2019年シーズンのトロロッソ・ホンダは開幕からの2戦で連続入賞を果たしポテンシャルを感じさせながらも、一方でクリーンな週末を送ることができず、そのポテンシャルを最大限に発揮できていなかった。
第3戦中国GPはそんなトロロッソ・ホンダをさらに強く象徴するようなレースになってしまった。
まずは金曜フリー走行1回目を終えた時点でダニール・クビアト車のパワーユニット(PU/エンジン)にデータ異常が見つかり、PUを丸ごと交換をすることになった。フリー走行2回目の前半45分を失ったのは痛かったが、それでも「FP2を走り始めたところで異常が見つかっていればセッションを失っていた」(ホンダ・田辺豊治F1テクニカルディレクター)というから、まだ救いはあった。
実際に金曜のロングランペースでは、燃料搭載量の違いもあるとはいえトロロッソはメルセデスAMGに次ぐ速さを見せており、デグラデーションの度合いも良好だった。つまり上位グリッドからスタートできれば中団グループの上位を争うことは充分にできそうだった。
だが、さらなる問題がトロロッソを襲った。土曜の予選直前のフリー走行3回目でアレクサンダー・アルボンが激しいクラッシュしてしまったのだ。
アルボンは、マシンがナーバスになる最終コーナーの立ち上がりで限界点を探ろうとボトムスピードを高く保って抜けた先で、人工芝に足を取られてリヤが振られ、カウンターを当てたところ逆にスナップしてさらにカウンター、スナップとマシンは制御不能に陥ってスピン状態でコース外に飛び出し、斜め後方からタイヤバリアに突き刺さって左側のサスペンション、ギヤボックス、フロアが大きく破損した。
「このサーキットではタイムを稼げるのがあの最終コーナーなんだ。あそこの出口は少しワイドになっても大丈夫だから、コーナーの進入速度を少し高めにして飛び込んでいったんだ。実際にFP3のその前のランでもFP2でも同じように走っていたから、そのライン自体は問題なかったはずだけど、人工芝の上で少しスロットルを開けすぎたんだと思う。そこで1回スナップする(リヤが振られる)のは普通のことだけど、カウンターステアを当てたら違った方向にスナップしてしまって、一度そうなってしまったらあとはただの乗客で流されるままだ」(アルボン)
これで側面のクラッシャブルストラクチャーが破損していたためモノコック交換を余儀なくされ、この時点でレギュレーションにより予選出場はできなくなった。いずれにしてもわずか2時間でスペアモノコックからレースカーを組み上げられるような状況ではなく、トロロッソのメカニックたちは日曜の昼まで掛かってマシンを修復し、車検を受けて出走許可を得ることができたのは決勝1時間半前の12時33分だった。
パワーユニットは外観上は排気管が潰れた以外は大きなダメージがなかったように見えたが、ギヤボックスやカウルに掛かった入力エネルギーの大きさを考えるとそのまま使用するにはリスクが大きすぎたため、決勝に向けてこちらも全交換となった。
「一見してパワーユニット側に問題がなさそうでもやはり再使用は難しくなります。不必要な方向から過大な力が入っていることは確かなわけですからね。今回のようにマシンの片側全部をもっていかれるような力が入ったものは、そこでリスクを取ってでも使い続けるかどうかとうのはなかなか判断が難しいところですが、リヤエンドに横から力が入っていてエキゾーストパイプ(排気管)も潰れていましたし、新品に交換することにしました。見た目上はクラックも入っていないしエンジン本体系、(電気回生)ユニット系、全て使えるかどうかをHRD Sakuraに持ち帰ってチェックします」(田辺テクニカルディレクター)
■予選では11番手と上々の結果を残したダニール・クビアト
フリー走行3回目でクラッシュしたとはいえ、すでにアルボンは9番手タイムを記録しており、Q3に進めるという自信を持っていた。それだけに悔しさは大きかったようだが、アルボンの持ち前の前向きさですぐに決勝に向けて気持ちを切り替えていた。ロングランペースにはもっと自信があったからだ。
「FP3では良いペースで走れていただけにあのクラッシュは残念だよ。僕らにはQ3へ進むだけの速さがあったと思う。終わったことを悔やんでも仕方がないし、この経験から学んで明日に向けて気持ちを切り替えるしかないよ。学んで成長していくことこそが大切だからね」(アルボン)
クビアトは予選Q2最後のアタックでターン11で僅かにミスを犯して0.022秒差でQ3進出を逃した。しかしソフトタイヤのデグラデーションが大きく上位勢がミディアムをスタートタイヤに選んだように、下手にQ3に進んでソフトでスタートするくらいならミディアムを選べる11番グリッドの方がむしろ利点がありそうだった。
