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『愛がなんだ』成田凌が憎むに憎めないーー自然体で体現する人間のサガ

2019年04月23日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 成田凌ラッシュが止まらないーーそう感じている方は少なくないだろう。彼の出演作が続々と公開される中、その最新作『愛がなんだ』が封切られたが、ここには、現在の成田の集大成が収められている印象だ。


 成田のキャリアのスタートは、男性誌『MEN’S NON-NO』(集英社)のモデルである。現在も、同誌を手に取りページを捲れば、さまざまな出で立ちで、いくつもの表情を見せる成田の姿をみとめることができる。そんな中で並行して、アクティブな俳優活動も展開させているのだ。


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 彼が俳優をはじめたのは、モデル業を開始してすぐのこと。ドラマ『FLASHBACK』(2014/フジテレビ系)にて主役のひとりに抜擢されると、『学校のカイダン』(2015/日本テレビ系)、『She』(2015/フジテレビ系)、『ブスと野獣』(2015/フジテレビ系)など、注目の若手俳優が名を連ねる作品に立て続けに起用されてきた。端正な容姿を活かしたキャラクターを演じる一方で、2016年にはアニメ『君の名は。』で声だけの芝居にも挑戦し、その表現力の高さを証明。社会現象を巻き起こした本作の、愛すべき共犯者ともなったのだ。


 そして、2017年には人気シリーズ『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(2017/フジテレビ系)に顔を見せ、『わろてんか』(2017-2018/NHK)で朝ドラへの出演も果たした。こうしてたちまち、数多くいる若手俳優の中でも一目を置かれる存在となった成田だが、昨年からはさらに勢いを増している。夏には『コード・ブルー』の劇場版が公開され、秋には『ここは退屈迎えに来て』『ビブリア古書堂の事件手帖』『スマホを落としただけなのに』と、彼がメインキャストとして参加した作品が一挙公開。“右を見ても左を見ても成田凌がいる”、まさにそんな状態であったのだ。


 さて、これだけ幅広いラインナップの作品を網羅している方ならば、成田の演者としての適応力の高さを十分に理解されていることだろう。しかしそんな中でも、ことにハマリ役の印象が強いのが、憎らしいキャラクターの数々である。先述した、昨年秋公開の3作もまさにそうだ。だがもちろん、それらは一辺倒なものではなく、系統の近いキャラクターであっても、微妙な差異で成田は魅せる。


 この手のキャラクターを演じたもので言えば、今年はすでに『チワワちゃん』が公開。注目の若手俳優陣が共演を果たした本作で、成田は屈指のプレイボーイに扮し、狂宴の一端を担った。憎らしい人物ではあるが、思慮の浅い若者ゆえの人間らしい一面も垣間見せ、そこに共感し、どうにも彼の存在を否定できないという方もいたのではないだろうか。


 そんな成田が挑んだ最新作『愛がなんだ』では、憎むに憎めない青年を好演。“クズ”を全面に押し出したあからさまなものではなく、たびたび無垢な愛嬌も見せる。それを彼はごく控えめに、さらりと自然体で体現しているのだ。そこにはまるで、“キャッチ・アンド・リリース的才能”とも呼べるものを感じる。つまり、惹きつけて、突き放す、というものである。これは彼が演じる人物が、ヒロイン(岸井ゆきの)に対して取る態度と通ずるが、そこで私たちもまた翻弄されているのだ。


 本作には、成田がこれまで演じてきた愛嬌たっぷりの好青年や、無自覚に他人を傷つける若者、ヒール役の振り切れた性格など、それらが大なり小なり、そこかしこに見受けられる。出演してきた作品すべてを代表作と呼べるものにしてきた印象の成田だが、彼のキャリアを追っていく上で、この『愛がなんだ』は重要な一作と言えそうだ。


(折田侑駿)