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クリムト展が上野・東京都美術館で開幕。日本初公開作や壁画の再現展示も

2019年04月22日 20:20  CINRA.NET

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グスタフ・クリムトによる壁画『ベートーヴェン・フリーズ』の再現展示
■油彩画25点以上が集う、東京では約30年ぶりの大規模展

煌びやかな装飾性と官能性をあわせ持つ作品群によって、没後100年を迎えた現在もなお世界中で愛される画家グスタフ・クリムト。その作品をまとめて見ることのできる大規模な展覧会『クリムト展 ウィーンと日本 1900』が、4月23日から東京・上野の東京都美術館で開催される。

本展ではウィーンのベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館の所蔵作品を中心に、代表作『ユディトI』や初来日となる『女の三世代』など、日本では過去最多となる油彩画25点以上が紹介される。東京では約30年ぶりの大規模展だという。またウィーンの分離派会館の壁画の再現展示や、同時代にウィーンで活動した画家たちの作品、クリムトが影響を受けた日本の美術品なども展覧する。

開幕に先駆けて行なわれた内覧会の様子をレポートする。

■「芸術家カンパニー」で手掛けた劇場装飾

会場は8つのパートで構成される。初期の自然主義的な作品から、金箔を多用した「黄金様式」の時代の代表作、官能的な女性像や風景画など、クリムトの画業の変遷を辿ることのできる内容だ。

第1章はクリムトの家族や出自に関係する展示から出発。若き日のクリムトや兄弟、親友フランツ・マッチュの肖像写真、マッチュが描いたクリムトの姉と妹の肖像画などが並ぶ。

またクリムトと同じウィーンの工芸美術学校で金属彫刻を学んだ弟ゲオルグ・クリムトが手掛けたレリーフも展示される。ゲオルグは金工師として活動したほか、クリムトのデザインをもとに、彼の主要作品の額縁の装飾も多く任されたという。

続く第2章では14歳から工芸美術学校で学んだクリムトの初期の作品に加え、クリムトが弟のエルンスト、友人フランツ・マッチュと共に結成した「芸術家カンパニー」の仕事を紹介する。

「芸術家カンパニー」は依頼を受けて劇場の大規模な天井画や緞帳を数多く制作した。代表作はブルク劇場の階段吹き抜けの天井画など。本展ではブルク劇場天井画のための下絵や、ウィーン美術史美術館の壁画のための下絵なども展示されている。

■日本美術からの影響も。美人画を思わせる作品や、日本風の花のモチーフ

クリムトの「私生活」に焦点を当てる第3章では、クリムトと関わりのあった様々な女性たちを写真や絵画、クリムトが実際にしたためた書簡などから紹介。さらに展覧会タイトルにもなっている「ウィーンと日本 1900」の章では、クリムト作品に見られる日本美術からの影響に迫る。

『17歳のエミーリエ・フレーゲの肖像』の額縁には、クリムト自身の手によって日本風の花のモチーフが描かれている。また浮世絵の美人画を思わせる縦長の油彩画『女ともだちI(姉妹たち)』、カラフルな布団の山に埋もれた赤ん坊がダイナミックな構図で描かれた『赤子(ゆりかご)』といった作品もこの章で鑑賞することができる。

■「黄金様式」の幕開けを飾る『ユディトI』。「クリムトをクリムトたらしめている要素が詰まった作品」

1階の展示室に上がると、本展の目玉とも言える作品が集結する第5章「ウィーン分離派」だ。

まず出迎えてくれるのがクリムトの代表作の1つ『ユディトI』。内覧会に参加したベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館の学芸員マークス・フェリンガーは「この作品には今日知られている、クリムトを有名な画家にしている全ての要素が入っている」と語る。

『ユディトI』はクリムトが初めて金箔を使った1901年の絵画作品、つまり「黄金様式」の時代の幕開けを飾る作品だ。華やかな衣装から裸身をのぞかせる女性像のエロス、生身の身体を彩る装飾品、様式化された構図など、「クリムトをクリムトたらしめている要素が詰まっている」作品だという。

そして『ユディトI』の隣の壁面には、こちらも女性の裸体を正面から描いた縦長の作品『ヌーダ・ヴェリタス(裸の真実)』が展示されている。同作は1897年のウィーン分離派結成の直前に構想された。

■ウィーン分離派会館の地下にある壁画を再現。3つの壁面で黄金の騎士の物語が展開

本展のもう1つの目玉が、クリムトが手掛けた全長34メートルにおよぶ壁画『ベートーヴェン・フリーズ』の精巧な原寸大複製展示だ。クリムトが40歳の時に『第14回ウィーン分離派展』の壁画として制作した本作は、クリムトの「黄金様式」の時代を代表する作品で、現在は分離派会館の地下に展示されている。

ベートーヴェンの交響曲第9番に着想を得たこの壁画は、3つの壁面で絵巻物のように物語が展開している。描かれるのは、黄金の騎士が幸福を求めて敵に向かい、楽園に辿り着くまでの旅路だ。マークス・フェリンガー学芸員は「この騎士はもう1人のクリムト」と捉えることができると説明している。

■裸婦像の習作や女性の肖像画、風景画も並ぶ

さらに展覧会は第6章「風景画」、第7章「肖像画」と続く。

「風景画」の章では、学生時代に手掛けた3点の小品を除いて1898年まで1点も風景画を描いていなかったというクリムトの最初期の風景画『雨後(鶏のいるザンクト・アガータの庭)』や、異色のモチーフである小屋の中の雌牛を描いた『家畜小屋の雌牛』などの作品が紹介される。

常に女性に囲まれていたクリムトは、男性よりも女性の肖像画を多く残した。「肖像画」の章では同時代の作家が描いた女性像に加え、黄色の背景が強い印象を放つ『オイゲニア・プリマフェージの肖像』や、裸婦像の習作などを展示する。

■クリムトの大きなテーマであった「生命の円環」。大型絵画『女の三世代』が日本初公開

展覧会を締めくくる最終章「生命の円環」はクリムトにとって大きなテーマであった。クリムトは父と弟の死や、生後間もない息子の死といった悲劇を経験し、生命や老い、死といった主題を取り上げた。

日本初公開となる『女の三世代』は、縦横約1.7メートルの大型絵画作品で、「生命の円環」というテーマを直接的に扱っている。安らかに眠る赤ん坊と、赤ん坊を胸に抱く若い裸の女性、そしてうなだれている年老いた女性という3世代の女性を描いた。

なお本展の音声ガイドにはゲストナレーターとして稲垣吾郎が参加。稲垣は展覧会のスペシャルサポーターを務めている。音声ガイドではベートーヴェンやドビュッシーなどの音楽をBGMに、稲垣の作品解説を楽しむことができる。

クリムトの初期作品から日本美術の影響、黄金時代の作品群、晩年の作品までを包括的に紹介する本展。その画業を辿りながら、多彩な作品の中に反映した作家自身の人生に思いを馳せることのできる特別な展示空間になっている。『クリムト展 ウィーンと日本 1900』は7月10日まで東京・上野の東京都美術館で開催される。