2019年からスタートする女性のみで争われるフォーミュラ選手権『Wシリーズ』のオーディションを勝ち抜き、レギュラーシートを掴み取った小山美姫。シリーズに唯一の日本人ドライバーとして挑む彼女に、参戦への思いを聞いた。
DTMドイツ・ツーリングカー選手権のサポートレースとして開催されるWシリーズは、元F1ドライバーのデイビッド・クルサードや、レッドブル・レーシングのチーフテクニカルオフィサーであるエイドリアン・ニューウェイといった著名なF1関係者がサポートするもの。タトゥースF3シャシーのワンメイクで争われ、シリーズには2度のオーディションを勝ち抜いた18名の女性ドライバーが参戦する。
FIA-F4などで活躍してきた小山は、このオーディションを突破してレギュラーシートを確保。5月の開幕戦に向けて、ドイツ・ラウジッツリンクで3日間に渡って行われた合同テストにも参加している。そんな彼女に現在の心境、Wシリーズに挑む理由を聞いた。
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――開幕前のテストに参加するまでに、さまざまなな試練があったと思いますが、その過程を聞かせてください。
小山美姫(以下、小山):一回目の選考ではプレゼンテーションやチーム力等、運転技術面以外の点でも多く審査されていたので、ドライブだけに集中することはできませんでした。
特にプレゼンテーションのテストでは、話す内容や構成の重要さを事前に知らされてはいたのですが、英語で話すこと自体に必死だったので、語学力が私にとって一番の大きな課題だったと思います。自分の意思をはっきりと伝えるというプレゼン能力が劣っていては、例え速く走れたとしてもダメなんじゃないかと思っていました。
二次選考はアルメニアで行われましたが、コースが非常に狭く、風が強くて砂が舞っていて、とても走りにくいサーキット。グラベルの方が広いという変わったレイアウトで、まるで二輪用のコースでした。
私たちが乗るタトゥースのF3マシンはシートポジションを取るのが難しく、ステアリングも近すぎました。スピードが出てGが乗るとドライブしづらくて2番手や3番手まで順位を落としていましたが、最終日はトップで終えることができてよかったと思います。
――語学はどのように身に着けたのでしょう?
小山:15、16歳の頃、フィリピンに語学留学をしましたが、会話力はまだまだだと思います。いかに自分の思いを英語で伝えるかということが重要となるプレゼンテーションのテストでは、事前に日本で多くの方に助けて頂いて準備しましたね。
英会話と筆記はまだ苦手ですが、リスニングは以前からまったく問題なく理解できています。これは私の強みでもあり、(ほかの参加者と比べて)英語という部分では劣っていたかもしれませんが、なんとか自分の言葉で思いを一生懸命伝えられたこともあり、第一選考を1番で通過しました。
――F4(FIA-F4)からステップアップしてきた小山選手にとって、このタトゥースのF3マシンはどんな感触でしたか?
小山:F4とは車重が大きく違い、タトゥースF3のほうが重いので、よりスムーズにマシンを動かしてあげないと姿勢が乱れます。F4はダウンフォースが効かないのでタイヤに頼った運転をしますが、F3マシンで発生するダウンフォース量を理解できていない部分もあります。
また、デフも入っていて、コーナリング中のコントロールも難しいと感じています。私を担当するエンジニアは欧州在住の方なので、今後さらにコミュニケーションを取って、協力しながらマシンの走らせ方を学ぶ必要がありますね。
――ラウジッツリンクでのテストの感触は?
小山:前回このマシンをドライブしたのがアルメニアの狭くて砂っぽいサーキットだったのに対し、ラウジッツはバンプが酷いですね。Wシリーズに選ばれたドライバーの多くは、(FIA-F4より)上のカテゴリを経験しているドライバーで、グリップが高まった時の攻め具合などに違いを感じますね。
私のようにダウンフォースがほとんど発生しないF4からステップアップしてくると、(タイヤの)グリップ力に頼ってしまいがちです。ドライバーの経験値によって走り方の違いが顕著に出たので、ラウジッツリンクを走って新たな発見がたくさんありました。
アルメニアの実車オーディションは、特殊なレイアウトのサーキットや路面コンディションだったこともあり、トップ3はいつも同じ面々でしたけど、今回のテストでは雨の日があったり、晴れたりするコンディションで、タイムシート上位の顔ぶれにも、ばらつきが出ました。
シーズンが始まってみないと、誰が強力なドライバーなのか明確にはわかりませんが、どんなコンディションでもコンスタントにタイムを刻むドライバーが数名いるので、彼女たちはつねにトップ5をキープすると思います。
――17~29歳の女性だけが集まり、控え室などもほかのレースとは違う雰囲気になっていますが、独特の緊張感はありませんか?
小山:あまり感じませんね。他のドライバーとは挨拶したり、話したりはしますが、自分のことを知られたくない、なめられたくないという思いもあるので、ほどよい距離感を保っています。
特定の人とだけ親しくなるような状況は作らず、あえて全員と同じ距離感で付き合っているんですよ。英語圏出身だったり英語が堪能な人たちは固まりやすいかもしれませんけど、英語があまり得意ではないと、そういった輪には入りづらいので、ある意味メリットかもしれませんね。
――Wシリーズに参戦する2019年はヨーロッパのどこかに居住しながらの活動になるのでしょうか?
小山:ホンダのサポートドライバーとして、FIA-F4選手権に参戦するので、日本とヨーロッパを往復する生活になります。ただ去年と一昨年は5つのカテゴリに参戦して、毎週レースがあるような生活でした。今年はF4とWシリーズだけになるので、移動はかなり少ないはずですよ。
――参戦資金等はすべて負担してくれるWシリーズは、ホテルや移動も全員が一緒になるのでしょうか?
小山:空港に集合して、バスやタクシーで目的地まで一緒に移動し、ホテルも同じです。レースは8月までの予定ですが、その後になにかイベントがあるかもしれません。
――Wシリーズでの目標は?
小山:シリーズチャンピオンを獲ること。それ以外に考えていません。まずは表彰台に立ち、毎戦3位以内をキープすることですね。
一戦ずつ勝利を重ねていくことも大事ですが、その先でチャンピオンになり、F1ドライバーになるための足がかりにする。そのために来ているので、がんばりたいですね。シーズンを終えた時にチャンピオンになれるよう、まずはいい開幕戦(5月3~5日のホッケンハイム戦)にしたいです。