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『キングダム』長澤まさみが魅せた凛とした強さ “アクション女優”に本格参入も?

2019年04月22日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 女優・長澤まさみが、遂に公開された原泰久による人気漫画を実写映画化した『キングダム』で、美しき山界の王・楊端和役でアクションシーンに挑んだ。その女性にしか出せない凛とした強さは、”かっこいい長澤まさみ”という女優としての新たな表情を見せ、今作の中で一番のハマリ役との呼び声も高い。


 今回、長澤まさみが演じる楊端和は、山の民を武力で束ねる美しき山界の王で、絶対的な強さとカリスマ性を持ったキャラクターである。だから、単に美しかったり、アクションがうまいだけではその役は成立せず、一瞬見ただけで感じる“最強オーラ”というのを纏わないと説得力に欠けるが、長澤はその期待に充分に応えている。


 今や国民的女優の一人として映画やドラマで大活躍している長澤だが、近年は、『銀魂』や『BLEACH』、『アイアムアヒーロー』といった、少年/青年漫画の実写化作品に出演することが多く、相性が実に良い。それはなぜなのか? 10代は『世界の中心で、愛をさけぶ』などで映画界のヒロインの地位を築き、女優の鬼門と言われる20代の終わりから30代にかけての大人の女性への変換期は、東宝シンデレラという映画界の申し子として王道から踏み外せない難しさもあり、一時期苦戦していたようにも見えていた。しかし、2011年の映画『モテキ』の体当たり演技から、どこか振り切れた演技をするように。今まで培ってきた長澤まさみという清楚なイメージが前提にあるからこそ、映画『銀魂』の志村妙役のように、面白やセクシー、脇役、そして年齢的に妻や母親役などにも挑戦するようになり、あの長澤がこんなキャラを演じるのかという振り幅が面白く、自然と大人の女優としての魅力を感じさせた。


 長澤の、役者として面白さや明るさを気取らずに出せる余裕は、最近の高評価にも繋がっているとも言える。2018年に映画『散歩する侵略者』で毎日映画コンクールの主演女優賞を受賞した時、「自分の可能性を自分で否定しないようにのびのびとやっていければと思います」と語っていたが、その演技に対する貪欲な姿勢こそが、漫画原作の分かりやすいキャラクターへの挑戦に繋がっているのだろう。


 『キングダム』の監督でもある佐藤信介監督の『アイアムアヒーロー』で、命からがら生きるために必死に戦うサヴァイヴアクションを熱演していた長澤だが、『キングダム』では、大勢の手下を従え、凛々しく絶対的強さを見せる戦(いくさ)のアクションとなっている。泥臭く血生臭い男たちの戦場で、女性ならではのセクシーさを見せながら、死をも恐れない達観した視線で、まるで映画『ワンダーウーマン』のようにバッタバッタと相手を切り裂いていくそのアクション。一目見て分かる、スタイルの良さと凛とした美しさがある長澤にしかできないかっこよさだ。また荒野や、マスクを付けた屈強の男たちの中に立つと、カリスマっぷりが実に映え、後輩俳優たちを相手にする演技は頼もしさを感じさせていた。


 今アクションを得意としている女優としては、清野菜名や菜々緒の名前が浮かぶが、楊端和というリーダー格のキャラクターを通して、長澤もそこに参入したと言えるだろう。30代に入った大人の女性らしい魅力と、前述したような女優としての長年のキャリアから滲み出るものは、山界の王が多くものを背負ってきた背景の深さとリンクするかのようだ。


 映画『キングダム』は、長澤だけでなく、吉沢亮や大沢たかおの存在感が改めて素晴らしく、この3人のこれまでとは違った魅力を感じるだけでも、見る価値のある映画となっている。中国有数の巨大撮影所・象山影視城で行われたロケでは、その時代の王宮セットがそのまま再現され、参加した制作スタッフ700人、兵士役エキストラは延べ10,000人が参加。
大作と呼ぶにふさわしい仕上がりとなった本作には、そのスケールに負けない実力を持った俳優たちが勢ぞろいしている。漫画原作という先入観がなくても、戦国絵巻として最高のエンターテインメントとなっている。その中で光り輝く長澤は、女優として更に上のランクへと駆け上ったと感じた。(文=本 手)


※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記。