メルセデスのトラックサイドエンジニアを務めるアンドリュー・ショブリンは、F1第3戦中国GP決勝レース中に実行したダブルピットストップ作戦は、チームにとって“有用な道具”だが、めったに使うべきではないと語った。
メルセデスが中国GPにおいて採用したこの大胆な戦略は、レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンが2度目のピットストップを行い、フェラーリのセバスチャン・ベッテルも続いてピットインしたことで発動された。
レースをリードしていたルイス・ハミルトンとバルテリ・ボッタスの両名がベッテルにアンダーカットされることを防ぎ、さらにハミルトンをボッタスの前で走り続けさせるため、メルセデスとしては2台同時ピットイン以外の選択肢はなかったのだ。当初、現場にこの戦略を提示したのは、メルセデスチーム代表のトト・ウォルフだった。
メルセデスの公式YouTubeチャンネル『Pure Pitwall』に投稿された動画のなかでショブリンはレースを振り返り、「ダブルピットストップ戦略を提案したのは、実はトトだった」と明かした。
「その案を、ジェイムズ・ボウルズとロン・メドウズとで検討した」
「チームのスポーツディレクターであるロンは、(ハミルトンとボッタスの)2台の差がピット作業を行う上で十分といえるかどうかを確認した。つまりピットクルーが2台を続けて作業し、2台分のタイヤをピットレーンに置けるかどうかということだ」
「最終決断をして、プラン実行のゴーサインを出すのがジェイムズの役目だ」
劇的なダブルピットストップの作業は、メルセデスのクルーによって完璧に進められ、結果的にボッタスがハミルトンに対してコンマ5秒をロスするだけで済んだ。
しかしショブリンは、この方法がリスクを伴うものであり、練習する際にレースと同じ状況を完全には再現できないものだと認めている。
「ダブルピットストップは練習が最も困難な作戦のひとつだと言える。まずマシン2台を使って練習することができないからだ」とショブリンは語った。
「ピットに入ったマシンがあるとする。タイヤを2セット続けて交換する練習はできるし、立て続けに2台分のピットストップも練習できる。だがピットボックスにマシンが飛び込んでくる状況を、完全に再現することは不可能だからね」
「例えば後輪担当のクルーは、1台目がスタートするときには下がって道を空けなければならない。それから2台目のピットインに備えたポジションを取ることになる」
「こうした一連の動作を決めるのはかなり難しい。もう少しまとめ直す必要がある。また、2台分のタイヤをピットレーンに置くことにも若干のリスクがある。正しいタイヤが正しいマシンに装着されなければいけないからだ」
「でき得る限り最大限の準備をして臨むべき作業だ」
しかし、ダブルピットストップ作業が限りなく効率化されたとしても、この作戦は考えられる選択肢が他に何もなくなった特別な状況においてのみ採用されるべきものだろう。
「どうしてもやらなくてはいけなくなるまでは、やらない方がいい。もし1台目のマシンで何か問題が生じたら、2台目にも影響してしまうからだ」
「それによって、それまでトップと2番手を走っていた2台が、一瞬で3、4番手に落ちてしまうかもしれない」
「つまり、いつでも実行できるような作戦ではないということだ。ただし、条件が整う限りにおいては本当に有用な戦略なので、チームの“道具箱”には常備しておきたいと思っている」