「クルマは良くなってきているし、今年ここまでの予選の中で一番の出来だった。良い方向に進んでいるのは確かだし、これからもっと上げていければ良いね」とは言うものの、クビアトは金曜からやや苛立ちを含んだような表情を見せていた。
それが影響したのかどうかは定かでないが、決勝ではスタート直後の混乱の中でマクラーレンの2台と接触してドライブスルーペナルティを科され後退。フロントウイングとフロアにダメージを負っており、クビアトのレースは実質的に1周目で終わってしまったようなものだった。
「よくある1周目のアクシデントだよ。1台のクルマ(ランド・ノリス)がコースの外側から戻ってきて、もう1台のクルマ(カルロス・サインツJr.)は僕に充分なスペースを残さずに僕をサンドイッチにしてきて接触した結果、連鎖反応のように僕ともう1台のクルマ(ノリス)が接触したんだ。僕は後ろから追突されただけで何も見えていなかったのにドライブスルーペナルティを受けた理由が分からないね」(クビアト)
レース後にスチュワードのところに行き長々と話し合ったクビアトだが、最後までその裁定には納得がいかなかったという。
ターン6の立ち上がりではみ出してアグレッシブにコースへ戻ってきたノリスと僅かに接触したサインツと、立ち上がりでワイドに膨らんでいったクビアトのラインが交錯し接触。それによって弾き飛ばされたクビアトがノリスのマシンにぶつかった。1周目の混雑の中だけにレーシングアクシデントと判断されてもおかしくない状況だったが、スチュワードはクビアトのライン変更がサインツの行き場を奪ったと判断した。
いずれにしても不必要なライン変更と接触であり、入賞のチャンスがあったレースをフイにしたことに変わりはない。1年ぶりの現役復帰以来、冷静な走りを続けてきたクビアトだったが、この中国GPの週末は金曜のトラブルからやや落ち着きをなくしてしまっていたように見えた。
■ピットスタートから1ストップ作戦を成功させたアレクサンダー・アルボン
逆にピットレーンスタートのアルボンはソフトタイヤでスタートしながらもクリーンエアゆえに持ち前のロングランペースの良さを遺憾なく発揮し、プランAの2ストップ作戦から1ストップ作戦に切り替えて最後までタイヤを保たせる戦略を遂行して10位で1ポイントを獲得してみせた。
最後はタイヤがかなり厳しかったというが、この入賞でチームからは高い評価を受けることになった。アルボンはファン投票によるドライバーオブザレースにも選出された。
「前のクルマに付いていこうとするとすぐにタイヤがオーバーヒートしてしまうから難しかったね。僕もオプションタイヤには苦しんでいたけど、プライムに換えてからはマシン自体は感触が良くて気持ち良く走れていた。最後の数周は辛くなったけど良い結果が残せて良かった。ポイントを取るには難しいレースになると思っていたけど、FP2のペースから考えて不可能ではないと思っていたし、このような結果になって嬉しい。土曜日はワーストドライバーオブザデイだったと思うけど(苦笑)、日曜日はベストドライバーになれて良かったよ!(笑)」(アルボン)
フランツ・トスト代表もアルボンの活躍にはご満悦だった。
「1ストップ作戦でタイヤを労って走らなければならなかったにも関わらず、何台ものマシンをオーバーテイクしたんだからね。彼のレースには非常に満足だよ。バーレーンでもすでに才能を見せて2ポイントを獲得してくれたけど、ものすごく急激な上り坂を描いているね。一気に空まで突き抜けそうな勢いだよ!」(トスト代表)
しかし同時に、またしてもクリーンな週末を送ることができなかったという課題もしっかりと認識していた。
特に上海ではトロロッソSTR14は高いポテンシャルを持っていた。もし何事もミスなくスムーズな週末を過ごしていたなら、トロロッソ・ホンダの2台はもっと上のポジションでダブル入賞を果たしていたはずだ。
「今週末の我々のクルマは仕上がりが非常に良かったんだ。ドライバーの能力を勘案しても、何もなければ間違いなく10位よりも上のポジションでフィニッシュできていたはずだ。全てがクリーンにいけば今週末は少なくとも確実に8位にはなれたと思うよ。今、我々に必要なのはクリーンな週末だ。この流れが変わることを願っているよ」(トスト代表)
トロロッソ・ホンダが秘めた高いポテンシャルを、次こそ結果というかたちで見せてくれることを願いたい。