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アーティスト主催フェス、根強い人気の理由は? 独自性を最大限に引き上げる二つの特徴

2019年04月23日 14:41  リアルサウンド

リアルサウンド

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 今となっては年間に100以上開催されていると言われるロックフェス。100以上あるということは、当然ながらその数だけフェスに特色がある。その特色を分類する切り口の一つとして、主催はどこが(あるいは誰が)行なっているのか、というものがある。


(関連:04 Limited Sazabys、“4回目”の『YON FES』で遂げた野外フェスとしての成熟


 例えば、4大フェスのひとつとしてその名を馳せている『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』(RIJF)は、企画制作をロッキング・オン・ジャパンが行なっている。『RISING SUN ROCK FESTIVAL』(RSR)は北海道のイベント制作会社であるWESSが行なっている。このような企業が主催を行なっているフェスに対して、アーティストやバンドが主催をするフェスも近年数多く存在する。


 アーティスト主催フェスの代表として挙げられるのは、10-FEETが主催を行う『京都大作戦』や、Hi-STANDARDが主催を行う『AIR JAM』である。また、04 Limited Sazabysが主催を行う『YON FES』のように比較的近年に開催されるようになったアーティスト主催フェスもあるし、ACIDMAN主催で2017年に開催された『SAITAMA ROCK FESTIVAL “SAI”』のように単発で開催されたアーティスト主催フェスもある。この記事では、RIJFやRSRのような企業が主催しているフェスと、アーティスト主催のフェスと比較したとき、アーティスト主催フェスはリスナーにどのように支持されて、参加者を魅了しているのかを考えてみたい。


 さて、様々なフェスが勃興した2019年の今、ほとんどのフェスでは何かしらのコンセプトが敷かれることが多い。“こういうコンセプトを持ってアーティストをブッキングしている”、“このフェスにはこのような成り立ちがある”、“こういう想いをもって開催している”といった、そういった類のものである。これにより、ただ単に色んなアーティストやバンドの音楽が聴けるということ以外の、そのフェスに参加する「意味」を作り、フェスの物語を明確にすることで、そのフェスに付加価値を付ける。


 『SUMMER SONIC』や『FUJI ROCK FESTIVAL』のように海外アーティストを招聘するフェスならともかく、日本のアーティストやバンドのみで万単位を集客しようと考えると、どうしても似たようなアーティストやバンドのブッキングが生まれやすい実情があり、コモディティ化してしまう。そのような状況を打破するためにも、出演者以外の要素で、他フェスとの違いや魅力を鮮明に打ち出す必要がある。そこで重要になるのが、フェスのコンセプトや物語性の部分である。そして、フェスの物語性を強くし、その強さに共鳴しやすくなるのが、アーティスト主催のフェスの特徴なのである。


 アーティスト主催フェスにおいて、アーティストがどの程度そのフェスに関わっているのかはそれぞれ違いがあるとは思うが、基本的に観客側はアーティスト主催フェスでは、そのアーティストの想いが詰め込まれており、出演者も主催アーティストの熱烈なオファーにより実現した、という想定でそのフェスのラインナップに思いを巡らせる。つまり、アーティスト主催であるだけで、そこに文脈を見出し、物語性を見つける。その主催アーティストのファンであればあるほど、その傾向は強くなる。


 そして実際、大好きだったバンド、あるいは尊敬されているバンドの主催フェスに呼ばれた出演者は、往々にして、普段のフェスにはない熱さを持ってライブに挑むことが多いように見えるし、他のライブでは見られないような、感動的なMCをすることも多い。普段のライブとは違う何かを感じ取るようなライブをした場合、ファンの間でそれを「伝説」と呼ぶようになり、語り継がれるようになる。SNSの発展により、ファン同士の「伝説のライブ」の共有はより強固なものとなる。アーティスト主催フェスが人気なのは、このような他のフェスでは体験できない「伝説」に立ち会えるのではないかと、ファンの多くが期待するからである。これはある意味、ファン目線による「贔屓目な眼差しの延長」とも捉えられるが、いずれにせよ、そのフェスならではの物語性が強まることは間違いなく、普段とは違うライブを観ることができる可能性が高くなるという期待が主催フェスでは上昇するからこそ、アーティスト主催フェスは音楽ファンの間で根強い人気を獲得するのだ。


 また、アーティスト主催フェスは地域のお祭り的な立ち位置を強くすることも多い。例えば、京都大作戦は主催バンドである10-FEETの地元である京都で開催されている。毎年、決まって京都で開催されるからこそ、単に10-FEETが主催したイベントという以上に、京都の夏の風物詩という雰囲気が生まれており、実際、開催地である宇治の街も一緒になって、京都大作戦を盛り上げている。また、チャットモンチーが主催となり、徳島で開催したこなそんフェスでは、徳島の風物詩である阿波踊りを踊る時間が設けられていたり、徳島ならではのフードメニューが用意されたりすることで、徳島に遊びにきたような気持ちになる工夫が凝らされ、そのフェスの地域性を強めていた。また、アーティストの出身地で開催されるという物語性も相まって“聖地巡礼”的な意味合いを帯びることもあり、物語性と地域性が揃うことでそのフェスの特色が強められるのだ。


 物語性と地域性。この二つの要素を最大限に引き上げるのがアーティスト・バンド主催フェスの特徴であり、これが一般的なフェスとの大きな差となる。もちろん、主催バンドのアーティストパワーが強く、単純にそのバンドが人気だからこそ集客力が強くなるという事実はあるかもしれないが、様々なフェスが勃興している中で、リスナーが求めているのは「そのフェスじゃないと体感できないもの」であることは間違いない。そして、リスナーの多くがフェス特有の物語性に強い魅力を感じている今、アーティストがフェスを主催するというその事実だけでも、すでに他のフェスにはない大きな魅力として映るのである。(ロッキン・ライフの中の人)