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高橋一生、歌手として見せるのは情熱な一面? エレカシ宮本浩次提供『東京独身男子』主題歌を考察

2019年04月23日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 “あえて結婚しない男子(AK男子)”を主人公にした土曜ナイトドラマ『東京独身男子』(テレビ朝日系)。主題歌「きみに会いたい-Dance with you-」を歌うのは主演の高橋一生だ。楽曲提供とプロデュースは、かねてから高橋が敬愛するというエレファントカシマシの宮本浩次が担当している。


 東京スカパラダイスオーケストラとのコラボによるエレファントカシマシ「俺たちの明日」カバーなど、これまでにも高橋一生が歌声を披露する機会はあったが、ソロ名義でのオリジナル曲リリースは今回が初めて。やや低めのトーンながら、抑制を効かせすぎない熱量高めのボーカルで独身男子の胸の内を歌い上げている。


 子役時代から数多くのドラマ、映画、舞台に出演してきた高橋一生だが、意外にも音楽との接点は多い。公式プロフィールでは特技にギターを挙げており、キリン『氷結』のCMで東京スカパラダイスオーケストラ、浜野謙太とブルースハープで共演。坂元裕二の脚本によるドラマ『カルテット』(TBS系)で、椎名林檎の作詞作曲による主題歌「おとなの掟」を松たか子、満島ひかり、松田龍平とのドラマ限定ユニットDoughnuts Holeで披露したことは記憶に新しい。


 俳優としての自身のポリシーを「役作りをしない」ことと語る高橋一生(引用:高橋一生の存在感が高まっている理由 名バイプレイヤーの“役作りしない演技”から探る)。求められる役柄に応じてほどよく画面に自身を溶け込ませるその演技は、役者としての経験と感性に裏打ちされている。スポンテニアスなその所作は、ここぞという場面で絶妙な存在感を発揮する。


 『カルテット』第1話で共同生活をはじめた4人が最初に食事をするシーン。有名になった、唐揚げにレモンをかけるべきかに関する論争の口火を切るのは、高橋一生演じる家森諭高だった。登場人物のキャラクターとその後の展開が暗示されるイントロダクションで、なかばモノローグのような高橋のセリフが4人の会話のテンポを形づくる。あるいはドラマ『民王』(テレビ朝日系)での貝原茂平。ひょうひょうとした雰囲気を身にまといつつ、クールな切り返しと煙幕的な立ち回りで主役に迫る人気キャラとなった。


 準主演、あるいはバイプレイヤー的な立ち位置から、ときに作品全体のトーンを決定づけ、絶妙な間合いで共演者とのケミストリーを生み出す高橋一生の演技には、バンドアンサンブルにも通じる独特のリズムがあると言っていいだろう。


 宮本浩次はシンガー・高橋一生を「竹を割ったような性格の大変男らしい」、「全力の人」と評している(引用:番組オフィシャルサイト)。「俺たちの明日」で本家・エレカシにも劣らない力強い熱唱を聴かせていたように、あえて技巧に走らない、ストレートな思いきりのよさがシンガー・高橋一生の身上だ。


 「きみに会いたい-Dance with you-」でも大人の色気を醸し出しながらフルスウィングなスタイルを貫いている。バックで支えるのは屋敷豪太(Dr)、根岸孝旨(Ba)、名越由貴夫(Gt)など名うてのミュージシャンたち。演技では良い意味で色を出さない高橋一生が、歌ではエモーショナルに自分のカラーを打ち出しているのが興味深い。自在に役柄を演じ分ける男が“素”の自分をさらけ出せるのが音楽なのかもしれない。


 高橋自身の音楽性について言えば、前述のエレファントカシマシのほか、THE BOOMの「からたち野道」をテレビ番組で披露するなど、オーセンティックで懐の深いメロディに魅かれる傾向が見て取れる。


 ブルースハープという、年齢の割に“渋い”特技も地に足のついた一面を感じさせる。そういえば、東京都出身の高橋一生は、地図好きタレントとしてテレビ番組『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)にも何度か出演している。クールな塩顔男子の陰には、古き良きものをいつくしむ素顔が隠れているのだ。


 「きみに会いたい-Dance with you-」のレコーディングをふり返って、高橋は「多くの方達が関わって皆さんがそれぞれの分野で力を尽くして共に作品を作っていることを感じました。そこは僕がいつもお仕事をさせて頂いている現場の情熱と変わらないと思いました」と語っている(引用:番組オフィシャルサイト)。俳優としての姿勢とシンガーとしてのスタンスには共通する部分も多いが、“料理とギターが得意な38歳”という等身大のキャラクターを演じる『東京独身男子』で、両者はかつてないほど接近している。


 『東京独身男子』第1話で高橋が演じる石橋太郎は「こんな痛い思いをするくらいなら、次につきあう人と結婚する。それがダメなら一生結婚しない」と宣言する。余裕の独身ライフを送っていた主人公が、とあるきっかけから結婚に本気になる心境は、主題歌の行間に滲み出る高橋自身の素顔からもそう遠くはないだろう。


 長い下積みを経て俳優としての充実期を過ごしている高橋一生。歌手デビューを機に本来の持ち味が発揮される機会が増えそうだ。(文=石河コウヘイ)