動画も人気だが、歌い手・Souと、現在9人組の男性アイドルグループ・めせもあ。で活動する、あおいによる「桜ノ雨」の歌ってみたにも注目したい。


 キャラクターとして登場する高校生のSouとあおい、さらに高校を舞台とした卒業を彷彿とさせる春らしいアニメーションが、情感溢れるリリックと相まって、原曲以上に春を感じさせる作品に。各々のソロパートで構成されたしめやかな前半から徐々に盛り上がり、大サビでの二重唱は、まるで卒業式で本当に2人が歌っているかのようである。


 春をテーマとしたボカロ曲は紹介した作品以外にもある。このように「歌ってみた」の二次創作で原曲に風情を足すような作品が、令和の春にも誕生することを楽しみにしたい。(小町碧音)